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『フタバスズキリュウ発掘物語』長谷川善和

国立科学博物館のフタバスズキリュウ骨格 リンク先は1200x358

フタバスズキリュウ発掘物語―八〇〇〇万年の時を経て甦ったクビナガリュウリンクはAmazonへ
長谷川善和
化学同人DOJIN SENSHO
2008.3.20
1470円

★★★☆☆

 国立科学博物館の日本館にはフタバスズキリュウの骨格展示があります。上に挙げたのはその写真。見学者の頭の上を長い首が横切ります。

 今回読んだ本はフタバスズキリュウの研究に携わってきた研究者の著作。発見から四十年を経てようやく新種・新属のフタバサウルス・スズキィとして記載され、正式な種となりました。当時高校生だった発見者の鈴木直少年も五十代ということになります。

 この本を読んで一番に感じたのは、フタバスズキリュウ発見当時の日本の古生物学の貧しさでした。当時はまだ日本で中生代の大型動物が見つかるなどとは考えられておらず、専門とする研究者もいなかったようです。『フタバスズキリュウ発掘物語』の著者も新生代の古脊椎動物の研究はしていても、発見された骨の様子を聞いてから資料を掻き集め、海外の論文と照らし合わせて手探り状態でクビナガリュウと判断したようです。1968年ってそんな時代だったんですね。今ならばちょっとしたマニアでも簡単にクビナガリュウであることくらいは同定できてしまいそうなのに。
 時代の状況がよくわかると同時に、欧米からもたらされる恐竜発見記とのあまりのスタンスの違いに「日本的だなぁ」などと思ってしまいました。
 例えば19世紀前半のメアリ・アニング。12歳でイクチオサウルスの世界初の全身骨格を見つけ、22歳でプレシオサウルスを発見します。読み書きも覚束ない貧しい家具職人の娘が英国の古生物学界をリードするのですが、その活躍が『メアリー・アニングの冒険 恐竜学をひらいた女化石屋』(吉川惣司)リンクはAmazonへという本になっています。150年後の日本の方が遙かに遅れているように見えるのは気のせいでしょうか。

 『フタバスズキリュウ発掘物語』は平易に書くよう努めた様子が窺える、丁寧な文章で綴られます。少しばかり行き過ぎて子供向けっぽい印象もあるかな。内容的には科学解説本そのものなので、文章から受ける雰囲気よりはやや大人&古生物ファン向き。難解ではありませんが、もう少し詳しく突っ込んだ解説があっても良かった気はします。恐らくは日本でもっとも有名な化石の、四十年分の研究の成果を見たかったな。化石骨をCTにかけて構造を調べたり、頭骨の内側の形から脳の構造を推測したり、骨格モデルに筋肉をつけて遊泳速度を推定したりはしなかったのでしょうか。国立科学博物館にはアーケロン(どデカい昔の亀)の標本がありますが、そのアーケロンや現生の海亀との比較はしていないのでしょうか。溝入りサポート付の腹肋でしっかりと籠状になった胸郭の強度を計算し、砂浜に上がって卵を産むことのできる体の強度があったか否かを計算してみたりはしなかったのでしょうか。印象で「魚食」「アンモナイト等殻付の獲物は無理」「陸上産卵不能」「変温」と挙げられますが、統計や組織構造面での証拠が出てこないのです。読んでいて少々歯痒くなってきます。直接、フタバスズキリュウ研究に携わった人の本なのに、と。

 楽しく読めたけれど、少しばかりもやもやの残る本でした。
 国立科学博物館に出かける前にこの本で予習しておくと頭骨の構造や腹肋の特徴が楽しく読み取れるはず。サメに襲われた痕跡はショウケースに納められた化石の実物から見て取れます。展示解説もしっかりついているので一目でわかりますヨ。

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