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『明治のお嬢さま』黒岩比佐子

明治のお嬢さま
黒岩比佐子
角川選書
2008.12.10
1575円

★★★☆☆

 鹿鳴館時代に子供であった、あるいは鹿鳴館以後に誕生した明治期の令嬢、とくに華族の令嬢を中心に「お嬢さま」の姿を浮かび上がらせようとした本。なのですが、少しもどかしい印象でした。
 明治という時代の説明。令嬢たちの通った華族女学校。『婦人画報』で紹介される華族令嬢たちの姿。華族の生活ぶり。当時の女性の「美」に関する感覚。皇室への輿入れ――。
 何かが足りないような。そう。当の“お嬢さま”自身の視点が、感覚が不明なのです。皇室へ嫁いだ鍋島伊都子の本人の手による記録があり、お嬢さま自身の言葉が紹介されますが、それ以外は基本的に当時の華族令嬢をとりまく環境の解説が中心です。
 巻末「おわりに」に

 明治という時代が始まったのが百四十年前。急速に近代化を進めていった日本の社会で、いわゆる「上流階級」の女性というのはどういう存在だったのか。歴史の中で、男性の姿は見えても、女性たちの姿はなかなか見えてこない。

黒岩比佐子『明治のお嬢さま』p.258

 と書かれているとおり、当時の等身大のお嬢さま像を再現できるだけの資料がなかったのでしょう。“お嬢さま”本人とは少し距離を置いた印象でした。
 男尊女卑の時代でもあったために当時の「蓄妾」や女性差別、自由とはほど遠い結婚などに対して通奏低音のように批判的な気配が漂います。共感はできるけれど『明治のお嬢さま』について知りたかったのであって、当時の男尊女卑的文化批判が読みたかったのではなかったんだけどな、と思ったのでした。
 百五十人もいる使用人、厨房から百メートルも運ばれてくる食事、大きすぎて公共建築物にしか思えないお屋敷。「へえぇ」と感嘆せずにはいられない当時の生活ぶりが資料から示されます。“お嬢さま”を取り囲んでいた時代と環境を知りたい方にお勧め。

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