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『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』福岡伸一

動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか
福岡伸一
木楽舎
1600円

★★★★☆

 面白かったです。

 この本のキーワードは“動的平衡”。タイトルそのままですが、内容をしっかり表している良いタイトルだと思います。「はしがき」には星新一的な小話。プロローグではベンチャー起業した恩師のエピソードから始まり、脳の働き、ヒトの体を構成しているタンパク質の話、とそれぞれあまり関係なさそうな話が続きますがそれらは実は“動的平衡”というイメージに向かって見事に収束していくのでした。

 文章は読みやすく、字組もかなり緩めなのでボリュームのあるハードカバーに見えてもさっくり読めます。でもその読みやすさがちょっと不満でした。『プリオン説はほんとうか?』では舌鋒鋭くプルシナーのプリオン仮説に反論を唱えていましたが、そこにはたぶん怒りという原動力があったのだと思います。科学としてのロジックを満たしていない研究がノーベル賞となって世界を動かしていることへの怒り、かな。『プリオン説は本当か?』の中での著者の主張には一貫した強い意志、力が感じられたのです。
 ですが今回読んだ本はとても穏和で紹介された知識やエピソードは「なるほど、いいな」と頷かされるのですが、新味は薄めでした。
 著者はデカルト的な還元主義の限界を指摘し“動的平衡”を説くのですが、一通り読み終えてその“動的平衡”をなんとかして還元的に記述する科学が待たれているのではないかな、なんて思ったのでした。生命現象は歴史と同じ一回きりの要素も多そうですし環境とも切り離せないので何から何まで数珠つなぎになりそうですが、その数珠つなぎっぷりを記述する科学があってもいいような気がします。不可能性を証明するのではないだろうか、という著者の見通しはちょっと悲しい。

 著者はライアル・ワトソンの『思考する豚』『エレファントム』 の訳も手がけたそうで、こちらも機会があれば読んでみようと思います。

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