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『少女民俗学』大塚英志

少女民俗学―世紀末の神話をつむぐ「巫女の末裔」
大塚英志
光文社文庫/カッパノベルズ
1997/1989

★★★★☆

 なぜ私は大塚英志の少女論関連の本を読んでいなかったのだろう。
 面白かったです。もっと早くに読んでいれば良かったと大後悔。

 1989年の本ですがまさにバブル真っ盛り。カバー袖には「オジサンになりたくない男のための必読書」なんて煽り文句があったりして「?」と思います。読んでみても男向けに限った内容には思えないのですがKAPPA SCIENCEというレーベル自体が男性読者を想定していたのかも。

 “学”なんて最後に付くのも逆にいかがわしい本に思えてしまいますが、読んでみれば〈少女〉という概念に真っ向から取り組んだ大まじめな本です。〈少女〉をテーマに1980年代のフィールドワークに取り組んだタイトル通りの“少女民俗学”。好奇の視線で時代の少女たちを取り上げ、晒し者にするようなテレビや週刊誌とは違う硬派な内容です。近代になって初めて成立した〈少女〉という概念の歴史をたどり、過去と現代を結びつけ、〈少女〉とは何かを浮き彫りにしようとします。

 感想は百合創作と絡めつつ。
 農業社会から工業社会、消費社会へと時代が移り変わり日本人は皆消費者の立場に回ってしまった。明治時代の女学生のように――。と導入される〈少女〉の定義で一次産業に携わらなくなってしまった日本人が〈少女〉的側面を強めていることを説きます。そして〈制服〉、〈変体少女文字〉、かわいい〈部屋〉、〈学校〉、〈リカちゃん人形〉、〈ポエム〉、〈朝シャン〉、〈噂話〉、〈おばあちゃん〉、〈男の子〉、〈卒業〉と〈死〉――と少女をイメージさせる記号を解説していきます。
 かわいらしいグッズで埋め尽くされた部屋と呪術を結びつけたり、朝シャンとケガレを結びつけたり、あるいは噂話を民俗に理由づけてみたりと柳田國男的なアプローチの香りが強くて「こじつけっぽい」「連想ゲームみたい」と思えてしまう章もあったのですが、百合創作という視点から読んだ私はコレダ!という手応えいっぱいの本でした。例えば〈学校〉という章では

〈学園〉の理想型を閉じた〈寄宿舎〉的空間に求めるという発想は、今日の少女まんがにも継承されている。萩尾望都は、「トーマの心臓」(昭和四九年)で、ドイツの神学校の寄宿舎を舞台にした作品を描いている。神学校であるから、主人公たちは少年であるが、いうまでもなく少女まんがでは〈少年〉とは〈少女〉の理想型である。「産む性」を拒否した第三の性である〈少女〉はもともとモノセックスな存在であるからだ。

大塚英志『少女民俗学』p.105より

 24年組万歳! そしてこの章を読んで思いだしたのが「BSマンガ夜話」の『青い花』特集でした。その番組の中で

(女の子の繊細な思春期の心を指して)それを女の子で描けるのがすごいなと思って。ぼくも読んでいて思ったのが、萩尾望都さんの漫画でトーマの心臓というものがあるんですよ。トーマの心臓の平成版だなと思って。トーマの心臓の頃は少女漫画家は少年という形に仮託してそういう繊細な物を描いたのだけれど、今は女の子で描いちゃうんだ

BSマンガ夜話 第38弾「青い花」
岡田斗司夫の発言より

という説明がありました。「繋がった!」と思った一瞬でした。オタキングを含めて漫画に詳しい人々の間ではたぶん当たり前のことなのでしょう。けれど少女漫画論にあまり触れてこなかった身には少女文化の繋がりがぱっと開けて見えた気がしました。「百合漫画はトーマの心臓の娘たちなんだ……」と。そしてトーマの心臓が吉屋信子の少女小説の純化であるとするならば、『マリみて』の吉屋信子との共通点を数えるまでもなく、百合漫画・百合小説は〈少女〉の血脈を受け継いだ末裔なのだと。BL漫画・小説がLGBT運動やフェミニズムとは一線を画しているように、百合は少年に仮託できなくなりつつある〈少女〉を再度少年から少女に移し直すことによって〈少女〉を描くジャンルなのかもしれません。百合は描く側も女性が多数であったり、LGBTへの理解や共感を持つ女性が多く携わっていたりと現実との接点も多そうなあたりがBLとの違いでしょうか。

 蛇足ながらこの本は百合姫で活躍している男性作家たちも勇気づけてくれるような気がします。〈少女〉というモチーフを描く文化は男性文化にもあるのですから。――とTwitterで百合漫画家たちの呟きを見ていてエールを送りたくなったのでした。

 あれ? 結局何が言いたかったのか自分でわからなくなってしまいました。

 刊行21年後の百合おたくの視点でも楽しい本でした、ということで。

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