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2010年4月の13件の記事

『Girlish Sweet アタシノ彼女』竹宮ジン

Girlish Sweetアタシノ彼女
竹宮ジン
白泉社
840円
2010.4.23

★★★☆☆

 同人原稿を元に描きおろしを三編加えて単行本化したもの。
 『百合姫』で知った作家でなぜ白泉社から単行本が出るのだろう、と思ったのですが『楽園 Le Paradis』に掲載作があるから、かな?

 収録作は確かに同人っぽくはあるのですが、それは絵が下手だからだとか、ストーリーがちゃちだとかではなく、商業だと表現しにくいような関係を描いていたから。どう表現すればいいんだろう。商業誌だと「ウケない」と判断されそうな関係のカップルが登場します。
 画力に関しては同人原稿だから、と心配する必要はなし。『百合姫』掲載作では確かに洗練されてきていますが、画力は『アタシノ彼女』の収録作でも十分固まっている感じ。安定してます。

 前半は『百合姫』に載っていても違和感のなさそうな短編が連なります。後半で野中と加藤のペアにフォーカスが当たりはじめたとたんにどーんとヘビィな話になるのがツボでした。『百合姫』で竹宮ジンを知った人には意外なはず。
 設定だけならもっと重い話もいくらでもありますが、読者を選んでしまいそうな空気が漂うのが同人としての本領発揮であったのだろうと思います。雰囲気はかなり違いますが、榛野なな恵の『ピエタ』を読んだ時に近い手応えでした。

 野中は加藤がいなければまっしぐらに転落していったのだろうなぁ。加藤、良い子過ぎて惚れるだろ、これ。天使か。

 こういう重たい関係の長編は現在の百合雑誌では難しいのかな。でも、こういうものを描く人はいてもいい。
 褒めてるのにが少ないのはいかにも読み手を選びそうだから。合う人には★★★★★五つ星だと思うのですが、合わない人にはとことん合わないと思います。実物の内容をチェックしてから買うのがお勧め、と言いたいところですが白泉社ではあっても配本は少ないようで店頭では見かけません。勧めたいけど勧めにくいっ。

 表紙はキャラ部分だけツヤツヤコートでぽこんと出っ張っている感じの印刷。表紙の下の本体の装丁もカラーでびっくり。

 巻末には『楽園 La Paradis』関係の宣伝が入っていたのですが、水谷フーカとか林家志弦とか沙村広明とか惹かれる名前が。

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『ひらり、』Vol.1

ひらり、
新書館
998円
2010.4.24

★★★☆☆

 「ピュア百合アンソロジー」がテーマであるらしい『ひらり、』。アンソロ形式ではありますが、どうやら『つぼみ』『comicリリィ』『百合少女』と同様、シリーズ化前提の刊行物であるようです。帯の惹句は「胸が切なくなるような女の子同士の友情とちょっぴり恋の物語12篇――。」。
 公式サイトには試し読みページもありました。
 内容も帯のコピー通り。路線的にはかつての『百合姉妹』『百合姫』に近く、ベッドシーンはなし。友情とちょっぴり恋、でした。小説も一本ありました。

 これはイイ。

 表紙の絵柄からして好みです。巻頭の水彩調イラストも良かった。掲載されていた作品もヒット率六〜七割くらいの感じで初購入モノとしてはアタリ。雨隠ギド、仙石寛子、前田ともが特に好みでした。
 次号予告を見ると「桑田乃梨子/高嶋ひろみ/湖西晶/ささだあすか/朝丘みなぎ/andmore」となっていて続投がすでに決まっている人はいないみたい? 毎号雰囲気を変えていく方針なのかな。

 『comicリリィ』や『百合少女』は同人っぽい雰囲気の作品中心でしたがこちらの『ひらり、』は商業誌的(商業誌だけど)な完成度でした。ストーリー的に「それちょっとちぐはぐじゃない?」という作品もあって多少の不安定さも感じます。が、「ピュア百合」という方針はストライク。「イケる!」という手応えがありました。
 印象の良い作品が多かったもののインパクトとしては弱めだったかな。『つぼみ』の創刊のときにも思いましたが一作でも「この本と心中する!」くらいにがつーんと来る作品が欲しかった。『百合姉妹』創刊のときには確かにそれがありました。百合漫画に慣れてこちらの感性が麻痺しかけているだけなのかな。

 ともかく、次号も購入決定。次は八月末だそうです。『つぼみ』も号を重ねて馴染んだように『ひらり、』もブラッシュアップされ、読み手としてのこちらの感性も変わっていくことでしょう。楽しみ。

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Mac mini その5・Macのいいトコ

 “Mac信者”なんて呼び方があるらしい。Macの熱狂的なファンのことだ。デザインの良さを主張しApple製品ならなんでも褒めずにはいられず、度を過ごして鬱陶しがられたりする、らしい。

Hello World Mac miniを買って一月。“信者”の気持ちがちょっとだけわかった気がする。

 Macを使って良かったと思わされたのは純正のアプリの楽しさ。標準装備のアプリはけっして多機能じゃないけれど、使い勝手が練られていて新しいことを始めるのが楽しいのだ。できることは限られていてとてもシンプル。たとえば動画。「画面操作録画ムービーとかどうやって作るんだろ。QuickTimeでキャプチャしてiMovieで編集すればいいんだ。へー。あ、Youtubeへの公開までiMovieで面倒見てくれるんだ。おもろい!」。こんな感じ。自家撮影のムービーも同じようにあっさりいじれてしまう。画面のクリップや切った貼ったが楽しい。画質の調節とかはまだよくわからないけど、とりあえずできた。
 Windowsでだって同じことはできるし、もっと細かく手を入れられもするのだけれどとりあえず見られるムービーを作るだけで一苦労で楽しくなる前に嫌になってしまったことを思い出した。iMovieはそういう躓きやすいところを乗り越えさせてくれる作りらしい。
 といってもパソコン初心者が何でも出来ちゃうわけじゃない。どんな操作をするとどうなるのか、というのが予想しやすいので新しい何かに取り組むことが億劫じゃなくなるだけ。でも、これがパソコンの作業を「うんざり」から「わくわく」に変えてくれる気がする。メールや写真アルバム、音楽、予定表のような他の機能でもそれは同じでWindowsやLinuxになかった“使い勝手”をデザインする文化がMacにはあるようだ。

 お洒落なデザイン? 確かにお洒落な部屋に置いても見劣りしないだろうけれど、それだけ。パソコンそのものがお洒落で部屋を洗練してくれるようなものじゃない。使ってる人がお洒落になるわけでもない。Mac OS XだってOS自体は特別なところはほとんどない。控えめで裏方。スマートなアプリを実現するための仕掛けを持っているくらい。クールなのは純正アプリを使ったときの楽しさに尽きると思う。
 逆にいえば純正以外のアプリはWindowsアプリと大差がなかったりする。一応、Macアプリらしく見た目も操作感も統一されてはいるけれど、試してみた限りのオンラインソフトはWindowsとあまり違わない。見た目で凝ったものはあるけど、Apple純正アプリのような使い勝手そのものをデザインしたアプリにはまだ遭遇できていない。
 Macの魔法が及ぶ範囲は狭いようだ。

 でも、魔法圏内ではMacは理想に近いパーソナルコンピュータだと思う。出来の良い万年筆や手帳に似た文房具の一種なのだな、とこの一月でMacのイメージを更新した。

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『スリーピングビューティーの見た夢』四ツ原フリコ

スリーピングビューティーの見た夢
四ツ原フリコ
一迅社百合姫コミックス
2010.4.17
900円

★★★★☆

 一迅社コミック大賞の百合姫部門を受賞した四ツ原フリコの初単行本。
 百合姫に掲載された受賞作、印象が強かった。少女漫画系のタッチでシリアスだけどバイオレンスなノリもあったり。単行本になってあらためて読み返してみてもインパクトがありました。バイオレンスな演出は表題作のみですが。

 単行本では百合姫掲載作四本と、記憶喪失になったヒロインの話「白紙」の続編が描きおろしとして収録されていました。あとがきには作者コメントとエッセイマンガ。表紙したにも四コマと雑誌購読者にも嬉しいフル装備でした。収録作では「20,21」と「白紙の続き」が好み。
 同日発売の『百合姫』Vol.20に掲載されていた同作者の最新短編は「好きだけど受け入れられない」という二律背反をクローズアップしていて私的に好物ネタ。

 作者はこの先どんな漫画を描く人になっていくのだろう。楽しみ。

 生徒会シリーズが他にもストックがあったはずですが、それらはまたの機会なのかな。

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『コミック百合姫』Vol.20 2010 SPRING

コミック百合姫 VOl.20 2010 SPRING
一迅社
2010.4.17
880円

★★★★☆

 ここ数号の『百合姫』、褒めてばかりいるような気がします。
 今号も面白かった。
 一番印象に残ったのは森島明子の「レンアイ女子課」ハニー・マスタードの三十路ペア。絵としては特別際どかったりするわけではないのですが、もうページのあちこちからフェロモンが濃厚に立ちのぼっていてぐっと来ました。睫毛も濃厚。
 百合姫初登場はタアモとさかもと麻乃の二人。どっちもイイ。タアモは巻頭カラーのインパクトがあった。お話も可愛らしかった。少しゆっくりペースで読むとぐっと来た。関西弁の語感が感じられるようなフォントでセリフ植字すれば良かったのに、とちょっと惜しく思ったのでした。さかもと麻乃は『リスランタンプティフルール』より切れの良いお話しで好感。こっちのさかもと麻乃のが好きだぞ。演劇!という雰囲気がばっちり。どっちの作者もまた読みたいな。
 青木光恵のはおかん属性百合かな。百合姫では珍しい感じ。さばさばとした開けっぴろげなキャラは身近で日常の中にいる女の子のような。ケータイ小説の読者層を引っ張ってくるとすごくハマりそう。
 連載陣で一番衝撃を受けたのは「ヒメコイ」。理事長のドロワースに思わずときめいてしまった。不覚。
 ピンナップには百合姫では久々の森永みるく。森永みるくは『Girl Friends』の三巻くらいからかな、カラーイラストのインパクトが上がった気がする。

 次号では隔月刊化の発表があるそうです。って、すでに隔月刊化自体は予告でわかっちゃってるのでは、とツッコミ。

 同日発売のコミックスでは『南波と海鈴 3』『紅蓮紀 3』も。『南波と海鈴』は長く続いてきたそのテンションのままさっくり終了のようでちょっともったいない感じ。『紅蓮紀』は1巻から読み返してみると怒濤の盛り上がりっぷり。

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一迅社文庫大賞アイリス部門一次選考結果発表

 応募していた第1回一迅社文庫大賞アイリス部門の一次選考結果が発表になりました。4月20日発売のアイリス文庫にサイトでの発表があるとの誘導がなされておりました。

 落選でした。

 正直なところショックです。一次選考は通るだけの物を送ったと思っていたので。

 私は基本的に原稿の使い回しはしない方針なのですが、今回アイリスに送った百合小説『黒百合館の惨劇』は気に入っていた部分も多く、改稿して別のところに送ってみたいと思います。ですが「一次は通る」と自信があったものだけに何か根本的な思い違いをしていそうな気がしてなりません。そこで

求む:藤あさやの思い違いを見つけてくださる方

 批評家のような細かな評価でなくてもけっこうです。読み続ける気にならなかったとか、そんな反応で構いません。

 改稿後の投稿も予定している原稿なので無制限の公開ではなくメールでお申し出いただいた方のみに限らせていただこうと思います。藤あさやの原稿を読んでやってもいいよ、という方、いらっしゃいましたら

までその旨連絡いただけると幸いです。

 現時点で改稿を予定しているのは

  • 百合度が薄い
  • 主人公の影が薄い
  • 主人公とカップリングされるキャラの影も薄い
  • 終盤の展開

といったポイントで構成面にも手を入れる予定です。改稿後の応募先は未定です。

4/21朝追記

 昨晩のうちに読んでくださった方が現れ、重大な指摘をいただき青ざめ中です。一番の問題点は既存作と丸かぶりしていたらしいこと。ありがちな話を書いたつもりではあったのですが、丸かぶりではどうにもなりません。参ったー。

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『心をつくる』クリス・フリス

心をつくる―脳が生みだす心の世界
クリス・フリス
岩波書店
2009.5.28
2730円

★★★★☆

 冒頭を読んでくすりと笑ってしまいました。「心理学はまともな学問とは思ってもらえない」というエピソード、他の心理学者の本でも読んだことがあったので。心理学者たち共通のちょっと自虐なジョークなのでしょう。CTやMRIが登場する前だと冗談にもならなかったかもしれません。

 最初はこの本もよくある脳研究の事例紹介――人の行動と脳の障害を関連づけてみせたり、非侵襲的観測による脳の機能の局在を解説するのだろうと思っていました。実際、半分近くまでは確かに“よくある”パターン。ところがベイズの定理が登場して印象が一変しました。認知と行動という臨床の視点に情報処理という考え方が加わったのです。それ自体は脳科学の研究では珍しいことではなさそうな気はするのですが、この種の解説本で情報理論的なアプローチは新鮮でした。これは面白い! その後に紹介される“世界モデル”も「なるほど!」と膝を打つのですが、違和感なく納得させられたためか読み終える頃には当たり前のことに思えてきます。私は最初からこんな考え方をしていたのではないだろうか、と。何か魔法でもかかっているかのような本でした。心理学者の書いた本だから?

 読んで面白かったし、説得力もある本でした。おすすめ。

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『Uボート戦士列伝―激戦を生き抜いた21人の証言』メラニー・ウィギンズ

Uボート戦士列伝―激戦を生き抜いた21人の証言
著:メラニー・ウィギンズ 訳:並木均
早川書房
2007.4.25
1995円

★★★★☆

 第一次世界大戦のUボートについて調べたかったのですが適当な本が見つからず、図書館にあったこの本を手に取ってみました。有名無名とりまぜて21人のUボート乗りの――艦長が大半だけれど一兵卒によるものも含めた第二次大戦の記録です。バルト海、大西洋、地中海、アフリカ周辺、インド洋。対艦戦闘ばかりでなく、同盟国であった日本との関わりや捕虜となったUボートのエース艦長を脱走させようとする作戦、あるいは捕虜生活について綴ったものなどUボート乗員の様々な体験を記録しています。必ずしもドラマチックではありませんし、時には退屈な話もありますが、ドイツの潜水艦乗りが次第に傾いていく戦況の中でどう戦ってきたのかを知ることができる本でした。緒戦は“海の狼”であったUボートも最後には狩られる側に回り、東部戦線でソ連が大反攻に転じて以降は難民輸送船にまでなる始末。さらにはドイツの敗北に直面しての自沈や投降。
 面白い、というような種類の本ではないけれどドキュメンタリとして多彩な声を集めた良い本であるように思います。

 第一次大戦当時のUボート戦についても知りたいのだけれど、どんな資料からあたれば良いのだろう。『Uボート総覧』という本があるようなので次はこれに当たってみよう。

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『NOVA1』大森望編

NOVA 1---書き下ろし日本SFコレクション
大森望編集
河出文庫
2009.12.4
998円

★★★★☆

 SF短編をあまり見なくなった、との編者の巻頭言に「そういえばそうかも」と思い読んでみました。原稿を寄せたのは伊藤計劃、円城塔、北野勇作、小林泰三、斉藤直子、田中哲弥、田中啓文、飛浩隆、藤田雅矢、牧野修、山本弘。確かにSFって感じの顔ぶれです。

 通して読んだ感想は「面白かった」です。と同時に「SF、病み加減かな」なんて思ってしまいました。

 SF的な尖り具合は円城塔、飛浩隆の二者が目立っていたかな。円城塔、飛浩隆と牧野修は神林系SF――言葉をテーマにした被書空間的なお話でした。北野勇作、小林泰三、藤田雅矢、山本弘、斉藤直子はそれぞれ楽しんで読めたけれど「ぐっと来る」ところまでは来ず、田中啓文は『ヤマト』パロディで楽しくはあってもすっきりせず。田中哲弥は苦手な作風でした。伊藤計劃は長編の冒頭部で絶筆となったものを収録してます。SFMagazineやSFJapanを一冊買うよりは楽しく読めた気がするのですが「はっはー、これがSFだぜぇぇぇ!」と高く拳を突き出せるほどの自信には欠けていた気がします。読んでいる側の私の感性が鈍磨していただけかもしれません。中高生の頃に読んだSFにはもっと何かわくわくするものがあった気がするのですが。

 なんとかしてそのわくわくを自分の手で掴みたいゾ。

 上で「病み加減」と書いたのは変化球が多かったから、かな。「これがSF」というわかりやすくバーンと来るものがなくて、常人の感覚から外れていることをひけらかす話ばかりであった気がします。それは確かにセンス・オブ・ワンダーですが、人格障害のようなキャラや時間軸の撹乱に「これがSFなのかな」とすっきりしないもやもやを感じます。でもなんでもやもやしてしまうのかが私自身にもわからないもどかしさ。

 『NOVA2』の準備も着々と進んでいるようです。次も読んでみよう。

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『電子書籍の衝撃』佐々木俊尚

電子書籍の衝撃
佐々木俊尚
ディスカヴァー携書
2010.4.7(デジタル版) 2010.4.15(紙書籍版)
★★★★☆

 電子書籍ってなんだ? 実際どうなの? という疑問に答える一冊。デジタル版で読みました。

デジタル版を購入してみた

 Kindleが日本でも買えるようになってしばらくたちますしiPadももう間もなく。既存の出版社が寄り集まって日本電子書籍出版社協会の設立なんて動きもありました。世の中では電子書籍が注目されているみたい?と周囲をきょろきょろしてしまいます。
 そんな中でタイムリーなタイトルの登場。紙版に先行してデジタル版が110円でダウンロード販売キャンペーン。読んでおかねば、と早速D21の電子書籍書店へ行ってみました。

「電子書籍の衝撃」を表示してみたところ え……。T-Time使うの?

 かなり年季の入ったビューワソフトです。T-Timeをダウンロードしようとして「やっぱり」と思いました。Windows版もMac版も2005年からバージョンアップしていません。インストールしてみればT-Timeは昔と同じ、買い物のできない単なる電子書籍ビューワ。見映えも使い勝手も古めかしい。「iPadやKindleの本格上陸を目前にして、電子書籍について論じる本の媒体でもこれか」とがっくりきました。
 パソコンは見限ってiPhoneにターゲットを切り替えたということでしょうか。iPhone版もiTuneのようなショップとローカルの境界をなくしたアプリではなさそう。表示も横書きのみだそうです。
 webブラウザで落としてきたファイルは“dis8875****.book”なんてファイル名でデスクトップ検索からは書名や著者名で検索しても探し出せません。ユーザにいちいち書名や著者名でファイル名をつけ直させるつもりなのでしょうか。手元の電子書籍が数百冊を超えたときには「電子書籍についての本、買ったよな。確か『コンテキスト』を強調してた本」とT-Timeやらブンコビューワやらを起動して捜しまわらねばいけないのでしょうか。この問題はKindleでも起こりそうです。ePubもDRMのついたものはデスクトップ検索させてくれなさそうな予感はします。

 電子書籍販売と言っても今はまだ古いシステムを利用せざるを得ないということなのでしょう。表現力そのものはさほど不足はないのですが『電子書籍の衝撃』を買ってみてもD21で他の電子書籍を買ってみようとは思いませんでした。類書へのリンクもユーザーレビューもない書籍紹介ページ、トップページに平台ひとつ分が並べてあるだけのネット書店で誰が二度目の買い物をしたいと思うのでしょう。Zaurus文庫やパブリと変わるところがありません。
 『電子書籍の衝撃』の内容に沿うならば「コンテキストがない!」し、『電子書籍の衝撃』中であげつらわれていたビジネス系の自己啓発書ばかりが新刊コーナーに並んでいます。

内容

T-Time Mac版で縦書き表示させてみたところ 横書き部分のベースラインがいまいちバランスしていない 読み始めて三分の一ほどまではネガティブな印象でした。Kindleのパッケージを開けてみたときの印象描写はどうも自己購入組ではなさそうな記述。しかも「まともな電子ブックリーダーの第1号は、アマゾンのキンドル」などと書かれていて、ΣBookやLIBRIe世代はなかったことにされています。(半ばほどで“失敗例”として取り上げられていた)
 そんな印象のまま読み進めることになったのですが、読み終えてみれば満足できました。電子書籍を取り巻く環境についてこれが知りたかったんだよ!という要素がわかりやすくまとめられています。

T-Time Mac版の箇条書き処理 普通の行と同じ 印象に残った内容をざっと列挙してみると……。

  • 電子書籍界の現状
  • プラットフォーム戦争
  • 日本の電子書籍の二度にわたる失敗
  • AmazonDTP
  • マスモデルの崩壊
  • 音楽産業をモデルにした電子書籍産業の見通し
  • 日本の書籍産業の問題点
  • “コンテキスト”が握る電子書籍流通
  • ケータイ小説の位置づけ

 電子書籍関連の話題を追っていた人であれば目新しいオリジナルな情報は少ないはずですが、電子書籍と出版界隈の知識を広く集め、先行したデジタル音楽の事例と対比させてうまく再構成しています。業界を俯瞰する視点も納得のできるもの。九日の朝にダウンロード購入し、夜には読み終えてしまいました。文句なしに面白かったし、頭の中を整理させてくれました。良い本です。
 ただし、著者が独自に直接取材した情報は一つもないように思えました。ネットや既存書籍からの情報を集めて再構成したものと思います。

 この本の中では“マイクロインフルエンサー”という言葉が登場します。ネットでは“ハブ”なんて言われ方もしているかも。先端の情報に触れて「これが面白いよ、すごいよ」と周囲に発信する小さなコミュニティの中心的人物のことです。どうやらこの本の電子書籍版が紙版発売に先立って110円で売られていたのはそんな“マイクロインフルエンサー”的な読者を求めてのことなのでしょう。

 よろしい。ならば私も“マイクロインフルエンサー”になる試みをしてみよう、というわけで早々と感想を書いてみました。

 もちろんベタ褒めだけの内容でもありません。

  • (前述の通り)Kindleのファーストインプレッションには違和感
  • 直接取材で得た内容が見当たらない
  • ロングテールビジネスの範とされるAmazonをマスビジネス側として扱っている
  • “コンテキスト”の例がマイクロ過ぎて「ホントに効果あるの?」
  • 書籍産業そのものの規模の小ささに無言及
  • 内容がこの本を売っていた電子書籍店舗への強烈な皮肉になっている

 一点。Amazonをマスビジネスとして扱っているという点。
 AmazonDTPの項で同人的な少部数出版が可能になることを取り上げますし、著者ブログを見ればAmazonの重度の利用者であることもわかるのに、なぜかこの本の中ではAmazonはベストセラー本を主力に販売しているかのように扱われています。Kindle Storeではそういう売り方をしているのかとざっと米Kindle Booksを眺めてみましたが、古生物ジャンルの本はかなりのタイトルが揃っていて“Frequently Bought Together”(合わせて買いたい)も“Customers Who Bought This Item Also Bought”(この商品を買った人は〜)も十二分に機能しているように見えました。これならばロングテールビジネスは健在です。「レビュー」や「合わせて買いたい」「この商品を買った人は〜」というAmazonの仕組みは著者が言う“コンテキスト”にとても近いように思うのです。マスマーケットと“コンテキスト”の双方に対応しているのがAmazonなのではないでしょうか。

蛇足

 『電子書籍の衝撃』を読んだその日、文体診断ロゴーンなるものを知りました。形態素解析で小説の特徴を分析するお遊びツールです。

 これ、使える。

 そう思いました。書籍がデジタルで流通するならばその内容をロゴーンのような分析にかけておけば良いのではないでしょうか。文法的な特徴のみではなく、使われている単語についても統計を取っておく。そのデータを過去の既刊販売データと照らし合わせればおそらくは発売前の読者のまだいない本についても自動的に“コンテキスト”のある棚を作れるはず。きっとAmazonはそれをやってきます。iBook Storeもやってくるでしょう。

最後に

 今のうちに読んでおくべき本です。Kindle BooksやiBooksの日本語展開が始まってから読んだのでは意味が薄れてしまいます。作家やワナビは読んでおいた方が良さそうです。作中で解説された“フラット化”とは依るべき大樹がなくなることでもあります。AmazonDTPで出版の垣根下がることは同時にワナビにとってははっきりとした道標が見えなくなる荒野(フロンティア)の出現ともなる、と怖くなりました。そんな荒野を自力で開墾できる書き手が活躍する時代が訪れようとしているのでしょう。衝撃よりも、やはり、という思いを強くしました。
 出版業界の人であれば――今この本を読んで衝撃を受けているようでは相当にマズイ気がします。電子書籍そのものの動向については私のようなワナビでさえ(不正確で断片的ながら)ほぼ既知の内容でした。

 この本を読むきっかけになったのは「たぬきちの「リストラなう」日記」様の『電子書籍の衝撃』紹介記事。現役の出版社社員がリストラに応じてからの日々を綴っているブログでとても興味深いです。

関連リンク

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桜・豪徳寺

豪徳寺正門前

 六日の昼に豪徳寺を覗いてきました。上の写真はちょっとインチキして電線を消したもの。大雑把にやったので梢がぼやけちゃった。

桜と鐘 枝垂れ桜はもう完全に散っていてソメイヨシノが花びらの絨毯を作っている真っ最中。

 招き猫たちは豪徳寺純正モノばかりになっていて写真的には少し寂しかったので鐘+桜。招き猫の奉納所のところにあるのは八重桜で招き猫たちが桜の花びらをかぶるのはもう少し先です。

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青空文庫と電子書籍

 青空文庫に動きがありました。

青空文庫 組版案内

 青空文庫で使われている注記形式の解説を改めて行い、XHTMLへの変換スクリプト配布を始めたようです。XHTMLというのはwebブラウザ用に作られた規格だけれど、ePubという世界共通の電子書籍フォーマットにも使われているもの。htmlファイルだけだとパッケージとしてまとまりが悪いのでcssや画像、セキュリティ機能も含めて単一ファイルに固めましょう、というのがePubであるようです。

 今回の「青空文庫 組版案内」ですが目新しいタグがいっぱい。

  • [#ここから○字下げ、折り返して●字下げ]
  • [#ページの左右中央]
  • [#「○○○○」は中見出し]――見出しレベルに「大」「中」「小」ができた
  • [#「○○○○○」は同行見出し]
  • [#「○○○○」は窓見出し]
  • [#「○○」は太字]
  • [#割り注]
  • [#「○」は行右小書き]
  • [#「○」は上付き小文字]
  • [#「○」は下付き小文字]
  • [#ここから○字詰め]
  • [#ここから罫囲み]
  • [#ここから横組み]
  • [#「○○」は●段階大きな文字]
  • [#本文終わり]

 このあたりが新しそう……とピックアップしてみたら青空文庫側でも変更点を列挙していました。
 これは……一挙にXHTMLで表現可能な部分を網羅したかも。あとは均等や密着の文字割付けが採用されれば一太郎のような日本語ワープロの表現力をおおむねカバーしてしまいそう。Ruby変換スクリプトでXHTMLの例が示されているのでwebブラウザベースの青空文庫ビューワとは相性が良さそうですが、「扉」や「smoopy」のような老舗青空文庫ビューワを全タグに対応させるのは大仕事の予感。
 テキストエディタで書くのが煩わしい仕様になりつつあって、青空文庫からJustsystemsに「一太郎に青空タグ出力つけてください」と働きかけて欲しいくらい。[#字詰め]と[#字下げ]注記の違いとかけっこうムズいです。bearing

 青空文庫2.0? 3.0?とでも言えそうな展開です。

 海外から訪れようとしている電子書籍の大波は青空文庫も動かしたようです。
 タグがちょっとややこしくなりましたが、青空文庫形式のタグで小説テキストを公開している身には表現力が増したことは嬉しい限り。近い将来にはePubか青空文庫かで自作を公開する小説同人が増えることになるのかもしれません。Nikkei BPの記事によると青空文庫側はそれを期待しているようでもありますね。

 青空文庫形式タグの魅力は日本語テキストのマークアップ言語であること。WYSIWYGの組版環境がなくてもテキストエディタひとつでZaurusでもiPhoneでもケータイでも超漢字でもWindowsでもMacでも同じ原稿を変換なしでいじれるのです。もっともXHTMLを採用したePubも近い特性を持っていて、かつ世界共通フォーマット。

 どうなる、日本語電子書籍。

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Macでwikipedia-fpw

 Mac OS X 10.6におけるwikipedia-fpwによる数式入Wikipedia EPWING版作成のおおざっぱな手順の紹介です。オフラインでWikipediaを使うためにEPWINGという汎用形式に変換します。

概要

  1. Xcodeの導入
  2. ImageMagickの導入
  3. mimeTexの導入
  4. freepwingの導入
  5. wikipedia-fpw

用意するもの

EPWING版Wikipediaを作る

1. XCodeの導入

Mac OSXのインストールDVDからオプションのXCodeなる開発環境を導入します。インストール後はappleソフトウェア・アップデートも。

2. ImageMagickの導入

 おそらくこれで多くの人が引っかかるはず。Perlオプション付ImageMagickのSnowLeopard対応がまだ不完全なようでImageMagick公式サイトから落としたバイナリでは動作しませんでした。MacPortsからImageMagickを導入します。

MacPortsの入手

 The MacPorts ProjectからMac OS Xのバージョンに合わせたMacPortsを入手します。

MacPortsのインストール

 ダウンロードしたパッケージを普通のアプリのようにインストールし、ターミナルからPortのリストを最新にします。

$ sudo port -d selfupdate
$ sudo port -d sync

 これでMacPortsが使えるようになりました。環境変数などは自動的に設定されていました。

ImageMagickの導入

 freepwingのコンパイルより先にImageMagickの導入を済ませておきます。

$ sudo port install ImageMagick +perl

 Portsの導入には少し時間がかかります。

 シンボリックリンクを張ります。MacPortsで導入したPerlとOSXの標準のPerl環境が違うためです。WikipediaのEPWING版作成以前にPerl環境を整えていた方にはお勧めできません。

$ cd /usr/bin
$ sudo mv perl perl.bak
$ sudo ln -s /opt/local/bin/perl /usr/bin/perl

3. mimeTexの導入

 mimeTexの配布元からmimeTexのソースを入手します。適当なところに展開し、

$ cc -DAA mimetex.c gifsave.c -lm -o mimetex.cgi
$ chmod 755 mimetex.cgi (たぶん不要。最初から実行属性がついていた)

でmimetex.cgiができます。

4. freepwingの導入

 FreePWINGを入手し適当なところに展開しコンパイルします。

$ sudo -s
$ ./configure
$ make
$ make install

5. wikipedia-fpw

 wikipedia-fpwの配布元から入手します。適当なところに展開し、wikipedia-fpw.confファイルを編集します。数式を表示できるようにするなら

'enable_math' =>

 を含む行を見つけ出し

'enable_math' => 1,

 と指定します。さらに

'mimetex' => 'mimetex.cgi',

 という行を見つけ出して上でコンパイルしたmimetex.cgiのパスを記述します。たとえばmimetex.cgiのフルパスが/user/aaa/mimetex/mimetex.cgiであれば

'mimetex' => '/user/aaa/mimetex/mimetex.cgi',

 といった具合です。行頭に#のない行です。wikipedia-fpw.confでオプションを指定することで好みのパッケージを作ることができます。

 Wikipedia最新版ダンプ置き場から落としたjawiki-latest-pages-articles.xml.bz2を展開し、ファイル名を wikipedia.xml に変えてwikipedia-fpwを展開したフォルダに置きます。

$ fpwmake

 変換には数時間かかります。うちのMac mini(C2D 2.26GHz mem2GB)では20100328のwikipediaデータで四時間ほど要しました。

$ fpwmake catalogs
$ fpwmake package

 ここまでに問題がなければカレントフォルダに wikipedia*******.zip というファイルが出来上がっているはずです。

 fpwmakeはカレントに途中生成物が半端に残っているとエラーを出します。fpwmakeの再実行をするときにはカレントフォルダ内とworkフォルダに作られたfpwmakeコマンド投入後に作られたファイルを削除してください。

 作成したHONMONファイルを圧縮するならEB Series on MacにMac用圧縮ツールEBShrink for Macがあります。

 上記作業手順は様々な手順紹介サイト様を真似させていただいたものです。

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