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『天体の回転について』小林泰三

天体の回転について
小林泰三
ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション
2008.3
1785円

★★★★☆

 百合漫画の感想ばかりが続いているので気分転換でSF物のレビューなど。

 高い文章力にしっかりした科学・技術知識。ぱっと読んだ文章はあまり理系臭くないのですが内容的には理系SFのスタンダード短編集でした。
 以下の感想では評価は辛め。悪口もいっぱい並べているもののトータルとして楽しめたのは確かです。

天体の回転について

 面白かった。
 軌道エレベータによる宇宙旅行案内。
 この作品が書かれた2005年の時点では軌道エレベータはあまり注目されていなかったけれど、でも、SFネタとしてはかなり陳腐化してしまっていた気もする。正直、なんで?と思った。
 科学とは無縁に育った主人公を配し、速度、加速度、コリオリ力、万有引力といったニュートン物理の基礎解説を交えた宇宙旅行を描いてみせる。
 でもこれ、やっぱりコペルニクスの本と同じタイトルを冠して表題作にするような話じゃないよなあ、とは思ったのでした。

灰色の車輪

 読ませるという意味ではとても楽しく読めた。けれど、やはりアイデアとしてはあまり新しいところが感じられなかった。アシモフの描いたロボットシリーズの二次創作の範囲に感じてしまいました。

あの日

 あまり新しさが感じられなかった。ミステリ、という意味ではうまいし読んで楽しかったけれどSFのアイデアとしては陳腐な気がします。

性交体験者

 冒頭の電話のシーンで「もしかして」と設定が思い当たり、読み進むにつれて「やっぱり」と。乱歩時代に書かれていそうな話だと思ったし、漫画でも同じような設定の話はいくつも読んだ気がする。楽しく読ませる筆力はイイ。

銀の船

 火星の人面岩ネタ。これもチープというか安っぽいというか。掲載が光文社の「異形コレクション」の一作と言うことで納得。出発点がSFではなくて怪異ならばこれも悪くない。SFMにこれで載せたならムッと来たんじゃないかな。

三〇〇万

 執筆時期的にも映画の『300』の宇宙版というかパロディとして書かれたものだと思います。スパルタ! センス・オブ・ワンダーとかうだうだ言わずに楽しく読むべきなのだと思うし、実際楽しく読めました。

盗まれた昨日

 アイデアはシンプルで古典的だけれど読んでいて「え?、え?」と混乱してくる面白さがとても良かった。明確にセンス・オブ・ワンダーがあったと思う。

時空争奪

 時空を川の流れにたとえて解説する秀作。面白かった。これはイイ。この話のためだけにこの本を読んでも損をした気にはならないと思う。でも一点。クトゥルフネタはこの話の流れで出すとすごーく投げやりに見えてしまう。宇宙人の良い設定を思いつかなかったので適当にネタ拾いました、みたいに思えてがっかりしてしまいました。

 どれ一つとして読んでいて「つまらない」と思わせる話がなかったのはさすが。でも会心の一作と感じられた話もなかったのは残念。もっとずっと面白いものが書けそうな作者だと思うのです。

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