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『科学哲学』サミール・オカーシャ

科学哲学
著:サミール・オカーシャ 訳:廣瀬覚 解説:直江清隆
岩波書店
2008.3.25
1575円

★★★★☆

 どこで見かけたのか忘れてしまったのですがしばらく前に「最近の科学哲学は斉一性に否定的」というニュアンスの言葉を見て「何か革命的な哲学の転換でもあったのか」と入門書を探して読んでみたのがこの本でした。斉一性というのは科学の基本で、物理法則は誰がどこで試そうと同じように再現されるというもの。この科学の基本が否定されると工業社会は拠り所を失います。パソコンや自動車を作ってみても必ずしも動かないかもしれないのです。

 ところがこの『科学哲学』を読み通してみても私が学生の頃に読んだ科学哲学の本とあまり変わっていませんでした。斉一性は根本のところで保証されてはいませんがそれだけで、斉一性を否定するような科学の成果があって哲学に大きな転換が起きたわけではなさそう。断片になっていた言葉を誤解してしまった模様。「な~んだ」とがっかりしましたが、久しぶりに触れた哲学の本は思ったより楽しくて十分な収穫だったと感じました。

 この本は哲学に関心のある人よりも科学に関心のある人向きではないかと思います。大学で理学や工学を学んで理系の基礎メソッドを一通り体験した後に読むと、当たり前のように吸収したはずの知識の根本が揺らいでしまうことにくらくらできて楽しいはず。研究に用いるロジックが知らないうちに哲学の中の一派の考え方を採用していることに気づき「はて、自分はこの考え方のままでいいのだろうか」と不安になれるのではないかと思います。科学の訓練を受けた人こそ、哲学によって突きつけられる科学のあやふやさにリアルを感じられるはず。
 一応、念押ししておくと反科学――スピリチュアルや創造論の擁護じゃありません。人類の持つもっともまともな論理体系である科学でさえ、という感慨が得られると言うことです。

 科学の定義、科学の用いる方法論、科学的説明と次々と科学の足場の見直しを迫り、実際の物理、生物、心理学における問題点を具体的に紹介します。

 後半の実際の科学における哲学的問題はとても面白かった。一番ぐっときたのはライプニッツとニュートンの三百年越しの対立。絶対空間を想定するニュートンに対し、それを否定しようとするライプニッツ。加速度だけが系となる基準点を生む魔法。巻末の解説で関連書籍として紹介されていた『空間の謎・時間の謎―宇宙の始まりに迫る物理学と哲学』 も読んでみようと思ったのでした。

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