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『原色の想像力』

原色の想像力 (創元SF短編賞アンソロジー)
編:大森望、日下三蔵、山田正紀
創元SF文庫
2010.12.18
1155円

★★★★☆

 創元SF短編賞の最終選考作の中から選ばれた九編によるアンソロジー。選考座談会が載っているとのことで楽しみにしていたもの。『量子回廊』の「あがり」選評が詳しかったこともあって期待していたのでした。

うどん キツネつきの 高山羽根子

 捨てられていた動物を拾ってきて、という話。読ませる語り口でうまいと思ったけど、お話のボリュームの割に登場人物が多めで「え? 誰?」と馴染んだ頃にはおしまい、ともったいない感じ。SF成分は薄いように思う。

猫のチュトラリー 端江田仗

 介護ロボットのユズノが猫を拾ってきたところから話が始まる。認識論めいたものをキャラにしゃべらせてきてこれはロボットや人工知能の最前線を追った話になったり?とちょろっと思ったところであっさり終了。肩すかしの感じもしないでもなかったけれど、何かが起きる引き金がこのあたりにあるかもよ、と予感を覚えさせるこぢんまりとした可愛い話ということで印象は良かった。大賞にはなれないタイプの話だけれど、アンソロジーの一編としてはアリ。

時計じかけの天使 永山驢馬

 冒頭の「いじめ対象型アンドロイド」という設定ですべてを物語ってしまっているかも。いじめを扱った小説はたとえ最後に救いがあってもいじめシーンを読むだけで苦痛です。SFとなれば人間性を根本から否定するようなオチが待っているケースも多いし。これもきっと、と思いつつ読むとやっぱり辛い。結末はともかく読み進めるのが苦痛でした。と同時に作者とはちょっぴり共通する属性を持っているんだな、などとも思ったりも。がっちり読ませる筆力が魅力。アイデアは割とオーソドックスかな。

人魚の海 笛地静恵

 南国の島国の巨人女性の出てくるファンタジー。複数視点を移動していく三人称なのだけれど、各視点での心理描写をしていることもあって切り替えに戸惑う。土臭いファンタジーの香りはすごくよく出てる。

かな式 まちかど おおむら しんいち

 プロフィールからして笑いを取りに来ている。ひらがなの「て」の自省から始まるのも気が利いてる。ストーリーは割とどうでもいい気はする。これはもう“かな”の擬人化をまじめくさって追いかけていくというそれだけで面白い。文字を単に擬人化、ということであればアニメーションとして文字を動かしてみたりするのは昔からあったけれど、「て」自身がなんで「て」なんだろうと悩むあたりに新しさを感じた。

ママはユビキタス 亘星恵風

 SFっぽさはすごく濃かったんだけど読みづらかった。文章そのものは平易。登場するSFガジェットもなかなか。宇宙探査ネタ。と、割と好きなはずの話なのだけれど、読んでいて文を追うのが苦痛になってしまった。メリハリがない感じ。

土の塵 山下敬

 ネタバレせずに紹介するのが難しい。割とスタンダードなネタで読みやすい文章、オチに示されるものも割とスタンダード。読んでいるときの印象では陳腐さはないのだけれど、読み終えてみるとあまり新しくなかったかな、と思う。

盤上の夜 宮内悠介

 囲碁モノ。囲碁自体がよくわからないながら迫力を感じる文体だった。音韻が整っていて語呂がいい。時代物の名作みたい。SFらしい人間性ぶっとばし設定もイイ。『プシスファイラ』『競馬の終わり』に近い特殊ジャンル物だと思います。疑問に感じたのは一点だけ。
 なんでこれが大賞じゃなかったの?

さえずりの宇宙 坂永雄一

 Twitterっぽいというか2chっぽいというか。パベルの図書館ネタなのだけれど二つのバベルの図書館があって、量子力学で世界を混沌とさせて、図書館戦争って感じで、HDDのフラグメントみたいな印象でした。文章からイメージがうまく立ち上がらなくて読むのに苦労しました。投入されているネタにはあちこちに親近感が持てるものの、話自体、描かれるイメージに今ひとつ共感できなかった。

ぼくの手のなかでしずかに 松崎有理

 「あがり」で創元SF短編賞大賞に輝いた著者の受賞後第一作。これはちょうどニュースでやっていた「飢餓状態のちょっと手前を維持すると長命」というマウスの実験データを元イメージにした話だと思います。ご都合主義的展開をあえて裏切るストーリー。『アルジャーノン』を連想させられてあれあれどうなるの、となったところで「お?」と。作者の得意な研究室の風景。「あがり」よりずっと隙がなくていきなりプロっぽくなった作風。

最終選考座談会

 すごく楽しそうな座談会。大森望と日下三蔵の間で良い感じで火花が散っていて、山田正紀は外部選考委員として候補は絞ったもののあまり主張はせず。創元側の編集者がうまく司会役、というか大森×日下論争組を捌いていました。これは良い具合に機能した選考メンバーかも。創元SF短編賞に応募するなら『量子回廊』の「あがり」選評と合わせて読んでおくことをお勧めしたい内容です。

 座談会のなかで

山田 (略)ただぼくは正直、量子力学的な話にはうんざりしていて。「どうしてどいつもこいつもそういうものしか書かないんだ」と。それがまた受賞対象になり、またしばらくこの世界が続くのかと思うと……。

大森 神林長平さんも先日、「かくも無数の悲鳴」(川出文庫『NOVA2』所収)に添えたメールで、同じようなことをおっしゃってました(笑)。

『原色の想像力』p.478 最終選考座談会より

とあっておおいに頷いてしまいました。物語の枠を壊す仕掛けとして強力に機能しすぎて納得できなくなってしまう話が多い気が。

 トータルでの印象は「プロっぽくない」でした。新人たちのアンソロということになるので当然かな。『量子回廊』や『NOVA』シリーズのようなプロ作品を詰め込んだ短編集と比べると完成度は低かった印象。一方でプロたちがどこか似たり寄ったりの感性となってしまっているのに対しバリエーションの豊かさではタイトル通り『原色の想像力』が感じられました。これは命名が秀逸。
 少しだけ残念であったのがSFとしての役割。「最新科学知識」「未来の社会」「未来の技術」「科学の可能性」を提示している王道作品が少なかったこと。SFのコアになるような正攻法の作品がもっとあっても良かった。編者は「豊作」を強調していて確かにその通りなのですが、主食を欠いた趣味の農園が豊作という感じ。でもそのパラエティに飛んでいることこそがSFなのかもしれません。

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