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『巨大翼竜は飛べたのか』佐藤克文

巨大翼竜は飛べたのか-スケールと行動の動物学
佐藤克文
平凡社新書
2011.1.15
945円

★★★★☆

 ブラボー!

 面白かった。とても面白かったです。
 有翼生物のスケーリング則研究を行う研究者の著作。野生生物にセンサーをつけた“データロギング”による観察から動物の運動を科学します。ペンギン、ウミガメ、マンボウ、ヒメウ、オオミズナギドリと章を分けてフィールド調査の様子を綴っています。生物たちの生態やデータ採取の苦労、飛行(遊泳)理論からのアプローチと様々な角度からバイオロギングサイエンスを紹介していて、とても面白い。巷間に流布した定説がいかにいい加減なものかをフィールド調査によって明らかにし、肉眼では追えない視界の外での出来事や細かな運動の様子をデータロガーで明らかにします。動物の生態観察にはどうしても観察者による思い込みが含まれてしまいますがそれを可能な限り減らしてくれるのがデータによる記録。フィールド調査の実践+情報処理と双方の大切さを示し、テクノロジーはかく使うべき、というお手本のような生物研究に思えました。高校生の私がこんな本に出会っていたら、この著者の研究室の扉を叩いていたかもしれません。

 最初のうちは簡易化された説明に「遊泳のスケーリング則を説明するのにレイノルズ数さえ登場しないの?」と懐疑的にもなったりしたのですが、しばらく読み進めばしっかり流体力学の要点を押さえていることも判明しました。読みやすさはバツグン。理屈の面での突っ込んだ部分は第一章では「BOX」と項目を分けて説明されており、わかりやすさと理論の両面をしっかり提示している良い本であると思います。実践と情報処理の二面を両立させた研究のバランス感覚と通じるものがあるのではないでしょうか。

 第一章のペンギンの章では「なぜ斜めにもぐる?」という項があります。本の中では解は得られていないようでした。これは流体力学……というよりは航空宇宙分野の力学に馴染みのある人間にはとても簡単なことで“重力損失”に相当するであろう「浮力による損失」を避けるためではないかと思います。いわば“浮力損失”でしょうか。航空機では優れた“揚抗比”を持つ翼により巡航では自重に働く重力よりもずっと小さな推力で飛行できます。同じように、浮力のあるペンギンが潜水するならば、翼の揚力を利用して潜っていく方が浮力に抗しながら垂直に潜るよりも楽なのでしょう。
 ただ、羽ばたき推進の解析はまだ工学分野で論文が出続けているジャンルのようで決定打となる簡単な処理方法がないのではないかと思います。
 学生時代に所属した流体力学の研究室では同僚のチームが魚の推進理論モデル作りをしていたことを思い出しました。

 タイトルにある翼竜の話は最後の章でようやくの登場。本書の冒頭でも「飛べない」という結論は明かされているのですが、スケーリング則から導く著者の推論はとても説得力があります。
 ですが一方で違う、とも思いました。飛ぶことに特化した体を持った生物の化石があるのに、飛べないはず、というのはどう考えてもおかしい。理論と観測の両面から編み出されたスケーリング則自体は正しいけれど、前提となる基礎代謝や生態に間違いがあるのではないか、と。
 著者の「飛べない」の根拠となったのはミズナギドリ(アホウドリ)。これとは違う系統の飛行生物であるのが翼竜。変温動物であるはずの爬虫類から派生したグループで、恐竜を経て恒温性を獲得している鳥類と比べると代謝レベルが大きく違う可能性があります。
 爬虫類は鳥類や哺乳類と比べると採餌量はずっと少ない模様。瓶詰めにして一年経っても鎌首をもたげる蛇。週に二回の食事で十分なワニ。爬虫類は酸素代謝ではなく嫌気代謝の筋肉を持つ、と解説書などで読んだ記憶があります。(本当なのかな?) これは飛行に適した良い風を待つことのできる生態を想定できはしないでしょうか。
 飛行爬虫類が現存しない以上、スケーリング則自体を打ち立てることができず、結論は出せないかもしれませんが……。
 データロガーがもっと小型になれば昆虫のデータも取れるようになるかもしれません。昆虫と哺乳類とが同じスケーリング則に乗って来るものかどうかも興味深いところです。

 などなど、本に書かれている範囲からはみ出したあれこれを語りたくなってしまう良い科学解説本でした。古生物好きの方も「翼竜が飛べないとか言ってた学者だろ」などと食わず嫌いせずに読んでみられてはいかがでしょうか。

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