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『宇宙ヨットで太陽系を旅しよう』森治

宇宙ヨットで太陽系を旅しよう
森治
岩波ジュニア新書
2011.10.21
★★★★☆

 すごいぞ、イカロス君。

 ソーラー電力セイル実証機IKAROSのプロジェクトリーダーが書いた、IKAROSの解説本です。岩波ジュニア新書の読者をターゲットにソーラーセイル宇宙機計画のスタートから成功までを語ります。

 面白い。

 すでにネットでIKAROSが完璧な、予期以上の成果を上げ続けているのを知っていたこともあって開発途上の失敗談や懸念が描かれても安心して先を読むことができました。順調過ぎるくらい順調だったIKAROSは本当に良かったな……と思えます。「オモリの刑」なんてことになったらプロジェクトに関わった人々は立ち直れないようなショックを受けたことでしょう。成功したからこそ、過去の杞憂を楽しめる気持ちの良い本でした。

 木星系探査の前哨となったIKAROS。今も後期運用の真っ最中で、もう間もなく姿勢制御用の推進材が尽きてしまうはず。一年半に渡ってワクワクする話題を提供し続けてくれたイカロス君。液晶デバイスによる姿勢制御で長期運用が継続すると面白いのになぁ。
 この秋にはIKAROSのガンマ線バースト偏光観測のデータによってガンマ線バースト発生のメカニズムがシンクロトロンであることが明らかになったと発表もありました。ダストカウンターによる内軌道のダスト分布などもデータを蓄積できたはず。世界初をいくつも達成したのがあかつきのオマケとして大急ぎで開発されたソーラーセイル実証機というのも面白い話です。

 この本では後半にIKAROSのような「小型計画」への危惧が強く述べられていました。大きなプロジェクトの前に小さなプロジェクトをやって実現可能性を実証しよう、という方式への苦言です。本来ならば事前の試験的計画を山のようにやって、その中から見込みのある技術を拾い上げていく——というのが小型計画の意義だと思うのですが、日本のように少ない予算で行われる宇宙開発では小型計画はその後に続くはずの大型計画の予行演習でしかなくなっていて、しかも、その予行演習が失敗すると大型計画も御破算になるという仕組のようです。軌道上でエンジンのみ、通信機のみ、セイルのみと要素技術の実証実験をするのが“小型計画”に当たるはずなのですが、JAXAでは安い実用探査機/衛星で試験も兼ねて……となっていることが歪みを生んでいるように思えました。あかつきのセラミックスラスタにしても軌道上で試験が行えていれば防げた可能性が高いはず。
 なるほど、小型計画は技術者としてはやりたくないよな、と共感しました。おかしいのは小型計画が失敗したらあとに続く大型計画がぽしゃる部分ですね。小型計画で出たトラブルを後続の計画に生かせるような体制が必要なのでしょうが、JAXA内部の足の引っ張り合い材料にされちゃっているのかな。

 防衛費で運営されてしかるべき情報収集衛星に年間500億円を分捕られ、はやぶさの成功をもってしてもはやぶさ2の予算が危ぶまれる日本の宇宙開発。木星系探査のソーラー電力セイル計画は今のところまだ形も見えてきていない段階です。いったいどうなるんだろう……。

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