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『盤上の夜』宮内悠介

盤上の夜
宮内悠介
東京創元社
2012.3.22
★★★★☆

 はじまりと終わりの物語でした。

 囲碁、チェッカー、麻雀、古代チェス、将棋。ボードゲームを素材に織りなされる人間模様を濃厚な個性で描いた連作短編集。人間だるまにされた少女が手足の代わりに得たのは囲碁の盤面を身体感覚とする力だった――、と始まる第一回創元SF短編賞山田正紀賞の受賞作を先頭に、様々なボードゲームを様々なアプローチで描きます。チェッカーと完全解の物語「人間の王」では情報処理の話を交えて。異様な顔触れで囲まれた幻の麻雀王者戦を描いた「清められた卓」、古代インドを舞台にチェスの起源を追った「象を飛ばした王子」、将棋と歴史を特異な兄弟を通じて描いた「千年の虚空」、原爆の投下されたまさにその日に打たれた実在の本因坊戦との対比ですべての話を締めくくる「原爆の局」、の全六編。

 私は将棋はコマを動かすルールだけ、麻雀も囲碁も知らないので局面の具体的な描写を読んでも何が起きているのかわからなかったものの、問題なく楽しめたと思います。局面を具体的に説明しているシーンは控えめで、麻雀の一部と囲碁の棋譜が示されたくらいだったからかな。

 読み終えて、いえ、読んでいる最中から「すごい」を連発したくなりました。何がどうすごいのかわからないし、あるいはハッタリにしてやられたのかもしれませんがそのハッタリかもしれないものまで含めて作者の強烈な個性を感じます。

 ボードゲームの起源と終焉。歴史の決着。抽象的な描写、幻想の比喩、科学の言葉。ありきたりな凡人の文章では、絶対にない。けれども才気を迸らせた天性だけのものでもない。文章の背後に控えたイメージが強力で非凡なのだろうと思います。海外を放浪したり麻雀のプロを志したり情報処理技術者になったりといった著者略歴が付されていましたが、そういった様々な体験へと飛び込んで行ける人であることが作品の力の源にもなっているのかな、なんて思いました。

 SFらしさ、ということに関しては「らしさ」と「らしくなさ」が混在していて、実在感を備えつつも特異であるキャラクターたちを軸にした話の肌触りはあまりSFを感じさせないし、情報処理知識に由来する要素と時代を飛び越えて行く視程はSFらしさを支えているし、で「SFらしくないけどSFらしい」です。

 まあ、とにかく。

 読め。

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