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2012年7月の9件の記事

年刊日本SF傑作選『拡張幻想』

拡張幻想
編集:大森望・日下三蔵
創元SF文庫
2012.6.29
★★★★☆

〈すべての夢|果てる地で〉1
〈すべての夢|果てる地で〉2

 年刊日本SF傑作選『拡張幻想』です。第三回創元SF短編賞の受賞作と選評が載っています。

 SF界にとっても震災の一年だった。

 編者による巻頭言でも震災の影響に触れられ、読む側にとっても危機的状況が描かれているだけで連想するのは震災の映像たちでした。あるいは震災とは無縁と思える作品であっても昨年逝去した小松左京への追悼作品であったりとどちらかというと過去を振り返る作品が多かった気がします。小松左京追悼、という前提で傑作選を編んでも良かったのかも。

 印象に残ったものだけ感想を。順不同です。文章の感想は若干のバレを含みます。

〈すべての夢|果てる地で〉 理山貞二

〈すべての夢|果てる地で〉

 創元SF短編賞受賞作。
 コミPo!による四コマでの感想の通り、量子力学ネタのアイデアをメイン据えた話と感じました。ぽつぽつと見かけるネット評では「名作へのオマージュ」という側面を挙げる意見も目につきますが、実際はガチな量子論ベースのアイデアを投入したハードSF寄りの作風であったと思います。よくある「無理を通すための魔法の呪文・量子力学!」というご都合主義量子論とは別物のしっかり量子力学を消化した話。内積がゼロとなる――干渉しない――二つの空間を互いに現・空想とし量子もつれエンタングルにあるペア量子が二つの世界の架け橋となるという素敵なイメージから始まります。
 これをカッコイイと言わずにいられましょうか。

 小難しい小説のように思えるかもしれませんが、とっつきの悪い話ではありません。ブラ=ケット記法による方程式の提示も「そういうもの」として解説部分を追えば理解に苦はなく、宝探し系の躍動的なストーリーが現れます。文章は比較的淡々とした落ち着いた印象。

 オマージュ要素に関しては私はSF読書量が少なく、『1984』とSF御三家へのリスペクトが濃かったな……くらいしかわからなかったです。たくさん読まれている方は「ここはアレ、こっちはアレ」とパズルのピースを見つけるような楽しみ方もできたのでしょうか。
 そんな私でも最後の最後に開かれたネタには声を立てて笑ってしまいました。うむー。色々な意味で『拡張幻想』にぴったりの受賞作となりました。

 第三回創元SF短編賞授賞式で理山氏は「量子力学で数式のまま言葉になってない部分を書きたい」という意味のことを言われていたように思います。是非、そんな世界を見せて欲しい。

超動く家 宮内悠介

 創元SF短編賞絡みでは出身作家の宮内悠介の怪作「超動く家」。……バカミス? SF的な面もあるのでバカSF? 印象深い短編であるのは確かでした。読みながら裏拳ツッコミしまくりでした。この人は色々なもの書ける人なんだな〜。

良い夜を待っている 円城塔

 創元SF短編賞関係以外の作品では特異な記憶能力を持つ人物を描いた「良い夜を待っている」が印象に残りました。自然に流れて行くストーリーでありながら緻密さがあって、全体が見事に調和していて。科学解説書の要素を最上級の小説にする手腕に惚れ惚れしました。『Self-Reference ENGINE』の頃の円城塔とは丸きり印象が違います。いえ、作風そのものはそんなに変わっていない気がするのですが、素晴らしく読みやすくなっているために別物のよう。

 神林長平の「いま集合的無意識を、」も大好きな作なのですがこちらは同タイトルの文庫で読んでいたので感想はそちらを。

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『コミック百合姫』2012年9月号

コミック百合姫 2012年9月号
一迅社
2012.7.18
★★★★☆

 リニューアル以降紙質が薄くなってスマートになった『百合姫』ですが今号は540ページ超でボリュームも増えてきました。そして特別定価440円でいつもの半額。TwitterのTL上でこれまであまり見かけなかった百合姫の感想をちらほら見かけるように。「ゆるゆり」パワー?

表紙 なもり

毎号続き物のストーリーのあるなもりイラスト。初回からどろどろした関係が盛り込まれていましたが、今回はそのどろどろが登場キャラ全員に共有されるシーンとなりました。「ゆるゆり」アニメ→440円半額キャンペーンで初めて『百合姫』を手にとった読者には「百合ってこういうのなの?」とびっくりかもしれません。森島明子や竹宮ジンはガチな同性愛描写のある回でもありましたし。

巻頭カラー

ゆるゆり特集。アニメ収録やライブイベントのレポート、全員サービスプレゼントの告知etc。

少女惑星 柏原麻実

巻頭カラー。マット仕上げの紙に彩度の高い印刷でカシマミの鮮やかな色遣いとあいまってとてもインパクト。友情としての独占欲から一歩踏み出す少女二人を描きます。連作の予定なのかな? 次回以降も期待できそうな滑り出し。

きものなでしこ 八色

今回は合宿で和ネタは寝巻きの浴衣。もう一話はアンジーと雀の休日編。帯クルクルがないのはな〜ぜ〜。あと浴衣の寝起きの惨状?もぜひ絵で見たかった!

ダブルバインド 大沢やよい

今回は大人な雰囲気のお話。重めです。二人は新たな関係を築き直さなくちゃいけないのだろうけど日々を積み重ねて行くことの辛さばかりが想像できてしまうのは読者として歳をとっちゃったから……かな。そんなしんみりな読後感でした。次号からヤギーのスピンアウトっぽい新連載が始まる模様。期待!

ゆるゆり なもり

お茶をこぼしただけで面白おかしい一エピソードが作れてしまうとは恐るべし「ゆるゆり」。

ロケット・ガール 田仲みのる

うう〜。なんというか、もったいない。挫折の、屈託の原因は以前に示されているのだけれど前々回くじけたきっかけと今回立ち直ったきっかけの印象が弱くて、いや、わからないわけじゃないけれどバチコーンと来ないのが惜しい。「星とつばくろ」の詠唱シーンみたいにぐっとくるシーンの描ける作者なので期待してしまう。十分に面白いけどもっともっとと思ってしまう。頑張れ〜。

恋愛遺伝子XX 影木栄貴×蔵王大志

ふと思ったのだけれど、この恋愛遺伝子XXの世界ではヘテロの性指向しか持っていない人はどうなるんだろう。ノンセクシュアルとして生きるしかないのかな。作られた文化として男女恋愛が当然、という現実へのアンチテーゼ設定に思われるのだけれど、女性だけの社会でのドラマはむしろ特例として投入する男性に合ってしまうような。あ、それだと『アマノン国往還記』か。

名前はまだない2nd かずまこを

前号とは逆の委員長視点。餌付け回。淡々としたかずまこをもいいなー。

ふ〜ふ 源久也

浮気性というか博愛主義というかのカナナさんも年貢の納め時?

犬神さんと猫山さん くずしろ

シモネタというかセクハラというか刺激の強いそっち系ギャグ四コマ。「きものなでしこ」とは好対称なのが面白い。

あまいゆびさき 宮木あや子

前回クライマックスで今回エピローグ?と思っていたけれどもう一山ある模様。ぅぅぅ。なかなか落着しない〜、と思い切り作者の思惑にはまっていると思われます。

私の世界を構成する塵のような何か。 天野しゅにんた

『百合姫』大人部。このシリーズ、流されキャラや無責任な面白がりキャラが集まっていて苦手なタイプの話ではあるのですが、読んでいて毎回唸らされます。人と人との必ずしもうまく噛み合ない関係。好き嫌いの感情とは別に相性や巡り合わせというものがあって、というのがじんわりきます。

Leave hickey 竹宮ジン

今回は竹宮ジンも大人部。キスマークをテーマにしたお話。『楽園』誌での竹宮ジンと『百合姫』掲載作とのギャップが縮まってきたかな?

レンアイ女子探偵ファイル・後編 森島明子

森島明子の漫画は幸せがあっていいな。恋愛女子課のシリーズには辛いシーンだってあったけど、でも基本のトーンがハッピーでコミカルで。探偵ファイルの話もクリスの陽気さと黄実のちょっとドジっぽいとこも楽しくて。

溺れる金魚 黒霧操

作画がパワーアップしてきた気がします。キャラ設定もスタンダードな少女像と残酷であったり利己的フェチであったりするイケナイ部分とのコントラストが良い感じ。

クモリトキドキアメノチ ちさこ

友人のおせっかいでセッティングされた合コン。そこで知り合ったのは……。ちさこも毎回うまくなってる気がする。

ウタカイ 森田季節

今回は短歌バトルお休みでラブレターをお題に。このシリーズ、プラトニック的な意味でのいちゃこら度は今の『百合姫』掲載作ではトップの気がする。一人称描写で小説のアドバンテージがとても有効。短歌もおもろい。

ショートヘアの似合う女 さかもと麻乃

かつての憧れの先輩とスキーに来て、過去の想いを整理する話。と書くと淡白な感じですがしっとりとした心地良い読後感のお話でした。『リスランタンプティフルール』の頃はぎこちなさも感じたけれど『パイをあげましょ、あなたにパイをね』でぐっと印象が良くなってただいま絶好調な感じのさかもと麻乃。

sunny rose 慎結

なんかっ、可愛らしいっ、お話がっ。8/18発売予定の『ミズイロ、ソライロ』が楽しみになりました。描き下しもあるらしい(Twitterより)です。

Dr.Lunchbox 井村瑛

器用貧乏さんとまじめ不器用さんのお話。以前の“ふよ”のお話でもそうでしたがこの作者は日常的な設定でもどこか異世界の物語のよう。

しあわせにしてほしい 大北紘子

この作者的には珍しい?ごくごく普通な感じの日常話。DVもなく家族の諍いもなく異世界設定でもなく。最後のページは間宮さんが驚く表情でもう一ページ分欲しかった感じ?

サーク・アラクニ 再田ニカ

今回はロッテの回想&葛藤回。アクション中心でかつ百合という条件がつくとアクション側の比重がどうしても少なくなる感じ? もっとサーカスアクションみたい気持ちとロッテ&テティの進展をみたい気持ちで読者的にも揺れるな〜。

百合男子 倉田嘘

いよいよ何の漫画なのかわからなくなってきた百合男子。今回はヤンキー漫画風に展開してます。これまでも格闘漫画っぽく爆発エフェクトをどかーんとやってましたが、「湘南爆走族」か「北斗の拳」かという雰囲気に。これ、収集つくのでしょうか……。そうそう、以前イベント後に思わせぶりに出てきて「わかってない」的なことを呟いた女性キャラがいましたが、もしかして今回のイベントのミラクるんコスのキャラだったりしないかな、となんとなく期待したり。

 次号予告では新連載が三本だそうです。
 「センチメンタルダスト(仮)」は第7回百合姫コミック大賞紫水晶賞の人。大抜擢。
 「月と世界とエトワール(仮)」は『なかよし』で活躍の高上優里子。初見の人なのですがいじめテーマと思われる単行本がある方のよう。予告イラストがものっそい好みです。
 「ストレンジベイビーズ(仮)」はブラックヤギーからのスピンアウトと思しき大沢やよい。いかにも面白くなりそう。

 というわけで次は9月発売。楽しみです。

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『残穢』小野不由美

残穢
小野不由美
新潮社
2012.7.20
★★★★☆

 ああ、小野不由美だ……。

 作者本人をモデルにしたような実録怪談風の心霊サスペンス。少女小説であった「悪霊」シリーズから華やかな成分を抜き、心霊事件に関わった作家視点でのドキュメンタリという体裁で“穢”を民俗学・宗教学的な観点も交えて綴られた――怪談。

 読んでいてじわじわと背後が気になるような導入部からの前半と、手繰った糸から明らかになっていく不可解な事件たちが示される怒濤の後半。本格ミステリの資質を色濃く感じさせるロジック。恐怖の形を“理”によって顕現させたかのような不思議な怖さ。
 背後が気になるのはこの話が現実との地続き感を強く感じさせるところにあるのでしょう。単に作家の分身的なキャラの登場する心霊ドキュメンタリ風小説だから、ということではなく作中世界を読者の現実に浸食させるような力があるのです。ロジックを強く感じさせる“穢”の説明とともに独特の説得力、実在感こそが小野不由美の作品なのだと溜息が出ました。

 小野不由美作品では必ずシステムが背後に用意される気がします。心霊現象においても恨みや執着といった人の感情に直接結びつけようとせず、摂理的なものが姿を現してくるのです。摂理が描かれるからこその、怖さ。法則らしきものを示してきても単純化しすぎず不可知の部分を残すのが絶妙で、それによって揺らぎを残した摂理は私たち読者を“穢”の圏内に捉えにきます。ロジカルな作風ならではのゾクゾク感。

 手に取ることで、読むことで、“”に触れられるかもしれない本、です。

 明かりを消した続き部屋の仕切りを開け放ち、夜に一人きりで読むのがお勧めです。

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『エピジェネティクス入門』佐々木裕之

エピジェネティクス入門
佐々木裕之
岩波科学ライブラリー
2005.5.12
★★★★☆

 タイトルそのままの内容の本。

 『エピジェネティクス 操られる遺伝子』という本を読み、よりシンプルにわかりやすいエピジェネティクス本はないものか、と読んでみた中の一冊。2005年刊で後回しにしたのですが、失敗でした。これを最初に読んでいれば良かった。簡にして要。エピジェネティクスの説明に必要なことが簡潔に、わかりやすくまとめられていました。
 文字も大きく、行間も大きめに取られ、あっさりめの図解が付されていて、読むだけならば二時間もかからないシンプルな本です。ところどころ生化学に馴染みがないと置いてきぼりになってしまう取っ付きにくさも残ってはいますが、わからない部分はわからないなりにすっとばしてもエピジェネティクスの概要が掴める良い解説本でした。

 分子生物学の発達で「DNAは生物の設計図。DNAをいじれば(生物に可能なことは)なんだってできるぞ!」みたいなDNA万能論のイメージが広がったのですが、DNAは、遺伝子はそんなに一筋縄では行かないんだぞ、というのが最近の生物学の傾向です。エピジェネティクスはその一筋縄では行かないメカニズムを分子生物学で精緻化してみたら後成説・ラマルキズム的要素と結びついたことから成立した分野。エピジェネティクスのネーミングと後成説の繋がりの詳しい説明なんかもあります。

 生物学や進化論に興味のある人ならばラマルキズム、獲得形質の遺伝、という話に持って行くだけで「え〜?」と思われるかもしれません。が、オカルトと断じるには早いです。分子生物学の進歩によって訪れたパラダイムの更新を代表しているのがエピジェネティクス。異端説や奇説の類ではなく、ネオダーウィニズムを核に据えた総合説を否定するのではなく強化する考え方として、今後の生命観を支える分野なのだと思います。

 副題にある「三毛猫の模様はどう決まるのか」以外にもネズミの色や性差を伴う遺伝病、メンデルの法則に従う植物の獲得形質の遺伝、がん細胞の挙動etcとエピジェネティクスの関わる例を示し、どんな仕組がそれを可能にするかを述べます。この本で示される具体的なメカニズムは、種々の進化論たちのあやふやさとは無縁のかっちりした実験ベースもの。

 七年以上も前に、こういう考え方がされるようになっていたのだな、とアンテナの低かった自分が悲しくなりました。生命観のパラダイム転換のその瞬間を見逃していたのが悔しくなる本でした。

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『動的平衡2』福岡伸一

動的平衡2
福岡伸一
木楽舎
2011.12.10
★★★☆☆

 狂牛病関連の本ではとても印象の良かった著者。TVの科学番組でも最近は見かけることが増えました。最近気になっていた“エピジェネティクス”について触れているということで今回のタイトルを読んでみました。

 ちょっと薄い、かな?

 タイトル通りの「動的平衡」について生物学の視点から書かれたエッセイ集。全九章。各章は五〜八の節に区切られていて各節ごとに異なる――章題には沿った――話が連なります。指向しているのは「動的平衡」というタイトルそのものなので出オチならぬタイトルオチな感じはありました。

 動的平衡、に生命現象をすべて繋げて考えるというのはイメージとしてはよくわかります。著者の説明する生命科学の詳細も魅力的です。ですが、読んでいて「新味がないなぁ」と思ったのでした。動的平衡という言葉もイメージはギリシアのヘラクレイトスが唱えた“万物流転”とほとんど同じもの。ヘラクレイトスがロゴスと呼んだ流転する自然の中の一貫したルールを明らかにした訳でもなく、様々な生命現象を並べて「動的平衡見えるでしょ」というのが繰り返されます。

 一方でこの著者はドーキンス的な遺伝子中心的な考え方を批判――するのですが、そもそも私にはドーキンスと福岡伸一の主張が相反しているとは思えないのです。利己的な遺伝子説で一世を風靡したドーキンスですが、彼は著作の中で

DNA≡“遺伝子(複製子)”

 と述べたことはないように思います。むしろ、

DNA ⊂ “遺伝子(複製子)”

 と考えているように思え、DNAを用いた遺伝の説明はあくまで遺伝システムの一例でしかなく、エピジェネティクスやトランスポゾン、レトロトランスポゾンの振る舞い、環境要素まで含めたものを遺伝子と想定しているように思えます。(もちろん明示的に、DNA⊂遺伝子、などとはドーキンスは書いていない。むしろ、DNA≡遺伝子、と読者を誘導する書き方をしている) 利己的遺伝子という言葉が一人歩きをして遺伝子中心的な考え方の代表として捉えられ「DNAにすべての設計図」という考え方=ドーキンスというイメージなのかもしれませんが、利己的遺伝子説の大本であるドーキンスは、生命の本質がDNAのみにある、とは主張していない気がするのです。
 つまり、福岡伸一の批判の矛先には実体がないのではないか、ということです。

 そして、生命の動的平衡においてヘラクレイトスのロゴスに相当するものは、ドーキンスの遺伝子(DNAに限定しない)や模倣子とほとんど一致してしまうのではないでしょうか。

 福岡伸一の筆ならば、動的平衡といった観念的な話より、エピジェネティクスやエヴォデヴォの詳しい解説が読みたいな、と思ったのでした。

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『荒野の恋(2)』タカハシマコ×桜庭一樹

荒野の恋(2)
作画:タカハシマコ
原作:桜庭一樹
講談社コミックスなかよし
2012.7.6
★★★★☆

 桜庭一樹原作の『荒野の恋』シリーズ、コミック化二巻目です。

 コミック版一巻を読んだ直後に原作小説版を全巻読み、二巻では一巻とは読み方が変わりました。原作小説に対して「お〜、こういう表現になるのか〜」と最初からじっくり読むように。漫画でも小説でも初読では作品世界を掴みきれずに中盤まで手探りで読むことが多いのですが、原作を読んでいると細かな部分にまで目がいくようです。比較しながらの読み方でも楽しかった。

 あらためてコミックという形で読んでどっしり来たのは「愛人を幾人も持つ父のいる娘」の視点でした。小説でもそれは描かれていたのですが文章であれば描かれなかった部分も、絵となると表現の密度が上がります。結果、愛人から愛人へとふらふらと泳いでいる父を見る荒野がしっかり読者に見えることになり――。
 子としては辛い環境だな、と作中の荒野とともに溜息をつくのでした。掲載誌の「なかよし」の読者には荒野の境遇がどう映ったのか気になりました。

 コミックス二巻は原作小説一巻の最後までの内容です。この先、最後までコミックス化すると六巻構成……ということになるのかな?
 無事完走・完結しますように。

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『それは私と少女は言った』タカハシマコ

それは私と少女は言った
タカハシマコ
講談社ITANコミックス
2012.7.6
★★★★☆

 一度読んで戦慄し、二度読んでおののくだろう。

 『青年のための読書クラブ』『乙女座・スピカ・真珠星』『荒野の恋』のタカハシマコしか知らずにこの本を手に取ったならば驚くのではないかと思います。可愛らしい絵柄はいつものタカハシマコですが、『乙女ケーキ』でのほのかな“毒”よりもずっと強烈な、陰惨と言っても良いストーリーが描かれます。繊細な少女漫画タッチで。

 『エオマイア』 『(ニコ) 』 の読者であったならばこの作風にも馴染みがあるはず。『それは少女と私は言った』では読後の薄ら寒さに磨きがかかりました。SF要素もなく怪奇要素もなく現代学園物として描かれ、ただ純粋に――残虐ではなく――残酷。読者を選ぶ種類の残酷さです。

 鳥子という美しい少女の死にまつわる四人の少女+1のエピソード。登場人物それぞれにスポットライトを当てた連作短編の形を取ります。初読では全容が掴めないまま読み進めることになりますが、次第に見えてくる一連の出来事の絡み合いにぞわぞわきました。そして最後まで読んで改めて最初から読みなおすと、そこここに散りばめられていたしるしがはっきりと見えてきていっそう背筋を寒くするのです。ホラーの怖さとは違う、静かなサスペンス的な怖さが少女のモチーフに散りばめられています。
 読み返しておいしい。そんな一冊でした。

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『いま集合的無意識を、』神林長平

いま集合的無意識を、
神林長平
ハヤカワ文庫JA
2012.3.15
★★★★☆

 泣いた。

 まずは、短編の各あらすじの紹介。

「ぼくのマシン」

『グッドラック 戦闘妖精・雪風』の冒頭、昏睡状態から目覚めて間もなくの零とエディスの対話から導き出された時期の零の最初のマシンの話。“パーソナル・コンピュータ”ネタ。『戦闘妖精・雪風解析マニュアル』初出。

「切り落とし」

解離性人格的なサイバー世界の人格と殺人事件を絡めた話。比較的近い近未来の印象。『小説工房増刊号』初出。

「ウィスカー」

脱少年期とともに訪れる読心能力喪失の話。神林的な猫の記号とともに。『SFJapan』Millenium:00初出。

「自・画・像」

人工知能の話、なのだけれどあれ?あれ?とややこしさに煙に撒かれてしまう。『SFJapan』2007冬号初出。

「かくも無数の悲鳴」

『NOVA2』に掲載されたものを収録。

「いま集合的無意識を、」

神林流の伊藤計劃追悼作品。『SFマガジン』2011年8月号初出。

 泣いた、といってもお涙頂戴ものの感動エンタメストーリーではないです。淡々とした神林節はいつもの通り。すっとぼけたようなユーモラスさと、何かを偏愛する人々と、断絶と。神林ファンには説明は必要ないでしょう。
 おもしろいよ、とだけ。

 巻末には飛浩隆による「アロー・アゲイン」という文章が寄せられてます。この中で「ぼくの、マシン」の先見性に触れているけれど――。シンクライアント的なコンピュータシステム自体は汎用機のダム端末の時代からあるしクラウド的な考え方も80年代には登場していたもの。むしろパーソナル・コンピュータがスタンドアロンのシステムとして発達してきた80〜90年代が特殊でパーソナルを否定するものとしてFAFコンピュータ群を生み、その反動として「ぼくの、マシン」となったように見えました。先見ではなく逆行だったんじゃないかな、などと異論を思い浮かべつつ、けれど飛浩隆の熱い神林論にうんうんと頷きながら楽しく読めました。

 『いま集合的無意識を、』には痛切なメッセージが込められてもいました。一見の読者にはあるいは関係のないしらける内容であるかもしれませんが、国産SFを追いかけてきた人、現役のSF作家、SF作家になりたいと志している人にはぐっと来るであろうメッセージ。
 読みのがしてはいけない種類の人がいるのだと思います。

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六月の招き猫

 豪徳寺は平常運転。

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