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年刊日本SF傑作選『拡張幻想』

拡張幻想
編集:大森望・日下三蔵
創元SF文庫
2012.6.29
★★★★☆

〈すべての夢|果てる地で〉1
〈すべての夢|果てる地で〉2

 年刊日本SF傑作選『拡張幻想』です。第三回創元SF短編賞の受賞作と選評が載っています。

 SF界にとっても震災の一年だった。

 編者による巻頭言でも震災の影響に触れられ、読む側にとっても危機的状況が描かれているだけで連想するのは震災の映像たちでした。あるいは震災とは無縁と思える作品であっても昨年逝去した小松左京への追悼作品であったりとどちらかというと過去を振り返る作品が多かった気がします。小松左京追悼、という前提で傑作選を編んでも良かったのかも。

 印象に残ったものだけ感想を。順不同です。文章の感想は若干のバレを含みます。

〈すべての夢|果てる地で〉 理山貞二

〈すべての夢|果てる地で〉

 創元SF短編賞受賞作。
 コミPo!による四コマでの感想の通り、量子力学ネタのアイデアをメイン据えた話と感じました。ぽつぽつと見かけるネット評では「名作へのオマージュ」という側面を挙げる意見も目につきますが、実際はガチな量子論ベースのアイデアを投入したハードSF寄りの作風であったと思います。よくある「無理を通すための魔法の呪文・量子力学!」というご都合主義量子論とは別物のしっかり量子力学を消化した話。内積がゼロとなる――干渉しない――二つの空間を互いに現・空想とし量子もつれエンタングルにあるペア量子が二つの世界の架け橋となるという素敵なイメージから始まります。
 これをカッコイイと言わずにいられましょうか。

 小難しい小説のように思えるかもしれませんが、とっつきの悪い話ではありません。ブラ=ケット記法による方程式の提示も「そういうもの」として解説部分を追えば理解に苦はなく、宝探し系の躍動的なストーリーが現れます。文章は比較的淡々とした落ち着いた印象。

 オマージュ要素に関しては私はSF読書量が少なく、『1984』とSF御三家へのリスペクトが濃かったな……くらいしかわからなかったです。たくさん読まれている方は「ここはアレ、こっちはアレ」とパズルのピースを見つけるような楽しみ方もできたのでしょうか。
 そんな私でも最後の最後に開かれたネタには声を立てて笑ってしまいました。うむー。色々な意味で『拡張幻想』にぴったりの受賞作となりました。

 第三回創元SF短編賞授賞式で理山氏は「量子力学で数式のまま言葉になってない部分を書きたい」という意味のことを言われていたように思います。是非、そんな世界を見せて欲しい。

超動く家 宮内悠介

 創元SF短編賞絡みでは出身作家の宮内悠介の怪作「超動く家」。……バカミス? SF的な面もあるのでバカSF? 印象深い短編であるのは確かでした。読みながら裏拳ツッコミしまくりでした。この人は色々なもの書ける人なんだな〜。

良い夜を待っている 円城塔

 創元SF短編賞関係以外の作品では特異な記憶能力を持つ人物を描いた「良い夜を待っている」が印象に残りました。自然に流れて行くストーリーでありながら緻密さがあって、全体が見事に調和していて。科学解説書の要素を最上級の小説にする手腕に惚れ惚れしました。『Self-Reference ENGINE』の頃の円城塔とは丸きり印象が違います。いえ、作風そのものはそんなに変わっていない気がするのですが、素晴らしく読みやすくなっているために別物のよう。

 神林長平の「いま集合的無意識を、」も大好きな作なのですがこちらは同タイトルの文庫で読んでいたので感想はそちらを。

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