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『星界の音楽』ジョスリン・ゴドウィン

星界の音楽 神話からアヴァンギャルドまで―音楽の霊的次元
著:ジョスリン・ゴドウィン
訳:斉藤栄一
工作舎
1990.3.20
★★★★☆

 気に入りました。とても。

 この本を知ったのは『宇宙の調和』(ヨハネス・ケプラー)を読んでのことです。巻末の広告ページにこの本の紹介がありました。ケプラーの本も、オクターブと惑星の軌道要素を照らし合わせているという話を知って読んでみる気になったのです。『星界の音楽 神話からアヴァンギャルドまで―音楽の霊的次元』というタイトルが気にならないわけがありません。

 1990年刊の本です。さすがに手に入らないだろうと図書館に当たってみたところ保存庫にあり、借りることができました。Amazonにも在庫があるようです。(2012年8月現在) 工作舎は長く読まれる本を出す出版社のようですね。

 音楽と神秘主義の関係を分析する本です。ギリシア時代から現代まで、人々にとって音楽がどんなものであったのかを、広範な知識と神秘主義の視点から綴ります。

 目次の引用をしておきます。

  • 第Ⅰ部|昇りゆくパルナッソス
    • 第1章◉音楽の驚くべき効果
      • アムピオーンの竪琴——鉱物が聴く
      • 旋律とハーモニーの森——植物が聴く
      • アリーオーンとイルカ——動物が聴く
      • スピトゥスの理論
      • アレクサンダーの饗宴——魂が聴く
      • タラントラの毒
      • 音楽療法とシュタイナー
      • 孔子とプラトンの郷愁
      • 崩壊した帝国
    • 第2章◉秘められたハーモニーを聴く
      • 妖精たちの音楽
      • 蓄音機の罪
      • ヴァイオリン弾く悪魔
      • 水晶柱
      • 天球への航海
      • 沈黙した星界
      • 太陽の音
      • 暗黒の中世と賛美歌
      • グノーシスとしての音楽
      • イスラムの共感覚
      • ヨガと天使
      • トールキンとC.S.ルイスの神話
  • 第Ⅱ部|偉大なる仕事
    • 第3章◉音楽の錬金術
      • ムネーモシュネーとアポロン
      • 「失われた時を求めて」
      • 錬金術の伝統
      • インスピレーションの三つのレヴェル
      • 聴き手の経験
      • 隠された構造
      • 鉛の自我と純金の自己
    • 第4章◉音楽と時間の流れ
      • デミウルゴスとしての神
      • ゴシックの大聖堂で
      • モテットとマニエリストたち
      • 音楽にルネサンスはあったか
      • ソリストになった人文主義者
      • ムシカ・ムシカーンス
      • ルソーとラモーの対立
      • 予測不可能な形式
      • ヨーロッパのカースト
      • ポップ・ミュージックの罪と可能性
      • 開拓された第一質料
      • ブッダとケージ
      • 作曲家時代の終焉
  • 第Ⅲ部|天球の音楽
    1. 宇宙論的な枠組み
    2. 惑星音階:タイプA
    3. 近代の諸体系——ティティス——ボーデとゴルトシュミット
    4. 惑星音階:タイプB
    5. 惑星、音、曜日
    6. 惑星音階:タイプC
    7. 可動音をともなう諸体系
    8. ケプラーと惑星の音楽
    9. 諸音程と占星術の星相
    10. 音の黄道一二宮
    11. 天使の位階とミューズたち
    12. 三つの平均値
    13. グルジェフのオクターブの法則
    14. 調和級数とそのシンボリズム
    15. 下方倍音列
    16. ラムドーマとピタゴラス表
    17. 顕現の彼方に——1/1および0/0

ジョスリン・ゴドウィン「星界の音楽」目次より

 オカルト色が強い本で、著者も音楽とオカルトの分野での著作がいくつもある方、なのですがこの著者の扱うオカルト——神秘主義は形而上的であると同時に合理主義的です。自然現象から神秘の法則を見出す研究者の側の視点であって、実効性を謳う儀式やオマジナイを求めておいでの方には明らかに向きません。オススメなのはケプラー、デカルト、スピノザetcといった西洋哲学・思想・科学の歴史に関心のある人。作曲技法についても突っ込んだ話がされるので調や和音についての基礎知識もあった方が理解に繋がるのではないかと思います。私は音楽の知識が不足していて咀嚼できない部分があり悔しい思いをしました。
 1990年刊の古い本ですが、内容は古びるようなものではないので今でもオススメできると思います。

 少し残念であったのは現代の科学の成果が反映されていないこと。宇宙に関する知見は二十世紀初めとは比べものにならないくらい充実しています。ケプラーが緻密な観測データから星界の音楽を見出したように、現代の科学の成果から占星術・神秘主義のアップデートがあっても良いのではないかと思いました。(単に科学風味の言葉を散りばめただけのエセ科学カルトなんぞはおとといきやがれと思いますが)
 そして、科学に後ろ盾を得た神秘主義が新たな音楽——宇宙を統べる法則を体現する星界の音楽を生み出すようなことになったら素晴らしいのにな、と。

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