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『ぼくらは都市を愛していた』神林長平

ぼくらは都市を愛していた
神林長平
朝日新聞出版社
2012.7.6
★★★★☆

 世界を襲った“情報震”。情報処理技術を破壊し、人類を滅亡の縁に追い込んだとされる“情報震”とは何なのか。戦闘機は出てこないがもうひとつの『雪風』であり、もうひとつの東日本大震災である物語。

 『いま集合的無意識を』において伊藤計劃への追悼ともに“宣戦”を布告した神林長平。かつては観念に偏重していた“言葉遣い師”が時代と思想を糧に立ち上がる。『いま集合的無意識を、』で呪いと認識された伊藤計劃の言霊が言葉使い師の筆に宿り紡がれ、円城塔の手による『屍者の帝国』 ともども“Project Ito”の呪いを伝播する。

 二つの視点のストーリーが綴られます。ひとつは、情報震なるものに襲われ人類滅亡寸前の世界で生きる情報軍女性士官・ミウの視点。もうひとつは、近未来的世界で体間通信なるものを仕込まれた公安警察官・綾田あいでんによる殺人捜査の視点。神林長平得意の実在/非実在、虚実入り交じった世界が展開されるのですが、そこに現れるのはこれまでの神林長平作品の全エッセンス+伊藤計劃的なガジェット&陰鬱さに思われます。現実世界と創作物とに距離をおく作風であった印象の神林長平ですが、今作では“都市”を軸にこれまでになく現実に寄り添います。“情報震”という言葉に代表される東日本大震災の影。あなたの経験したことは真の客観的現実か?と突きつけてくるのと同時に現実の全体像と個々人が遭遇する狭い現実の対比。さらにはメディアを通じての体験とそれらとのギャップ。SF作家・神林長平の業といわずなんといえばよいのか。あの震災を、直接、間接に体験してなお、この問題提起を行えるのかと溜息がでました。

 「いま集合的無意識を、」で示された志が形となった入魂の一作と思います。単体の小説としても面白いけれど、SFシーンや現実の出来事と対比させながら読むとさらにじーんと来るはず。

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