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2012年10月の6件の記事

Amazon Kindleストアオープン

 日本のKindleストアがオープンしました。
 同時にKindle Paperwhite 3GKindle Fire HDの国内予約が始まりました。11月半ばには発売となるようですが10/27朝の時点で1月発送になるとの表示もあります。

Kindleストア

 Kindle端末はまだですが、手元のiPadでKindleの書籍を買ってみました。webブラウザで購入→iPadアプリで読む、という流れになります。iPadアプリ上から直接Kindleストアでの買い物はできませんでした。

 『のだめカンタービレ』は紙コミックス版で23巻まで買って「完結したんだ」と思っていたのですがオペラ編の続きがあったようで24、25巻は未購入でした。Kindle版で発見したので購入。

 コミックはScansnapで電子化するとデータサイズが嵩張りがちなのですが電子書籍版は上手にデータサイズを抑えているようです。解像度はiPadでの見開き表示で微妙にぼやけてるかな?という程度でかなり高品質。自前で電子化するとノドの部分を裁ち落としてしまいますが、商品ならばそんなこともなく見開きも綺麗。……あれ?ページによっては見開きの左右がズレたりもしてますね。
 解像度をもっと上げて欲しいとか、DRMが邪魔だとか不満もありますが、RetinaのiPad+Kindleアプリであれば読書体験として悪くないように思いました。

 楽天koboストアやSONY Readerストア、Galapagosストアと比べると、通販の王者・Amazonだけにショップの出来に明らかなアドバンテージがあります。う〜ん。なんで日本のショップはこの使いやすさを真似できないんだろう。

電子書籍ストア比較

 ITmedia eBook USERの定点観測:電子書籍ストア蔵書点数記事を元に表で比較してみます。Kindleストアは元記事になかったので自前で調査しました。ジャンル分類や統計方法がストアによって違うので参考程度に。

電子書籍ストア蔵書点数(2012/10/26版)
 ストア    書籍    コミック    雑誌    トータル   コミック率 
GALAPAGOS STORE 47581 27851 5958 81390 34.22%
Reader Store 40069 24743 2386 67198 36.82%
Koboイーブックストア 54211 11155 65366 17.07%
Kindleストア 54012 14806 68818 21.51%

 履歴も含めてグラフ化してみたものがこちら。一回しかデータのないKindleが埋もれてしまっていますが。

20121026

 GalapagosストアやSONY Readerストアはコミックスの多い分抜け出しているみたいです。今の増加ペースだと年間4万点程度なので紙書籍の年間7万点にも及ばず、電子書籍が紙書籍の品揃えに追いつく日が見えてきません。

DRMと貸本

 「Amazonの電子書籍は貸本である」というwebの記事やツイートが回ってきました。これは「違う」と言いたいです。

 Kindle Direct Publishingというデジタル個人出版の仕組もKindleストアと同時に日本向けに始まっています。このシステムではDRM(コピー制御)も施すことができるのですが、DRMなしを選ぶこともできます。貸本、という言い方はこのDRMのことを指すのでしょう。出版社向けのメニューではどうなっているか確認することは私にはできませんが、恐らくKDPと同様の設定ができると思われます。つまり、電子書籍を貸本状態にしているのはAmazonではなく版元——出版社です。電子書籍ではオライリーという技術系書籍専門出版社がDRMなしを謳っているので、ここがKindle日本ストアにタイトルを並べるようになればはっきりするでしょう。
 現状の電子書籍が貸本状態であるのはGalapagos、SONY Reader、Koboでも同様です。失敗に終わったΣbookやLIBRIeとも状況は変わっていません。これは電子書籍ストアの淘汰が始まったときに大きな問題となるはず。デスクトップ検索での書籍内検索利用も含めて、DRMの廃止、もしくは端末やお店の利用IDではなく、個人にDRMを紐づけるような仕組が欲しいところです。

Kindle Direct Publishing

 上の項でも書きましたが、始まっています。KDP日本。

 ただし、まだイマイチな部分もあってAppleのiBooksできちんと縦書き表示できるePub原稿を元データにしてKDPにアップロードしても縦書きのmobiになってくれません。このあたりは良い原稿作成フローを見つける人がでてくるか、KDPの対応を待ちたいと思います。

 ePubを用意する→Kindle Previewで表示、という手順でaozoraepub3で作成したePubが縦書き・ルビあり・傍点あり・章題ありできちんと認識されました。「Table of Contents」に目次がきちんと表示されなかったのが惜しいものの、かなり簡単にKindle向けデータが作れることは確認できました。
 Kindle Previewは28日までのMac版ではMountain Lionでは起動不可だったのですが差し代わったようです。

 自作小説の無料版を配布したいのですが0円設定は裏技的な方法しかないようです。

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『戦後SF事件史』長山靖生

戦後SF事件史
長山靖生
河出ブックス
2012.2.11
★★★★☆

ハヤカワSFコンテストに絡めて

 この感想を書いているのは2012年10月半ばで半年ほど後に来る話ですが、“第一回”としてリニューアル・再開されるハヤカワSFコンテストへの応募を考えている人にも勧めておきたい。『戦後SF事件史』では非常にタイムリーに第一回の空想科学小説コンテスト(第二回からSFコンテスト)についてまとめられてます。
 初期のハヤカワSFコンテストの様子を知るにつれ、今年“第一回”として再開されるハヤカワSFコンテストはSF第一世代を生み出した最初の空想科学小説コンテスト再現を狙ったのかな、という気が。半ば伝説となりつつある伊藤計劃、芥川賞の円城塔、直木賞候補となった宮内悠介とSFへの追い風が吹いているこの時期を、SF誕生期の再現としたいのではないか、と。

 扱われているのはSF小説だけではないです。『日本SF精神史』ではSF小説の黎明期を中心に取りあげていたけれど、こちらは戦後が対象ということで何かと生々しく、学生運動や共産主義思想、芸術などと絡んで成長してきた昭和のSFが示されます。『S-Fマガジン』、SF大会、コミケ、あたりまで来ると私も知識として知っている範囲に入って来て現在と地続きになり、宮崎アニメ、オウム真理教と私の世代のリアルタイムに。そして、最終章では2011年の東日本大震災における原発事故にまで言及します。

 そしてSF的想像力から目を背けた日本は、政治的にも経済的にも凋落を深めてゆく。そんなSF的想像力忌避の姿勢が、二〇一一年三月の東京電力福島第一原発の「想定外」の人災事故に繋がっていると私は思う。

長山靖生『戦後SF事件史』p.255

 私は原発事故は、ここで作者が指摘した90年代後半以後ではなく、20世紀中——いや、人類史上ずっと継続してきた想像力の欠如に由来している気がします。先に「建てる」ことが決まった原発の建設に際しての安全評価が適正であることなどありえない。そんなことは当時からわかっていて、今もわかっていながら無為に放置せざるを得ないのが社会というものなのでしょう。原発だけでなく、災害対策も資源も高齢化も。何か重大事が起きるたびに想像力の欠如を思い知る、その繰り返しに、というようなことを考えさせてくれる本でした。

 SFへの期待で締めくくられ、前著に続いて読後感の良い一冊でした。

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『くろよめ』かずといずみ

くろよめ
かずといずみ
芳文社まんがタイムKRコミックスGLシリーズ
2011.2.11
★★★★☆

 昨年二月刊行のコミックスの感想です。

 同人作品と『つぼみ』誌掲載の「めとらば」を合わせて本にしたもの。同人部分は「めとらば」の前日譚的な位置づけのお話です。主登場人物は違いますが。テーマは“嫁”。百合漫画アンソロ誌に掲載ということで百合的ではありますが、恋愛物ではない……かな。

 とっても優秀なOLで大きな昇進が目前の光子。同僚と飲んで「嫁が欲しい!」と喚いた翌朝、起きてみたらお嫁さんがいました。嫁本人は世界嫁派遣協会から来たという無料体験嫁だというのですが……という「くろよめ」。
 大きな賞を受賞して大活躍の女流小説家。小説は頑張ったけど家事は苦手で家は魔窟状態。うっかり引き受けてしまった「お宅拝見」的企画のために雇ったのがお嫁さん。「くろよめ」に登場した世界嫁派遣協会改め「めとらば」から来たのは若くて可愛らしくて、家政婦的イメージとはかけ離れた子だったのでした。おおいに気に入った小説家先生はさらに大活躍。ところがと話の展開する「めとらば」。
 ほぼ同量のボリュームのお話ふたつ+両方のお話の後日談的短編二本+あとがき漫画。「くろよめ」は同人版からかなり手を入れたとあとがきにありました。

 面白いです。
 生活能力の高い優秀な女性と健気な“お嫁さん”の組み合わせのお話で、古典的な“嫁”のイメージと“嫁”を必要とする働く女性のペアはかずといずみ漫画の王道&保守なところと相性が良かったように思います。『貧乏姉妹物語』でのちょっと大時代的なトラブル設定に比べると洗練されたお話の印象で、とても馴染みやすく楽しい“嫁”話であると思います。男性主人公の元に“嫁”が派遣される話は今の時代だとちょっと受け容れにくいかもしれませんが、できる女性と家庭的な女性と、という組み合わせはほのぼのとします。現実でも社会で活躍している女性には「お嫁さん欲しいなー」的なことをいう人はいたりしますね。

 かずといずみは「銭湯ハワイ」という作品が『つぼみ』に不定期?で載ったりしています。『くろよめ』に続く職業もの、かな。

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『荒野の恋(3)』タカハシマコ×桜庭一樹

 荒野の恋(3)
タカハシマコ×桜庭一樹
講談社KCデラックス
2012.10.5
★★★★☆

タカハシマコ×桜庭一樹によるコミカライズ・シリーズの第三巻。最終巻です。「少女でも 大人でもない 今だけの特別な時間——」という帯が付されているように思春期に差し掛かった少女の成長を描いたお話で、三巻では原作小説二巻目の内容を追います。少し駆け足気味に、でも原作ではちょっと抵抗のあった要素を適度に受け容れやすい形にして。二巻で動いたエリカとの関係も少し切ないままに十四歳を迎えて荒野も十四歳なりの恋愛観、異性観を身につけていきます。桜庭一樹の描く少女像と生身ゆえのリアルのせめぎ合いが、タカハシマコの表現で少し幻想に寄った印象でした。

 桜庭一樹の原作小説ではこの後十六歳の荒野が描かれますが『なかよし』誌連載のコミカライズでは十四歳の荒野でも対象年齢の読者にとってはきっと精一杯の背伸び。生々しさが際立った印象もあった十六歳の荒野は、小説で触れてあらためて強い印象を受けるという形で良かったのだと思います。

 『なかよし』の対象外となる大人の読者としては小説版の最後までタカハシマコの手によって描かれた荒野を読んでみたかったです。原作に忠実に展開していたストーリーも、タカハシマコオリジナル要素も見てみたかったかも。

 桜庭一樹×タカハシマココンビのもうひとつのシリーズ『青年のための読書クラブ』三巻が待ち遠しい。

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『屍者の帝国』伊藤計劃×円城塔

屍者の帝国
伊藤計劃×円城塔
河出書房新社
2012.8.24
★★★☆☆

「パンツじゃないから恥ずかしくないもん」

 作中、かなり?不正確だけどこんな感じのシーンがありました。
 なんとも不思議な感じでした。夭折したSF作家・伊藤計劃の残したプロローグを元に、芥川賞作家・円城塔が完成させた、という重い背景を持つ作品ではあるのですが、その内容はというとホームズ物設定で、007パロディ的で、ゾンビ物でという混沌とした話です。死体に“霊素”なるものを吹き込んで動かすという設定に、この作品自体が伊藤計劃の遺稿を円城塔が完成させたもの、という成り立ちと重なるのだなというのは誰しも思うところでしょう。

 あらすじは……。
 死者を機械のように動かす技術の普及した十九世紀後半、医学生のジョン・ワトソンは英国の密偵となりある特異な屍者技術を追ってアフガニスタンや日本で冒険を繰り広げる、というものです。ヴァン・ヘルシング、英国諜報部、ピンカートン、カラマーゾフ兄弟、フランケンシュタイン。なんでもありの超ごった煮は伊藤計劃的、かな?

 『虐殺器官』『ハーモニー』での伊藤計劃は、たとえ明るいはずのシーン・展開であっても重苦しく鬱々とした気配がありましたが、この『死者の帝国』はどちらかというと前向きな書き手を感じさせてくれます。それは伊藤計劃的でないかもしれないというだけでなく、非円城塔的でもある印象。伊藤計劃×円城塔のどちらが霊素でどちらがボディであるのか。作品となって姿を現した『死者の帝国』には伊藤計劃でもなく円城塔でもないという、不気味の谷とも言える違和感がありました。

 読んでいて断然面白くなってくるのは第2部から。第1部では霊素という言葉に付されたフリガナでしかなく、007パロ要素にも思えた「スペクター」という言葉が第2部に入って俄然生きてきます。虐殺の言語やSelf-Reference Engineといった伊藤計劃的、円城塔的なイメージの立ち上がりに興奮しました。その一方でますます不気味の谷は深くなり、これは一体誰の物語なのだろうという違和感が増していきます。

 ところが、ところが。
 読み終えて感じられたのは伊藤計劃でした。

 う〜ん。しかしオススメしづらい。ゴシックホラー的なものを好む人にはパロディ的な側面や雰囲気演出の淡白さが気になりそうですし、第2部以降で浮かび上がる魂、知性、進化といったテーマの面白さが一転してそこに共感を持った読者の否定に繋がりそうな展開もハードSF好きには「むう」となってしまいそう。それこそが伊藤計劃的という印象へ収束した理由ではあるのですが。
 読んで良かった、楽しめた、というのは確かですし、理解するのが難しいような難解な作品でもないはずですが、これを勧めてストレートに「すごく面白かった」と喜びそうな知り合いの顔が思い浮かばなかったのでした。書かれた経緯が経緯だけに予備知識込みで勧めて良いのかまっさらの状態で読んでどう感じるのか。フィルターがかからずにはいられないという難しさを備えてしまった気がします。

★ ★ ★

 『S-Fマガジン 2012年 11月号 』 に掲載されていた「屍者の帝国刊行円城塔インタビュー」という記事を読みました。思ったよりずっと円城塔の作品であったことを知りました。でも、伊藤計劃であることの必然が込められていて、という印象ともなりました。『屍者の帝国』を読んでの印象とは重なるような、意外なような、よくわからないような。伊藤計劃の病も死もその後の展開も、単なる事実ではあるのですが歴史という作品になっているんだな、という感覚が湧いてきました。

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wz形式構造化テキストのOPML変換

 構造化テキストというものがあります。

.項目名A
内容
..項目名B
内容
..項目名C
内容

 wz形式テキストと呼ばれたりしますがPalmのメモあたりが起源のような気もします。行頭に置かれた“.”(ドット)の数で階層の深さを表現する単なるテキストファイルで、対応しているソフトでは下のようにツリー構造で表示されます。例は小説を書く際のもの。

秀丸による構造化テキストのツリー表示

 Windowsではwz editorや秀丸エディタがこのタイプのテキストに対応していて、SL-Zaurusでもwznoteという名アプリがありました。簡素なアウトラインプロセッサで採用される形式です。
 ところがMacやiPad/iPhoneのアウトラインプロセッサ、アイデアプロセッサではこの種のテキストは使われずOPMLという形式のXMLが使われています。変換ツールも見当たらないようなので、作ってみました。秀丸マクロで。

2012.10.24追記:うまく変換できない階層テキストがあるようです

  • wz形式構造化テキストをOPMLに変換する秀丸マクロ wzopml.mac

wz→OPML変換結果 simple outliner 変換対象はiPad/iPhoneアプリのsimple outlinerの有料版。dropBox経由で読み込ませることができました。OPMLは採用アプリごとに互換性が怪しく他のアプリで使えるかどうかは不明です。
 変換したい構造化テキストを秀丸で表示し、上掲のマクロを動かして拡張子opml、文字コードutf-8で保存すれば良いはずです。制限としてはツリー階層に「飛び」がある構造化テキストは変換結果がおかしくなります。

.項目名A
内容
.......項目名B
内容
..項目名C
内容

 こういうのはうまく動きません。
 動作すればラッキー、くらいのおつもりでお試しください。複製・改変・再配布自由のCCです。

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