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『ウタカイ』森田季節

ウタカイ
森田季節
一迅社
2012.1.18
★★★★☆

らぶらぶだよぅ〜

 『百合姫』の2012年5月号から2013年1月号に連載された長編小説の単行本化です。帯には「コミック百合姫連載作を大幅に加筆修正、描き下し超短編も収録。」とありました。どのくらい変わっているのだろう、と連載分と照らし合わせてみたところ短歌も文章も相当に手が入っていました。短歌では言葉の選び直しが徹底され、文章もストーリーの大筋に変わりはないものの細かくあちこちが見直されていました。

 体裁はB6版ソフトカバー。表紙は金色でキラキラで、その金の色味が「和」の感じ。重厚感があります。表紙イラストは雑誌掲載時の茂田家からえいひに。本文イラストはなし。表紙と扉絵で小さな仕掛けが施されていて最近の『百合姫』の表紙の作りを連想しました。
 『百合姫』掲載時には字が小さめでしたが単行本では1.3倍程度のフォントサイズになっていて読みやすくなりました。一行文字数も増えて短歌が途中で改行されなくも。改行位置によってはぶった切り感がでちゃいますもんね。フォントが短歌のみ毛筆体になったのも読む側のモード切り替えが働いて良い効果が出た気がします。
 装丁や体裁も含めて、電子書籍が出てきている時代を反映して紙ならではの良さ・質感に訴える本作りをしてきている気がします。実物を見ると欲しくなるはず。なりました。

 異能バトル+短歌+学園百合でライトノベル寄り。短歌を詠む際に“歌垣うたがき”なる特殊効果的なものが生じ、詠み手たちは炎や氷や霞や龍の歌垣を伴う短歌で勝敗を競います。この歌垣の設定があまり細かく説明されないので「これは複合現実ARみたいな技術を利用してるの? 伝奇的な超能力バトルなの?」と軽く戸惑いますが、読み進めば「とにかく歌垣というものがある競技短歌なのだ」と引きずり込んでくれます。ニュアンス的には熟練者同士の共同幻想……みたいなものかな?

 単行本を読んでいて気づかされたのは、この『ウタカイ』が少し前からの『百合姫』の路線を反映しているということ。二年ほど前の“再誕”リニューアル以降、『百合姫』では表紙連動イラストノベルでガンアクション百合をやり音楽ものやサーカスものの連載をするようになりました。2013年3月号の編集部座談会記事でも「百合+α」について触れられているように、百合恋愛のみでなく他のテーマを合わせ持ったものに注力されているようなのです。
 『ウタカイ』はそこにぴたりとはまります。短歌という“α”を異能バトル化し、けれど本筋である百合は恋の歌でたっぷりと。短歌の扱いも本格的で「歌のためにすべてを擲つ」キャラが自らの恋愛をも歌の素材にしていくという“業”を背負わせ、歌を詠みまくる。しかも難解さもなく「読めばわかる」。これは『百合姫』の求めるものがそのまま——以上に良い形になった作品だと思うのです。

 短歌、ということで素養のない私は連載開始時にちょっと身構えて読みはじめました。
 でも短歌も慣れます。慣れました、簡単に。各キャラの立場で詠み分けられているのもわかりましたし、まっすぐな主人公の詠む短歌もまっすぐです気持ちよく通じます。短歌もお話も素直に面白い!と思えたし、単行本で改めて読み直しても面白かった!です。

 単行本を読み終えて強く思ったのは「『ウタカイ』について誰かと話したい」でした。あと「身近な本好きに勧めたい」。短歌好きな人にはこの話は、話の中で詠まれる短歌は、どう映るのだろうと気になります。この一首はいい、これはイマイチ、この歌のここがいい、みたいな議論や評が聞いてみたいし、「これ萌えたよね」「うんうん」というのをやりたい。
 私が気に入ったのは甘雪の

地下五階飛び降り自殺できなくて屋上着けば気分晴れゆく
虫刺され刺されるところ見たことないほんとに虫かほんとうに虫か
皿を割れ一時間後を考えず皿を割るのだ十七歳なら

森田季節『ウタカイ』P.155より

といったあたりで読んでいて鼻水が出ました。ぶはっ。

背の高いあなたのために背伸びする努力を褒めて、でなきゃ縮んで

森田季節『ウタカイ』P.157より

こういうのも好きです。笑いオチのあるものが好み……なのかな。

 オススメのポイントはもちろん短歌ものであるということですが「らぶらぶ」なところも推しです。
 といってもラブシーン描写があるわけではないです。主人公には先輩兼ウタカイ・ライバルである同性の恋人がいて、作中のほとんどすべてが恋人への思いから生じる行動と短歌で占められているのです。描写としてはせいぜいが手を握る程度なのに、最初から最後まで言葉でいちゃついていて、でもベタベタした感じじゃなくてきりっとして甘々。恋ってなんだろう、というところをこれでもかこれでもかと描いてくれます。らぶらぶ度高いです。

 読書メーターでも反応良さそう。

 鏡霞先輩と主人公・伊勢を描いた前日譚も作者ブログで公開されています。『ウタカイ』単行本作中とも呼応するシーンや歌がありました。

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