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『ゴシックスピリット』高原英里

 猟奇ってなんだろう、と思いました。
 この本で紹介されていた大越孝太郎のコミックを読んでみたのです。猟奇的な設定・シーンの目白押しに、うわ、と思ったのも過激なはずの世界にはあっという間に慣れてしまいました。魔に見入られる人のパターン、調教に染まるという妄想の都合の良さ、狂気への様式美的なステップ。読んでいて引き付けられるものがある反面、描かれる猟奇的な世界には奇妙な安定感・保守性感じたのでした。

 『ゴシックスピリット』は同著者の前作『ゴシックハート』と同じゴシックテーマの本ではありますが、内容的な重複はほとんどなく新鮮な内容でした。今回は特に和ゴシック――江戸の演劇や江戸川乱歩が加わり目新しさを感じました。今回のメインテーマかな。

 ところが日本文化の中から見出すゴシック、は読んでいて違和感がありました。確かにエログロにアプローチした乱歩は猟奇も怪奇もありますし、古典怪談も欧米のゴシック文学が元にした民間伝承や怪談と近いものがありますが現代のゴシックと接続するためにはもうワンステップが必要な気がするのです。いえ、読んでいてそんな気がしてきました。
 恐らくそのワンステップは京極夏彦のように古典怪談を現代に蘇らせ、今のゴシックから過去へ向かう川筋を辿って古典と繋ぐという行為。和の猟奇や怪奇とアンチキリスト的な存在であるゴシックはこれから繋いでいかねばゴシックになりえない。様式美、しかも真に根のある伝統ではなく、フィクションの世界に立ち上がった幻想怪奇の様式美に連なることにこそゴシックがあるように思えます。単に共通要素のあるものを挙げてもそれはゴシックたりえないのではないか、と。
 たぶんその接続は「萌え」の世界では以前からあって、巫女服にフリルやレースが組み込まれたり、陰陽師が華麗な活躍を見せていたりと漫画やアニメで形になっている部分にはあったのでしょう。江戸文化を通り越して中世的な日本文化とゴシックの接続はすでに済んでいる、ということになるでしょうか。

 そんなことを思いながらこの本が挙げた大越孝太郎を読んで冒頭の「猟奇ってなんだろう」となりました。

 もうひとつ印象に残ったのが短歌のゴシック。塚本邦雄らの作品が紹介されていたのですが『ウタカイ』以来短歌が面白く思えてきた身には興味深い内容でした。ボリューム的にはちょこっとでしたが。

 論よりも紹介に比重が置かれていることもあって、良いゴシック読書ガイドになっているのは前作同様。ここでは江戸もの絡みの話にボリュームを割きましたが、洋モノの系譜の紹介や明治以降の日本のゴシックもたっぷり紹介されていました。

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