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『脳はいかにして〈神〉を見るか』アンドリュー・ニューバーグ、ユージン・ダキリ、ヴィンス・ローズ

脳はいかにして〈神〉を見るか
著:アンドリュー・ニューバーグ、ユージン・ダキリ、ヴィンス・ローズ
訳:茂木健一郎
PHPエディターズグループ
2003.3

 SPECTという脳機能イメージング技術を利用して瞑想中の脳の活動状態のスナップ写真を撮り、それを元に神秘体験と宗教をどう位置づけるかという本。

 この本の基本的な立ち位置は科学です。スピリチュアル、宗教、神秘体験といったことを扱いはしますし、それらに必ずしも否定的ではないどころか神秘体験については肯定的ですが科学の側からのアプローチとなります。
 もっとも神秘体験について肯定的、といってもスーパーナチュラルな現象や能力、特定の宗教の神を全肯定しているわけでもないです。この本で言う神秘体験はヨガや仏教のような瞑想がもたらす特定の感覚、「神秘的合一」や「絶対的一者」と定義するもののことです。霊と交信したりするような部類の体験は対象とはされていない模様。
 客観的な物質世界の実在は大前提。神秘体験も基本は「神経学的な現象のひとつ」というスタンスです。

 脳の基本的な構造、機能分布の大まかな解説をし、それを基礎知識として宗教と神秘体験を神経学的現象と位置づけるという展開の本です。論理は非常に明解で、文章も読みやすく、用語も平易です。デネットの『解明される宗教』ドーキンスの『神は妄想である』といった“ブライト”派のように宗教に対する蔑意も露わで信仰を持つ人々を門前払いにする冷たさもありません。宗教に対する視線が優しいのです。
 とはいえ宗教の側に立っての論理展開ではなく、脳の構造や機能にヒトの精神活動のすべてを帰そうという立場で論じられるものなので宗教を解体する思考には違いはありませんが……。

 非常に興味深く、好ましく読めた本ですが大きな欠点もあります。それは病的な妄想・幻覚と神秘体験、客観現実世界の三つのリアリティを並べたときに妄想・幻覚だけを低く置くのですがその根拠が「主観」によるリアリティ感覚の度合いでだけであること。瞑想による神秘体験と客観現実は単にリアリティ中枢が刺激されているだけではないのか、という指摘に著者らはどう答えるのか疑問です。
 また宗教全般の根源を神秘体験にだけ帰結させるロジックも今ひとつ納得が行きません。

 それでも脳機能イメージングと神秘体験を対象に実際の現象を観測し、そこから神を論じようと言う実証的なスタンスはとても好ましいものに思えます。精神活動にそれなりの物質的根拠を与え、論理の迷路から抜け出す足場を作っているように思います。脳機能イメージング技術の発展でリアルタイムに、いつでもどこでも脳の活動をモニタできるようになっていくだろうこれからの時代、胡散臭さの漂いがちなオカルト、スピリチュアルの世界の客観的な基準になるのではないかと思います。

 一応、念のために書いておくと私は宗教やスピリチュアル的なものを信じていない科学の信奉者です。その上で宗教や神秘体験に対する関心がある、という立場での紹介・オススメとなります。この本を底本に、より瞑想者側の立場から述べた『瞑想する脳科学』も併せてオススメです。

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