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『マカロンムーン』川原由美子

マカロンムーン
川原由美子+伊咲こゆる
朝日新聞出版
2014.8.7

 川原由美子の漫画が好きです。『観用少女』『TUKIKAGEカフェ』『ななめの音楽』のいずれも好みのど真ん中で、新刊が出たら買う作家リスト筆頭。

概要

 『マカロンムーン』は『Nemuki+』という雑誌の2013年5月号〜2014年3月号まで連載されたお話に描き下しのプロローグとエピローグを追加したもの。
 製菓部で制作しているコンクール出品作の大きなマカロンのお菓子が何者かに齧られて三日月型に! 犯人を捜せ!と立ち上がった主人公・みたらしが呼んで来たのが探偵役・きなこ。事件はあっさりと解決、と思いきや——。
 低めの頭身の可愛らしい絵柄でお菓子のような甘さと不可思議な雰囲気につつまれたファンタジーなのです。一見。
 ところが後半では甘いだけのお話ではないところへとシフトしていきます。
 カバー下には設定画のおまけもありました。

 以下は既読者向けの徒然となります。

死想の系譜

 可愛らしい絵柄。人魚にマカロンに華やかな衣装。イマジナリーフレンド。ウサ耳、ネコ耳、キツネ耳。“萌え”を盛り込んだかに思える「にゃん」や「ぴょん」といった語尾も加わり「川原由美子ってこういうの描いたっけ」と戸惑いながら読み進めました。
 けれど同時に散りばめられるのは「最悪なときに現れる呪い」であり少女二人の頬に鏡像に記されるのは「血の色に潰れる果実」。多用される双子のレトリック。甘々な表現は次第に苦みに取って代わられ、やがて物語の骨格に据えられたものが明らかになります。
 それは少女性でした。

 成長と変化の苦みを少女趣味で糖衣のように覆い隠し、一方で変化を拒む少女の心は永遠を求めて死の淵を歩くことさえ厭いません。仕掛けがあるはずだから、と高所から霞の中へと身を躍らせるというまかり間違えば悲劇的な事故に繋がりかねないことに踏み切れるのはゴシックという死想に身を委ねていればこそ。死を甘く覆い隠した少女の心持ちはゴシック・ロリータと呼ぶべきものでしょう。衣服としてのゴスロリではなく、概念としてのゴスロリを物語に立ち上げたのが『マカロンムーン』なのだと。

 少女趣味の糖衣という第一印象からゴシックへのシフトに気づけば物語を遡り初めから「少女性とゴシック」が主題であったことにもまた気づかされます。そして、単行本の描き下しパートにより示された「伊咲こゆるにより綴られた物語」というメタ構造。『ななめの音楽』の登場人物による作中作が『マカロンムーン』であるという仕組が示すのは、伊咲こゆるという夢見がちなキャラクターがゴシックな感性をも備えている、あるいは『ななめの音楽』を通じてゴシックという思想に取り憑かれたという解釈もありなのかもしれません。

 きなことみたらしの結末については読者に委ねられているようにも見えますが、先の見えない奈落へと身を躍らせることのできたきなこと、堅実なルートを求めたみたらしとはとうに異なる道を辿り始めていた、と見ることも出来るでしょう。みたらしがきなこを受け止めたのは相反する二つの自我の受容を象徴していた……的な見方もできるでしょうし、きなこがどうなったのか解釈を絞らせないのも「そういうお話」として作られたようにも思えます。

ゴシックの夏

 この夏には映画『思い出のマーニー』の公開がありました。少女小説原作のアニメ映画化ですが廃墟、幽霊のような金髪の少女、田舎、血の繋がりとゴシック的な要素をたくさん含んだ映画でもあります。
 川原由美子の新刊に備えて復習のつもりで『アルラウネ』という小説も読んでみました。H.H.Ewersによって1911年に書かれたゴシック小説で、マンドラゴラ、マンドレークなどとも呼ばれる人の形をした根を持つ植物についての怪奇譚、と紹介すれば川原由美子ファンはピンと来るはず。『観用少女』のルーツに当たるだろうお話です。
 それらの物語に触れてゴシックへの感受性が上がっていたためでしょう、『マカロンムーン』がゴシックな感性を秘めていたことに心が踊ったのでした。

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