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第19回文学フリマ収穫雑感

フリマ当日の感想

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 いつもの文学フリマという感じでしたが「小説家になろう」とのコラボ生放送イベなんかもあったりして同人誌即売会から複合イベントへと発展して行くのかな、という印象を受けました。

  1. 電子版カタログをiPadに入れて道中にチェック
  2. 会場ではまず見本誌コーナーに行って(1)でチェックしたサークルの本を試し読み
  3. (2)で印象の良かった本が見つかったらブースへ直行・購入

というパターンで(2)〜(3)を繰り返し7冊ほど購入しました。その後チラシ置き場とブースを眺めて歩き、気になった本を見つけるたびに見本誌コーナーへ戻り、といった感じです。ブースの前に立って本を品定めすることはほとんどありませんでした。たいてい、購入を決心してからブースの前に立ちます。

 上記のような買い方をしていたので、カタログ——見本誌——ブース、の情報の連鎖がどこか一カ所でも切れていると購入に結びつきません。カタログでチェックを入れても見本誌が見当たらなければ見送りますし、見本誌が見当たらなくてブースまで行ってみてもスペース番号が両隣含めて見当たらないと(カタログ自体に発行物のタイトルが記されていないことも多く探索物と一致しているか確認できない)もう探す気になりません。出展者も本も他に山ほどあるのですから。今回多少がんばって情報連鎖が途切れてたサークルでも「ここの机で良いのかな」と思いつつ購入したコピー本がカタログに載せられていた内容とまったく違ったりもしたので、たぶんもう情報整備に不備のあるサークルの本は買わないことでしょう。

 呼び込みの是非が一般参加された方々のブログ記事やTwitterで散見されますが、上のような買い方をしているために呼び込みは私に関しては効果ゼロでした。今回は呼び込みしてらっしゃるサークルのご本も買いましたが、最初から買うつもりで近づいていたので呼び込みは煩わしく思えただけでした。違うタイプのお客さんもいると思うので一概には否定できませんが。

 以下、入手した本の中から数点感想を。

Excelsior!5 特集海底二万里 日本ジュール・ヴェルヌ研究会

 『海底二万里』の分析・評論本です。シリーズにはヴェルヌの他の著作の特集もありましたが一番好きな『海底二万里』特集を買ってみました。濃い! 文学として翻訳としてSFとしてそれぞれのジャンルの専門家が原稿を寄せているようです。『海底二万里』好きにはぜひお勧めしたい。軽めの随想ではなくプロの研究者や翻訳家、科学者の手による『海底二万里』本で読み応えに関してはこれ以上は望めないのではないかと思います。とにかくすげー。読んで満足。ヴェルヌの自然科学の蘊蓄が好きな身には、理工系アプローチの記事があったのも嬉しかった。

糸雨の残躯/歌う繭 篠崎琴子・八坂はるの

 見本誌のチェックでさっぱりとまとまりの良い装丁に落ち着いた文体の印象から購入を決めたもの。当たりでした。ユウとミズキの二人とひまわり、繭のイメージの共通する二つのお話で構成されています。どちらの話も丁寧で繊細な描写が心地よく。読み終えてもう一冊あった新刊も買ってくれば良かったと思ったのでした。しっとりと落ち着いたタイプの少女小説的な雰囲気の幻想譚です。作者さんたちのサイト。「リルの記憶」 「さかなのまぶた」

ゆりくらふと2

 全体に、ちょっと、惜しい。ボリューム比で価格は頑張ったと思う。誌面デザイン・編集力面でやや物足りなかったかな、と思ってしまったのは今回他に買った物が良すぎたからかもしれない。小説、漫画、批評とオールジャンルで百合ネタでした。ハードなエロとかではなく穏当な感じの、百合好きが集まって作ったというイメージに近い本でした。

夢見ル艦ノ夢見レバ 厭人機関

 志保龍彦さんのサークル発行物。しばらく前エーヴェルスの『アルラウネ』を読んだときに、当たり前になりつつある医療や技術に恐怖を載せるのはキビシイ、というようなことをツイートしたのですが「ながむしは牡丹に眠る」を読んで考えを改めました。「蜘蛛の籠」と「John Doe」も大変面白かったです。足腰のしっかりした文章の底力の感じられる六編。

『今夜はコトノハ植物園で』

 私も参加させていただいたソウブンドウ様の『今夜はコトノハ植物園で』ですが、寄稿者という立場ということでテーマ決定や編集にはノータッチで、自作以外は完全に読者として触れました。紹介もかねた感想を。

世界の終わり、きみとのぼる朝陽を見た 神尾アルミ

 一迅社文庫アイリスで活躍されている神尾アルミさん。商業出版ではレーベル色もあって華やかな設定のお話が多いですが、ソウブンドウではしっとりとしつつ激しい感情を秘めた少女の感情/関係を丁寧に追って行くお話が印象的。ですが今回は閉鎖環境で生きる男と植物から生まれた小さな少女の話で、男の朴訥な力強さと閉鎖環境の息苦しさが相俟ってかつての東側陣営のSF映画のような重さがありました。

花食む月 若本衣織

 今回ワタシ的に一等響いたのがこれ。埋葬された後には花となり、やがて月に還るという人々の世界を描いたお話です。世界の仕組とその仕組の上に積み上げられた文化・風習との軋轢がぎりぎりと迫ってきて、月の描写も直接は控えられているのに立ち上がってくるイメージの濃さが素晴らしかった。作者は怪談実話コンテスト特別賞受賞者。

樹想夢記 空木春宵

 第二回創元SF短編賞佳作受賞の作者の幻想譚。「こんな夢をみた」という漱石の「夢十夜」、あるいは黒澤明の「夢」を思わせるフレーズで始まります。文明崩壊後らしき世界で歩き回るようになった植物と細々と生き残るヒトのお話。古風な表現が入り交じり読み手に没入を求めるどっしりした作風です。よーし読むぞ、と少しの気構えを用意して読み始めましたがその甲斐はありました。作中、おやここはあの場所ではないか、という遊びにくすりともしたり。必ずしも相互に一致しない主人公と樹月いつきの感情の絡み合いが心地よく。

いばらゆき 七木香枝

 ソウブンドウのご本に載った作者のお話はどこか黄昏を感じさせる作風で今回の灰の降る街にもその空気がありました。かっちりと何が起きているかを一から十まで示すストーリーではなさそうですが茨に囚われ肌を破られ、花を咲かせる銃のイメージには官能の気配が漂います。もう少しこの世界を教えてよ、という飢餓感を煽られました。

表紙 キリコ

 本の紹介ページには表紙画像も載せられていますがどっしりとした色味で印刷された実本は印象が強いです。収録されているお話的にイメージの近さを感じたのは「いばらゆき」と「樹想夢記」でしょうか。

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