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2014年12月の5件の記事

『となりのロボット』西UKO

となりのロボット
西UKO
秋田書店
2014.11.14

 『プリンセスGOLD』2013年7月号から2014年11月号まで掲載されたお話です。「わたしはロボットです。今はだいたい人と同じことができます」という言葉から始まる、ヒロという女子高生型ロボットとチカという人間の女の子とのお話。百合モノが得意な作者で『となりのロボット』もジャンル分けするならば百合漫画。でも、それだけじゃなく、ロボットというテーマをしっかり描く事でSFでもあります。
 少女漫画誌でSF?と思われるかもしれません。確かにデテールの部分では少年・青年誌のようにメカメカしさを主張したりはしないのでメカとしてのロボットものという印象からは遠いのですが、人間のヒロイン・チカのヒロに対する認識・ロボット観が『アトム』が視聴者に求めた共感や『銀色の恋人』の示したウェットな“心”とはほど遠い唯物論的・還元主義的なクールさなのです。チカはヒロがあくまでも機械である事を自覚しながら、ヒロに対し執着や感情を持つ。一方のヒロも淡々とした機械としての自身を保ちながらチカを特別な存在として認識しているようなのです。
 そう説明すると人間味のない冷たい機械のお話、というイメージが湧くかもしれませんが、それは断じてNO!なのです。チカの見せる執着の熱い事。幼少期にヒロと出会い、ヒロと接しながら育ったチカはヒロが単なる機械である事を当然のこととして受け入れ、機械であるヒロに対する執着を“恋”と認識します。その想いは間違いなく熱さに加え、チカ自身を客観視するクールな視点が想いの熱さを際立たせます。熱さとクールさの同居するチカの感性にこそ、SFが濃厚に漂います。『攻殻機動隊』では物質世界を越えた「ゴースト」を仮定し魂が複製不能であるとして一種の心身二元論を導入していますが『となりのロボット』では、ヒトの世界に溶け込む事のできる=チューリングテストをクリアするロボットに霊性を与える事なく恋や愛の対象とするのです。これをSFと言わずしてなんと言いましょう。
 もちろん、先にも書きましたがガチガチのメカメカしいロボットものではなく(大人向け)少女漫画誌に掲載された作品らしくチカの想いを中心に描かれる恋愛ものとしての読み応えも十分。たった一度しか訪れる事のない初恋の初々しさ大切さもきゅんときます。

 かつての24年組が描いたウェットなSF少女漫画とは異なるアプローチですが、紛れもなくその血脈を引きつつ、正統派SFとしてのスタンスを持った人型ロボットSF少女漫画と思います。SF好きにも百合好きにも恋愛もの好きにもお勧めできるはず。

 「むくわれない恋に落ちた2人の最高に純粋でアブないラブ・レッスン!!」という帯の文言は違わないけどちがーう!とは言いたくなったゾ。

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「アナレンマの黄金樹」の物理学・楕円軌道リング解説

アナレンマの黄金樹

 ソウブンドウ様『今夜はコトノハ植物園で』に掲載の「アナレンマの黄金樹」には“世界樹”というものを登場させました。神話や伝説に登場する象徴ではなく、作中世界に実在する地球規模の樹木です。
 あまりに大きな“世界樹”は大きすぎるが故に通常の構造・素材では強度が足りずに壊れてしまいます。そこでポール・バーチ(Pautl Birch)の軌道リングの亜種としての構造を与えました。地球を取り巻く輪っかに軌道速度の流体を流して、宇宙と地球をつなごう、というもの。“世界樹”は人工物ではなく生物(?)ですが、軌道リングと同じ構造を持っている設定です。

 バーチの軌道リングは地表とリングをケーブルで繋ぎます。それでは“世界樹”として大地に根ざす樹木にならないため、地上と宇宙とをシームレスに繋ぐアイデアとして捻り出したのが楕円の軌道リングです。楕円の近地点=地表となる軌道リングを設定します。
 単に軌道リングの形を楕円にしてもうまくいきません。地球は自転しますが、楕円軌道の近地点は自転に追従しないのです。追従させるには膨大なエネルギーと高強度の材料が必要になります。そんなのナンセンスです。

 バーチの軌道リングも楕円軌道を取っています。軌道リングはたとえ真円であっても荷重をかけると離心率の増加と近地点移動が起きるのですが、バーチの軌道リングではこれを逆手に取り、地上にケーブルを係留して張力を与え、近地点移動を起こさせて自転に追従させる制御をしています。

 そこでスマートな方法を考えました。楕円軌道で地表と宇宙を結ぶ構造物を造るアイデアです。ただし、中を流れる流体は楕円軌道をたどりますが、軌道リングの形は楕円ではありません。“アナレンマ(Analemma)”と呼ばれる形を描きます。
 私はこれを“楕円軌道リング(Elliptic Orbital Ring Systems)”と呼んでいます。

Elliptic Orbital Ring Systems

 図のような楕円軌道リングが地球の自転とともにぐるぐる回ります。
 納得、行かないですよね? 以下で説明します。

楕円軌道リングの物理学

 数式で説明する前にとりあえず視覚的に納得していただくのが手っ取り早いです。まずはWikipediaの「準天頂衛星」の項を見てください。GIF画像のアニメーションがあり、三つの衛星がたどる8の字型の軌跡が示されているはずです。楕円軌道リングはこの8の字の軌跡(準天頂軌道:quasi-zenith orbit)に流体を流し、カバーをかけて構造物とするものです。
 地上と宇宙を結ぶ楕円軌道リングは“みちびき”たちの軌跡のように8の字にはなりません。近地点\( = \)地表、となるために離心率が大きくなり、地球を半周ちょっとするジェリービーンズのような形になります。上の図の形ですね。

 数式による簡素な説明です。まずはケプラーの方程式。

Kepler

\(a\):軌道長半径
\(t\):時刻
\(n\):角速度(平均運動)
\(M\):平均近点離角
\(E\):離心近点角
\(e\):離心率
\(\theta\):真近点角

\[
M=n\times t \tag{1}
\]

\[
M=E-e\sin E \tag{2}
\]

\[
\begin{bmatrix}
x \\
y
\end{bmatrix}
=a
\begin{bmatrix}
\cos E - e\\
\sqrt{1-{e}^{2}} \sin E
\end{bmatrix}
\tag{3}
\]

 式(3)はケプラーの方程式の解です。細かな導き方は解説サイトがたくさんあるのでそちらに任せます。
 楕円軌道の周期\(=\)地球自転周期となる同期軌道を考えたときには仮想の(計算の便宜上導入された)平均近点離角\(M\)がとても便利です。地球の自転量\(=\)平均近点離角\(M\)となるからです。つまり、同期軌道を地上から見た軌跡は平均近点離角\(-M\)で回転変換をかければ求められるということです。

\[
\begin{bmatrix}
{x}_{sync} \\
{y}_{sync}
\end{bmatrix}
=a
\begin{bmatrix}
\cos M & \sin M \\
-\sin M & \cos M
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
\cos E - e \\
\sqrt {1-{e}^{2}} \sin E
\end{bmatrix}
\tag{4}
\]

 式(4)のたったワンステップで地表から見たアナレンマの軌跡が導けました。これで終わりです。条件は

惑星自転周期\(=\)楕円軌道周期
\(a \left( 1 - e \right) = \)近点動径\(=\)惑星半径

だけ。計算してプロットすると最初の図のような形が浮かび上がります。これで地表と静止軌道以遠を結ぶ構造物の骨格が成立可能であると示されたことになります。

楕円軌道リングの応用

 楕円軌道リングは濃密な大気のある惑星と相性が良いはずです。大気がなかったり希薄であったりする天体はカタパルト射出で用が済んでしまいます。設置候補としては太陽、金星、地球、木星、土星あたりでしょうか。(タイタンの計算例を追加しました。2016年1月3日)

各天体における楕円軌道リング
太陽金星地球木星土星タイタン
遠点高度 km\( 2.47 \times {10}^{6} \)\(4.28 \times {10}^{6}\)\( 9.05 \times {10}^{4} \)\( 1.92 \times {10}^{5} \)\( 1.86 \times {10}^{4} \)\( 5.78 \times {10}^{3} \)
幅 km\( 3.98 \times {10}^{6} \)\( 5.02 \times {10}^{6} \)\( 1.23 \times {10}^{5} \)\( 3.18 \times {10}^{5} \)\( 3.69 \times {10}^{4} \)\( 1.01 \times {10}^{4} \)
リング経路長 km\( 1.08 \times {10}^{7} \)\(1.68 \times {10}^{7}\)\( 3.63 \times {10}^{5} \)\(8.60 \times {10}^{5} \)\( 9.04 \times {10}^{4} \)\( 2.64 \times {10}^{4} \)
作動流体最高速 km/s\( 554.5 \)\( 10.35 \)\(10.8 \)\(52.4 \)\( 26.7 \)\( 2.11 \)

Sun Orbital Ring Systems
Venus Orbital Ring Systems
Jupiter Orbital Ring Systems
Suturn Orbital Ring Systems
Titan Orbital Ring Systems

 グラフは右側の点列が楕円軌道リングのもので、左側の円が母天体です。
 金星の自転速度の遅さによる母天体とのギャップに驚きます。逆に土星のコンパクトな楕円軌道リングは魅力的です。木星と土星はガスの採取プラントへの採用例を期待したいところ。太陽は温度の点で現実的ではないかもしれませんが、木星、土星も含めて表面よりさらに深くに潜るのに使えそうです。

 工法は、静止軌道上の一点から始め、小さな輪から少しずつサイズを大きく=離心率を大きくしていくことになるはずです。流体を循環させながら増築していきます。材料は橋やトンネルを作るための一般的な建材でOK。設置対象が木星であっても特別強力な素材は必要ありません。実現に際してブレークスルーが必要そうなのは内部を循環させる流体で、ほぼ粘度\(=0\)が望ましい、というのもバーチの軌道リングと同様です。「アナレンマの黄金樹」作中では樹液にヘリウムが含まれますが、これは超流動と紐づけるためのご都合設定のサインです。

 楕円軌道リングはシンプルなアイデアですがGoogleやCiniiで探せる範囲では未出であるようです。地表と静止軌道以遠を直接・連続的に結ぶという点においてポール・バーチの軌道リングや宇宙エレベータ(軌道エレベータ)に勝ります。リングに重量物を載せる負荷は作動流体の軌道要素を変化(リングの近点移動、離心率を増大)させますが、接地部分から運動量を送り込むことで軌道修正も不可能ではなさそうです(下記に要素列挙)。イメージとしては水芸で鞠を浮かせるような感じでしょうか。「アナレンマの黄金樹」作中で世界樹の地下や遠点にストックされている樹液はこの運動量の差分を与えることにも使われているのでしょう。さらに積極的に利用するならリング外形を波打たせ、蠕動によってリング上の物体を運ぶのも面白いかもしれません。

楕円軌道リング上の負荷

 まだ未解決の項目ですが楕円軌道リング上の負荷を釣り合わせるための概要を示しておきます。

Load on Elliptic Orbital Ring System

 概念上楕円軌道のまま描いた方がわかりやすいので楕円の絵を使います。

  • \( \left| \vec{ F } \right| = G \frac{ m M }{ {r}^{2} } \)の荷重と釣り合う運動量\( \vec{ P } \)となる流れを荷重点に作用させて釣り合いを取る
  • \( \pi v { \left( \frac{ \phi }{ 2 } \right) }^{ 2 } = \rm{ const } \)となる(この\( v \)は楕円軌道リング構造物に対しての速度)
    (地球の場合だと近点を\( \phi 100\)とすると一番太いのは遠点前後で\( \phi 150\)程度)
  • 式(3)の楕円から直径\( \phi \)内の軌道を取る流れに差分として運動量\( \vec{ P } \)を与える
  • \( \vec{ P } \)の元となる運動量差分は近点(地表)で与える

 解析的に解きたいのですが難航中。\( \phi \)と\( m \)、質量差分の関係式が解となるはずです。負荷を支えられる条件が「ない」「非現実的」な可能性もあります。

関連リンク

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『ユリイカ』2014年12月号

ユリイカ 2014年12月号
青土社
2014.11.27

 評論誌『ユリイカ』が百合特集ということで買ってみました。予想以上にしっかり百合と向き合った特集で寄稿者もインタビューも良いところから選んだ気がします。理屈好き、蘊蓄好きの百合オタクには間違いなく楽しい内容。
 目次を引用してみます。

人生に関する断章*36
心平庵あるいはパブリシティ権について 中村稔
あかがみ 一方井亜稀
耳目抄*326
小さなおせんべいの話 竹西寛子
今月の作品
石川木子・青山律子・山岡ミヤ 選=日和聡子
われ発見せり
私は「ボケ」だったのか! 鈴木洋仁

特集*百合文化の現在

少女小説の精神
『マリア様がみてる』のまなざし “姉妹”たちの息づく場所
今野緒雪 聞き手・構成=青柳美帆子
半壊のシンボル 川崎賢子
吉屋信子と百合的欲望の共同体
「突然の百合」という視座 木村朗子
吉屋信子から氷室冴子へ 嵯峨景子
解放区としての百合 中里一
現実との接線
女達への関係性を表象すること 堀江有里
レズビアンへのまなざしをめぐるノート
百合レズ論争戦争絵巻 牧村朝子
彼女たちの友愛、あるいは恋模様
女子と/の恋愛 百合という観測問題
天野しゅにんた 聞き手・構成=青柳美帆子
「百合」の来し方 藤本由香里
「女どうしの愛」をマンガはどう描いてきたか?
女の子たちの突破口 川口晴美
「百合」の栽培に向いた土壌、日本 高嶋リカ
read between the lines 西UKO
同じ物語なのになぜレズビアンが疎外感を味わうのか
『LOVE MY LIFE』映画版の謎を分析する 溝口彰子
「百合」に交わるもの
それが恋なら必然 月子 聞き手=玉木サナ
『彼女とカメラと彼女の季節』の移した彼女と彼女と彼について
百合 境界なきジャンル エリカ・フリードマン 訳=椎名ゆかり
倉田嘘『百合男子』に表された百合ファンダムの姿についての一考察
ジェームズ・ウルカー
いろんな百合が割けばいい、わたしは血の色の百合がみたい
玉木サナ
マンガの世界を構成する塵のような何か。 日高利泰
百合はジャンル境界を描きかえるのか
“少女”(たち)の行方
百合を探してどこまでも
綾奈ゆにこ 聞き手・構成=キツカワトモ
戦闘美少女と叫び、そして百合 石田美紀
うちなる少女を救い出すこと 上田麻由子
『シムーン』の孤独と連帯
あなたの痛みは私そのもの 須川亜紀子
NO YURI, NO LIFE
百合文化に分け入るために 青柳美帆子
作品・人物・メディアガイド

『ユリイカ』2014年12月号目次より

 特集の先頭に来ていた「少女小説の精神」とまとめられた記事群では吉屋信子から宮本百合子、氷室冴子をたどり「マリみて」に至るまでの道筋が語られ、とても楽しかった。牧村朝子の記事は百合・レズビアンの当事者としての百合というフィクションジャンルの消費について触れられていたのも興味深かったです。

 ヒトコト言いたくなってしまったのは「戦闘美少女と叫び、そして百合」という記事。「戦え!!イクサー1」「トップを狙え!」らを百合的戦闘美少女の原型として挙げていますが、高千穂遙の「ダーティペア」(1980)とそのアニメ(1985)、「ガルフォース」(1986)をオタク側の百合原点に加えなければ片手落ちというもの。「ダーティペア」がたとえ「レズじゃないわよっ」と宣言し、後にクラッシャーダンチームの男性キャラたちと結ばれる設定であろうとも。

 「内なる少女を救い出すこと」というアニメ「シムーン」を論じた記事には快哉を叫びました。2006年のアニメが今になってこれほど熱く格調高く語られるとは。めっちゃハマったアニメだけに夢中で読んでしまいました。

 内容紹介は特に気に入った記事だけとなりましたが引用した目次を見れば各記事の内容も窺えるのではないかと思います。百合が評論の畑で真っ向から論じられる機会はそうそうないでしょう。オススメ。

 当ブログ内の記事から関連図書のオススメ。

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『コミック百合姫』2015年1月号

コミック百合姫 2015年1月号
一迅社
2014.11.18

表紙

 別の雑誌かと思いました。ひらがなで記された横書きの「ゆりひめ」にかんざきひろのイラスト。「表紙れんさいはじまるよ♪」とのことでストーリー仕立てになる模様。前号、前々号あたりから掲載作家陣変更の予兆はありましたが、雑誌イメージの刷新が図られているようです。

巻頭特集

 『ゆるゆり』OVAの情報。夏休みのごらく部一同のお話となるようです。

立花館ToLieあんぐる merryhachiめりはち

 ポップ&えっちなコメディの新連載。作者のmerryhachiは第12回百合姫コミック大賞の翡翠賞受賞の「Braver!」の作者であるそうです。いきなりの連載でびっくりですが、こなれた印象のコメディであることにもびっくり。絵も可愛くて安定していて全身ポーズでもデッサンばっちり、コメディとしてのテンポも良くて新人らしからぬ完成度。前号から始まったこるりの「桃色トランス」共々『メバエ』対抗の一翼になりそうです。全方面の百合漫画総合誌ならではのラインナップ。

捏造トラップ コダマナオコ

 コダマナオコの新連載。男女二組のペアのはずなのだけれどそこは『百合姫』掲載作。由真&蛍のヒロイン二人は幼なじみでどうやら男子sより絆を持っての登場の様子。視点キャラの由真は素直で常識的な感じですが一方の蛍は一見大人しげな小悪魔キャラ。男子sは今のところ存在感が薄かったりしますがこの先どんな役所が振られるのか楽しみでもあります。

俺と百合 百合男子第2章 倉田嘘

 藤ヶ谷の啓介並みの変人度はしっかり定着したようです。百合漫画事始めが啓介で師匠がミセス魚屋さんだもんね。変な方向に濃く育ってしまうのも当然? 今回は新章ということで環境も変化し、これまで各地に散っていたキャラ達が一同に介しての新展開となります。作中可愛さ担当であった武蔵野君がイメチェンしていてちょっと衝撃でした。そしてどうやら今度のテーマは「百合男子の女子との恋愛どうするの?」であるようです。籠目と啓介の対立するだろう展開が楽しみ。啓介の妹も前面に出てきて百合エピソード構成組となるのか期待してしまうところ。

パブロフガール ねこ太

 被虐・加虐のSMというよりは主従ネタの四コマ。カレーを辛くするのはご褒美です。

桃色トランス こるり

 TL風の描写は以前からありましたが、18禁ゲームのコミカライズに近い雰囲気の連載が『百合姫』にも載るようになったのだな、と感慨深いものがあります。読む側的にはまだ慣れない、といいつつやっぱりおかっぱダヨネーなどとつぶやくのです。

かなえて!ゆりようせい 源久也

 ちんちくりんな百合妖精が。しかも「つづく」って最後に書いてある。ふと思ったのですが「百合男子」とコラボとか意外と合いそう。啓介もきっと(可愛くない方の)百合妖精の一種。

隣のお嫁さん 大沢やよい

 百合専門誌に載っていると読者側的に予断が働いてしまうのですがこのお話はそういう点でちょっと損をしてる気がします。のほほんとしたお嫁さんのダメっぷりの可愛いこと。百合漫画としては(読み切りであれば)やや弱い設定のお話ではありますがすごく好ましい。

つま先にゼロ距離 あおと響

 この作者さんは空気というかテイストというかリズムというかノリというか演出というか独特のものがあって創作者としてのオリジナリティを感じます。今回はフラれたばかりの大人の女性が遭遇した中学生女子にときめいてしまうお話。

ゆるゆり なもり

 京子&唯、ちなつ&あかり、ごらく部オールスターズの三本立て。ミニあかり可愛いじゃないですか〜。

Himecafe

 今回のゲストはなもり。さすがに看板作家さんということでなんと三回目です。次回は倉田嘘。今回も面白かったし次も楽しみですが『百合姫』出身でないゲストポジションの連載作家さんのhimecafe対談も読みたいな〜。今だとこるり先生とかべにしゃけ先生とか。

がちの百合道

 アイドルグループメンバーへの情熱を語るシリーズ。アイドル関連は異文化感がたっぷりあって毎回感心させられます。

りりくるぱーてぃくる

 ドラマCDシリーズ「りりくる」の連動ページ。イラスト担当のみわべさくら氏のイラストコラム。

それは百合だった

 懐アニメの中の百合シーンを紹介というコーナー。今回は『機動警察パトレイバー』の野明×香貫花。

LILY LILY WHISPER

 イラストコラムのシリーズのようです。今回はあおと響。

10年後の百合の話をしよう

 小さなコーナーですが編集長のコラム。「百合は売れない」という一言が強烈ですがそれは≒「百合だから売れるわけではない」という意味のよう。漫画そのものがたどる下降線に百合漫画も沿ってしまうようになった、ということなのかな。この種の話をするなら、きっちり実売部数のデータに基づく話を示して欲しい、と思ったり。とはいえ以前の読者男女比の数字のように発表した側自身で揶揄するようなうさんくさい数字を出されても意味がないか……。

citrus サブロウタ

 前回、芽衣に迫られた柚子というシーンでがっちり引っ張りましたがそう簡単に決定的な状況には進展しないのも「citrus」。修学旅行イベントに突入し新キャラも投入されて主人公二人のやきもきする関係を維持したまま新展開。

ひみつのえりあし べにしゃけ

 大学が一緒の幼馴染み。髪を切ったら元がきれいな子だっただけにボーイッシュな魅力を振りまきはじめ主人公もヤキモキしてしまうのでした。かわいらしいお話だ……。

月と世界とエトワール 高上優里子

 扉ページの「クライマックス間近…!」の煽りにどきどきしながらページをめくれば前回に引き続きの急展開。アクションシーンがあるわけではない音楽&学園モノでお話自体は静かに進みますが、陰謀家っぽかった海百合さまの意図も次第に明らかに。世界の突然の変節の理由も明らかになるのですが、ここは、ここはもちょっと盛り上げて欲しかった!と思いつつクライマックスに向けての助走ということなのだろうと次回が楽しみに。

私が仕事をやらない、ただひとつの理由 春日沙生

 お手紙《花粉》を届ける蝶とお手紙《花粉》を待つ花との小さなお話。ちんまり可愛い絵柄でお話も可愛く。

虹色ミライ 片倉アコ

 今回のお話で雰囲気というか見せ方というかで大きな飛躍を予感させた百合姫コミック大賞出身の作者。多くもないけれど決して少なくもないマイノリティとして生きる人とマジョリティとして疑問なく成長してきた少女との出会いのお話、と書くと難しげですが失恋して道ばたで泣いていた女子高生と淡々系OLのお話です。

ショタガール 河合朗

 ひ、ひどい。思わず笑ってしまったヒロインのあかん人度。何がひどいのかは、あ〜、タイトルから想像してもらうのが良いのではないでしょうか。前号が百合女子の話であったのでセットのエピソードなのかも。

私が会社を辞めた時の話 ちさこ

 お勤め嫌だオーラ出まくりでした。失業してハローワークに行ってはみたけれど今ひとつ真摯になれない主人公。でもぶらぶらしていても経済的に苦しくなり、働いている友人達との溝を感じるばかり。ハロワの担当のおねーさんに相談に乗ってもらい立て直しを図るも……。前号が「私が会社を辞めようと思った時の話」で少しずつタイトルが進展して行くのかもしれません。

猪里さんと相馬さん くずしろ

 紹介するとネタバレになりそうだし、してもいいネタバレのような気もするけどどうしたものか。女子が同性に対してよく言う「可愛い」を題材にしたとーってもくずしろらしいキター感のある話でした。

犬神さんと猫山さん くずしろ

 犬猫本編を読むのはしばらくぶりの気がします。あー、やっぱり面白いじゃーん。そしてこっちも感想を書くとネタバレになりそうで迂闊なことを書けないという。

らぶです くずしろ

 ハタ迷惑なアクションいちゃつきバトルシリーズ。『百合姫』が2011年にリニューアルした折にはカバーストーリーでガンアクションものが載りましたが最近はアクション要素少なめになってきていたこともあってこのシリーズ楽しみだったり。ややイロモノな感じでありつつ勢いのあるお話が好きです。

あやめ14 天野しゅにんた

 今回はあやめと珊瑚、幼馴染みの二人の過去を振り返りつつ。このシリーズはどういうお話になるのか着地点が予想できない。

喋喋喃喃ちょうちょうなんなん 竹宮ジン

 今回からは文化祭の出し物にするクラス演劇の話です。演劇+恋愛ものということでお約束があるに違いない!という期待を外しません。そして次回への引きで「うがー」となるのです。

恋のワンルーム 蕗

 一人暮らしの主人公の隣の部屋へ越してきたのはおっちょこちょいの頼りない女の子。なぜか色々面倒を見る羽目に。新人っぽさはまだ残りますがほっこりするお話でした。

第12回百合姫コミック大賞結果発表

 これからの『百合姫』の目指す方向がよくわかる新人賞コメントとなっています。佳作の「Braver!」の作者さんは今号からmerryhachiというペンネームで連載が始まっているし、入選の「わがままちゃんと気ままちゃん」、佳作の「あの子がキレイになった理由」も読んでみたいと思わされる絵柄でと選評でした。

★ ★ ★

 次号予告には片倉アコ「ラストワルツ」、仲原椿「12分のエチュード」、河合朗「失格少女」、大沢やよい「女ふたりで暮らしてみた話。(仮)」と百合姫コミック大賞出身の作家さんたちによる新連載が一気に四つも予定されているようです。楽しみ。

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第19回文学フリマ収穫雑感

フリマ当日の感想

Img_0446

 いつもの文学フリマという感じでしたが「小説家になろう」とのコラボ生放送イベなんかもあったりして同人誌即売会から複合イベントへと発展して行くのかな、という印象を受けました。

  1. 電子版カタログをiPadに入れて道中にチェック
  2. 会場ではまず見本誌コーナーに行って(1)でチェックしたサークルの本を試し読み
  3. (2)で印象の良かった本が見つかったらブースへ直行・購入

というパターンで(2)〜(3)を繰り返し7冊ほど購入しました。その後チラシ置き場とブースを眺めて歩き、気になった本を見つけるたびに見本誌コーナーへ戻り、といった感じです。ブースの前に立って本を品定めすることはほとんどありませんでした。たいてい、購入を決心してからブースの前に立ちます。

 上記のような買い方をしていたので、カタログ——見本誌——ブース、の情報の連鎖がどこか一カ所でも切れていると購入に結びつきません。カタログでチェックを入れても見本誌が見当たらなければ見送りますし、見本誌が見当たらなくてブースまで行ってみてもスペース番号が両隣含めて見当たらないと(カタログ自体に発行物のタイトルが記されていないことも多く探索物と一致しているか確認できない)もう探す気になりません。出展者も本も他に山ほどあるのですから。今回多少がんばって情報連鎖が途切れてたサークルでも「ここの机で良いのかな」と思いつつ購入したコピー本がカタログに載せられていた内容とまったく違ったりもしたので、たぶんもう情報整備に不備のあるサークルの本は買わないことでしょう。

 呼び込みの是非が一般参加された方々のブログ記事やTwitterで散見されますが、上のような買い方をしているために呼び込みは私に関しては効果ゼロでした。今回は呼び込みしてらっしゃるサークルのご本も買いましたが、最初から買うつもりで近づいていたので呼び込みは煩わしく思えただけでした。違うタイプのお客さんもいると思うので一概には否定できませんが。

 以下、入手した本の中から数点感想を。

Excelsior!5 特集海底二万里 日本ジュール・ヴェルヌ研究会

 『海底二万里』の分析・評論本です。シリーズにはヴェルヌの他の著作の特集もありましたが一番好きな『海底二万里』特集を買ってみました。濃い! 文学として翻訳としてSFとしてそれぞれのジャンルの専門家が原稿を寄せているようです。『海底二万里』好きにはぜひお勧めしたい。軽めの随想ではなくプロの研究者や翻訳家、科学者の手による『海底二万里』本で読み応えに関してはこれ以上は望めないのではないかと思います。とにかくすげー。読んで満足。ヴェルヌの自然科学の蘊蓄が好きな身には、理工系アプローチの記事があったのも嬉しかった。

糸雨の残躯/歌う繭 篠崎琴子・八坂はるの

 見本誌のチェックでさっぱりとまとまりの良い装丁に落ち着いた文体の印象から購入を決めたもの。当たりでした。ユウとミズキの二人とひまわり、繭のイメージの共通する二つのお話で構成されています。どちらの話も丁寧で繊細な描写が心地よく。読み終えてもう一冊あった新刊も買ってくれば良かったと思ったのでした。しっとりと落ち着いたタイプの少女小説的な雰囲気の幻想譚です。作者さんたちのサイト。「リルの記憶」 「さかなのまぶた」

ゆりくらふと2

 全体に、ちょっと、惜しい。ボリューム比で価格は頑張ったと思う。誌面デザイン・編集力面でやや物足りなかったかな、と思ってしまったのは今回他に買った物が良すぎたからかもしれない。小説、漫画、批評とオールジャンルで百合ネタでした。ハードなエロとかではなく穏当な感じの、百合好きが集まって作ったというイメージに近い本でした。

夢見ル艦ノ夢見レバ 厭人機関

 志保龍彦さんのサークル発行物。しばらく前エーヴェルスの『アルラウネ』を読んだときに、当たり前になりつつある医療や技術に恐怖を載せるのはキビシイ、というようなことをツイートしたのですが「ながむしは牡丹に眠る」を読んで考えを改めました。「蜘蛛の籠」と「John Doe」も大変面白かったです。足腰のしっかりした文章の底力の感じられる六編。

『今夜はコトノハ植物園で』

 私も参加させていただいたソウブンドウ様の『今夜はコトノハ植物園で』ですが、寄稿者という立場ということでテーマ決定や編集にはノータッチで、自作以外は完全に読者として触れました。紹介もかねた感想を。

世界の終わり、きみとのぼる朝陽を見た 神尾アルミ

 一迅社文庫アイリスで活躍されている神尾アルミさん。商業出版ではレーベル色もあって華やかな設定のお話が多いですが、ソウブンドウではしっとりとしつつ激しい感情を秘めた少女の感情/関係を丁寧に追って行くお話が印象的。ですが今回は閉鎖環境で生きる男と植物から生まれた小さな少女の話で、男の朴訥な力強さと閉鎖環境の息苦しさが相俟ってかつての東側陣営のSF映画のような重さがありました。

花食む月 若本衣織

 今回ワタシ的に一等響いたのがこれ。埋葬された後には花となり、やがて月に還るという人々の世界を描いたお話です。世界の仕組とその仕組の上に積み上げられた文化・風習との軋轢がぎりぎりと迫ってきて、月の描写も直接は控えられているのに立ち上がってくるイメージの濃さが素晴らしかった。作者は怪談実話コンテスト特別賞受賞者。

樹想夢記 空木春宵

 第二回創元SF短編賞佳作受賞の作者の幻想譚。「こんな夢をみた」という漱石の「夢十夜」、あるいは黒澤明の「夢」を思わせるフレーズで始まります。文明崩壊後らしき世界で歩き回るようになった植物と細々と生き残るヒトのお話。古風な表現が入り交じり読み手に没入を求めるどっしりした作風です。よーし読むぞ、と少しの気構えを用意して読み始めましたがその甲斐はありました。作中、おやここはあの場所ではないか、という遊びにくすりともしたり。必ずしも相互に一致しない主人公と樹月いつきの感情の絡み合いが心地よく。

いばらゆき 七木香枝

 ソウブンドウのご本に載った作者のお話はどこか黄昏を感じさせる作風で今回の灰の降る街にもその空気がありました。かっちりと何が起きているかを一から十まで示すストーリーではなさそうですが茨に囚われ肌を破られ、花を咲かせる銃のイメージには官能の気配が漂います。もう少しこの世界を教えてよ、という飢餓感を煽られました。

表紙 キリコ

 本の紹介ページには表紙画像も載せられていますがどっしりとした色味で印刷された実本は印象が強いです。収録されているお話的にイメージの近さを感じたのは「いばらゆき」と「樹想夢記」でしょうか。

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