カテゴリー「本の感想2014」の7件の記事

『ユリイカ』2014年12月号

ユリイカ 2014年12月号
青土社
2014.11.27

 評論誌『ユリイカ』が百合特集ということで買ってみました。予想以上にしっかり百合と向き合った特集で寄稿者もインタビューも良いところから選んだ気がします。理屈好き、蘊蓄好きの百合オタクには間違いなく楽しい内容。
 目次を引用してみます。

人生に関する断章*36
心平庵あるいはパブリシティ権について 中村稔
あかがみ 一方井亜稀
耳目抄*326
小さなおせんべいの話 竹西寛子
今月の作品
石川木子・青山律子・山岡ミヤ 選=日和聡子
われ発見せり
私は「ボケ」だったのか! 鈴木洋仁

特集*百合文化の現在

少女小説の精神
『マリア様がみてる』のまなざし “姉妹”たちの息づく場所
今野緒雪 聞き手・構成=青柳美帆子
半壊のシンボル 川崎賢子
吉屋信子と百合的欲望の共同体
「突然の百合」という視座 木村朗子
吉屋信子から氷室冴子へ 嵯峨景子
解放区としての百合 中里一
現実との接線
女達への関係性を表象すること 堀江有里
レズビアンへのまなざしをめぐるノート
百合レズ論争戦争絵巻 牧村朝子
彼女たちの友愛、あるいは恋模様
女子と/の恋愛 百合という観測問題
天野しゅにんた 聞き手・構成=青柳美帆子
「百合」の来し方 藤本由香里
「女どうしの愛」をマンガはどう描いてきたか?
女の子たちの突破口 川口晴美
「百合」の栽培に向いた土壌、日本 高嶋リカ
read between the lines 西UKO
同じ物語なのになぜレズビアンが疎外感を味わうのか
『LOVE MY LIFE』映画版の謎を分析する 溝口彰子
「百合」に交わるもの
それが恋なら必然 月子 聞き手=玉木サナ
『彼女とカメラと彼女の季節』の移した彼女と彼女と彼について
百合 境界なきジャンル エリカ・フリードマン 訳=椎名ゆかり
倉田嘘『百合男子』に表された百合ファンダムの姿についての一考察
ジェームズ・ウルカー
いろんな百合が割けばいい、わたしは血の色の百合がみたい
玉木サナ
マンガの世界を構成する塵のような何か。 日高利泰
百合はジャンル境界を描きかえるのか
“少女”(たち)の行方
百合を探してどこまでも
綾奈ゆにこ 聞き手・構成=キツカワトモ
戦闘美少女と叫び、そして百合 石田美紀
うちなる少女を救い出すこと 上田麻由子
『シムーン』の孤独と連帯
あなたの痛みは私そのもの 須川亜紀子
NO YURI, NO LIFE
百合文化に分け入るために 青柳美帆子
作品・人物・メディアガイド

『ユリイカ』2014年12月号目次より

 特集の先頭に来ていた「少女小説の精神」とまとめられた記事群では吉屋信子から宮本百合子、氷室冴子をたどり「マリみて」に至るまでの道筋が語られ、とても楽しかった。牧村朝子の記事は百合・レズビアンの当事者としての百合というフィクションジャンルの消費について触れられていたのも興味深かったです。

 ヒトコト言いたくなってしまったのは「戦闘美少女と叫び、そして百合」という記事。「戦え!!イクサー1」「トップを狙え!」らを百合的戦闘美少女の原型として挙げていますが、高千穂遙の「ダーティペア」(1980)とそのアニメ(1985)、「ガルフォース」(1986)をオタク側の百合原点に加えなければ片手落ちというもの。「ダーティペア」がたとえ「レズじゃないわよっ」と宣言し、後にクラッシャーダンチームの男性キャラたちと結ばれる設定であろうとも。

 「内なる少女を救い出すこと」というアニメ「シムーン」を論じた記事には快哉を叫びました。2006年のアニメが今になってこれほど熱く格調高く語られるとは。めっちゃハマったアニメだけに夢中で読んでしまいました。

 内容紹介は特に気に入った記事だけとなりましたが引用した目次を見れば各記事の内容も窺えるのではないかと思います。百合が評論の畑で真っ向から論じられる機会はそうそうないでしょう。オススメ。

 当ブログ内の記事から関連図書のオススメ。

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第19回文学フリマ収穫雑感

フリマ当日の感想

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 いつもの文学フリマという感じでしたが「小説家になろう」とのコラボ生放送イベなんかもあったりして同人誌即売会から複合イベントへと発展して行くのかな、という印象を受けました。

  1. 電子版カタログをiPadに入れて道中にチェック
  2. 会場ではまず見本誌コーナーに行って(1)でチェックしたサークルの本を試し読み
  3. (2)で印象の良かった本が見つかったらブースへ直行・購入

というパターンで(2)〜(3)を繰り返し7冊ほど購入しました。その後チラシ置き場とブースを眺めて歩き、気になった本を見つけるたびに見本誌コーナーへ戻り、といった感じです。ブースの前に立って本を品定めすることはほとんどありませんでした。たいてい、購入を決心してからブースの前に立ちます。

 上記のような買い方をしていたので、カタログ——見本誌——ブース、の情報の連鎖がどこか一カ所でも切れていると購入に結びつきません。カタログでチェックを入れても見本誌が見当たらなければ見送りますし、見本誌が見当たらなくてブースまで行ってみてもスペース番号が両隣含めて見当たらないと(カタログ自体に発行物のタイトルが記されていないことも多く探索物と一致しているか確認できない)もう探す気になりません。出展者も本も他に山ほどあるのですから。今回多少がんばって情報連鎖が途切れてたサークルでも「ここの机で良いのかな」と思いつつ購入したコピー本がカタログに載せられていた内容とまったく違ったりもしたので、たぶんもう情報整備に不備のあるサークルの本は買わないことでしょう。

 呼び込みの是非が一般参加された方々のブログ記事やTwitterで散見されますが、上のような買い方をしているために呼び込みは私に関しては効果ゼロでした。今回は呼び込みしてらっしゃるサークルのご本も買いましたが、最初から買うつもりで近づいていたので呼び込みは煩わしく思えただけでした。違うタイプのお客さんもいると思うので一概には否定できませんが。

 以下、入手した本の中から数点感想を。

Excelsior!5 特集海底二万里 日本ジュール・ヴェルヌ研究会

 『海底二万里』の分析・評論本です。シリーズにはヴェルヌの他の著作の特集もありましたが一番好きな『海底二万里』特集を買ってみました。濃い! 文学として翻訳としてSFとしてそれぞれのジャンルの専門家が原稿を寄せているようです。『海底二万里』好きにはぜひお勧めしたい。軽めの随想ではなくプロの研究者や翻訳家、科学者の手による『海底二万里』本で読み応えに関してはこれ以上は望めないのではないかと思います。とにかくすげー。読んで満足。ヴェルヌの自然科学の蘊蓄が好きな身には、理工系アプローチの記事があったのも嬉しかった。

糸雨の残躯/歌う繭 篠崎琴子・八坂はるの

 見本誌のチェックでさっぱりとまとまりの良い装丁に落ち着いた文体の印象から購入を決めたもの。当たりでした。ユウとミズキの二人とひまわり、繭のイメージの共通する二つのお話で構成されています。どちらの話も丁寧で繊細な描写が心地よく。読み終えてもう一冊あった新刊も買ってくれば良かったと思ったのでした。しっとりと落ち着いたタイプの少女小説的な雰囲気の幻想譚です。作者さんたちのサイト。「リルの記憶」 「さかなのまぶた」

ゆりくらふと2

 全体に、ちょっと、惜しい。ボリューム比で価格は頑張ったと思う。誌面デザイン・編集力面でやや物足りなかったかな、と思ってしまったのは今回他に買った物が良すぎたからかもしれない。小説、漫画、批評とオールジャンルで百合ネタでした。ハードなエロとかではなく穏当な感じの、百合好きが集まって作ったというイメージに近い本でした。

夢見ル艦ノ夢見レバ 厭人機関

 志保龍彦さんのサークル発行物。しばらく前エーヴェルスの『アルラウネ』を読んだときに、当たり前になりつつある医療や技術に恐怖を載せるのはキビシイ、というようなことをツイートしたのですが「ながむしは牡丹に眠る」を読んで考えを改めました。「蜘蛛の籠」と「John Doe」も大変面白かったです。足腰のしっかりした文章の底力の感じられる六編。

『今夜はコトノハ植物園で』

 私も参加させていただいたソウブンドウ様の『今夜はコトノハ植物園で』ですが、寄稿者という立場ということでテーマ決定や編集にはノータッチで、自作以外は完全に読者として触れました。紹介もかねた感想を。

世界の終わり、きみとのぼる朝陽を見た 神尾アルミ

 一迅社文庫アイリスで活躍されている神尾アルミさん。商業出版ではレーベル色もあって華やかな設定のお話が多いですが、ソウブンドウではしっとりとしつつ激しい感情を秘めた少女の感情/関係を丁寧に追って行くお話が印象的。ですが今回は閉鎖環境で生きる男と植物から生まれた小さな少女の話で、男の朴訥な力強さと閉鎖環境の息苦しさが相俟ってかつての東側陣営のSF映画のような重さがありました。

花食む月 若本衣織

 今回ワタシ的に一等響いたのがこれ。埋葬された後には花となり、やがて月に還るという人々の世界を描いたお話です。世界の仕組とその仕組の上に積み上げられた文化・風習との軋轢がぎりぎりと迫ってきて、月の描写も直接は控えられているのに立ち上がってくるイメージの濃さが素晴らしかった。作者は怪談実話コンテスト特別賞受賞者。

樹想夢記 空木春宵

 第二回創元SF短編賞佳作受賞の作者の幻想譚。「こんな夢をみた」という漱石の「夢十夜」、あるいは黒澤明の「夢」を思わせるフレーズで始まります。文明崩壊後らしき世界で歩き回るようになった植物と細々と生き残るヒトのお話。古風な表現が入り交じり読み手に没入を求めるどっしりした作風です。よーし読むぞ、と少しの気構えを用意して読み始めましたがその甲斐はありました。作中、おやここはあの場所ではないか、という遊びにくすりともしたり。必ずしも相互に一致しない主人公と樹月いつきの感情の絡み合いが心地よく。

いばらゆき 七木香枝

 ソウブンドウのご本に載った作者のお話はどこか黄昏を感じさせる作風で今回の灰の降る街にもその空気がありました。かっちりと何が起きているかを一から十まで示すストーリーではなさそうですが茨に囚われ肌を破られ、花を咲かせる銃のイメージには官能の気配が漂います。もう少しこの世界を教えてよ、という飢餓感を煽られました。

表紙 キリコ

 本の紹介ページには表紙画像も載せられていますがどっしりとした色味で印刷された実本は印象が強いです。収録されているお話的にイメージの近さを感じたのは「いばらゆき」と「樹想夢記」でしょうか。

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『記号創発ロボティクス』谷口忠大

記号創発ロボティクス 知能のメカニズム入門
谷口忠大
講談社選書メチエ

 最近読んだ科学解説本の中では一番どきどきわくわくする内容でした。

 タイトルからは内容がイメージしづらいかもしれません。大雑把にようやくすると「心を持ったロボットを作りたい」という本です。目次を引用してみます。

第一章 ロボットが心を持つとき
第二章 自ら概念を獲得するロボット
第三章 自ら言葉を学ぶ知能
第四章 潜んでいる二重分説構造
第五章 ロボットは共感して対話する
第六章 構成論的アプローチ
第七章 記号創発システム論

谷口忠大『記号創発ロボティクス』目次より

 第一章は「ふうん」で第二章は「ほぉ」と思いつつ読み、第三章、第四章でがっちり引き込まれました。第三章で教師なし学習の実例として形態素解析(文節区切り)に二重分節構造があると示され、第四章ではそれと同じ構造を持った運動が自動車の運転に潜んでいることが示されます。言葉の処理と運動に同じモデルが使われていたなんて! キーとなっているのはベイズ統計と学習アルゴリズム。度数を元にした従来の統計と違う尤度を元にしたベイズ統計は、曖昧な世界の解析に向いているようなのです。この本全体を貫く「認知的な閉じ」という考え方が、読み進めるにつれじわじわと存在感を増してくる凄味。長らく人工知能の壁とされてきたフレーム問題がとうに過去のものとなっていたことを教えてくれる人工知能研究の現状。こんなに面白いことやってるんだ、というのが伝わってきました。

 人工知能研究には哲学や思想史が絡んできます。科学哲学の専門書ではないのであまり詳しくは触れられていませんが、著者はそちら方面にも造詣がある様子。ここしばらく科学哲学や思想史を齧る機会の増えていた身には広い視野を持った著者のスタンスがとても格好良く思えました。『脳はなぜ「心」を作ったのか』『ヒトはいかにして言葉を獲得したか』ではちょっと物足りなく感じていた要素ががつーんと示されます。バックグラウンドになる広範な知識、問題に取り組むための枠組みの明示、すっきりしたモデルとそれを実証して見せることの説得力。理想が形になったような人工知能研究の姿を見せつけられて心が震えました。やっぱり科学ってこうでなくっちゃね、と実感。

 知能や意識に科学でアプローチをしたいと思っている高校生に読んで欲しいと思ったのでした。用語がちょっと難しめ&定義した用語をばんばん使うので軽い読み物ではないですが、数式はまったくなく「ベイズって何?」状態でも大丈夫。じっくり内容を追っていけば著者の伝えたいことは理解できるはず。こういう研究がやりたい!って進路が決まるかもしれません。
 ハードSFを指向する創作者にもお勧め。暗号解読やSETI、動物のコミュニケーション分析……とそれぞれ想像する対象は違うかもしれませんが、この手法いろんなことに使えるんじゃ?といったワクワクで頭の中がいっぱいになるはず。なりました。創作の刺激てんこもりな本のはず。『攻殻機動隊ARISE』が「記憶って何? 意識って何?」から逃げていることにがっかりし『蒼き鋼のアルペジオ』のアニメがヒト的な感情や衝動を当然のものとして知能のゴールとしていることに物足りなさを感じていたところにこの本はガツンと効きました。千年一日みたいな知能観にいつまでも浸かってる場合じゃないんだぞ!と。いえアニメはどっちも面白かったのですが。

 認知的な閉じ、という前提は示されてみればあまりにも当然で、パラダイムの転換に相当したのかな、なんて思えた一冊でした。

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『アルラウネ』H.H.エーヴェルス

 古い本の紹介です。
 国書刊行会の世界幻想文学大全シリーズに『アルラウネ』という物語が収録されています。1911年に書かれ、1980年代末〜90年代に日本語訳されたようです。今となっては新本で入手することは難しそうですが、大きな図書館であれば全集が揃っているのではないかと思います。私も地元の中央図書館から借りて読みました。

 きっかけとなったのは少女漫画です。川原由美子の『観用少女』シリーズが好きなのですが、このシリーズに登場する少女の姿をした植物・観用少女を連想させる幻想小説の古典があると知りました。いわゆるマンドラゴラを扱ったお話であるらしい、と。

 正直、あまり関心が持てなかったものの気にはかかっていました。植物についての調べ物をしていて思い出し、図書館蔵書を発見。というわけで読んでみました。H.H.エーヴェルスの『アルラウネ』。

 読み始めて最初の印象は「古めかしいゴシック小説」でした。メアリ・シェリーの『フランケンシュタイン』に近い時代感覚・ゴシック感が漂います。登場する人物は皆退廃的で、身分とお金のある下衆という感じなのです。読むの辛いな〜と思いつつ読み出したのですが、売春婦やら犯罪者やら自堕落な日々を送る坊々ぼんぼんやらがいかにも不快なキャラとして登場しながら、描写の面では意外に品を失わない節度・美意識のようなものがあって心地良く読めることに気づきました。輝くような華やかさと直喩を避けた美しい官能描写にも魅せられました。

 「妹へ捧げる物語」としての体裁が取られていますがその作中作のみを楽しめば良いタイプのようです。エーヴェルスの他作品との繋がりを持たせるためのメタ構造である模様。死刑になった罪人の断末魔の精液が滴った土から生じるというアルラウネ——マンドラゴラの伝説と、畜産で実用化されつつあった人工授精のヒトへの応用を融合させた物語です。
 ヒトの人工授精は今となっては医療として普通のことですが、当時はまだ人工授精に「未知の技術に対する恐怖」が存在したのでしょう。現代でもちょっと前までは臓器移植でドナーの人格がレシピエントに宿る、みたいな話がホラーとして通用していました。単なる人工授精に伝説を重ね、マンドラゴラの属性を持たせたヒトをこの世に送り出そうとするお話なのです。
 な〜んだ、と思いませんでしたか。私も最初の方でネタが割れたときに「ただの人工授精じゃん……」となりました。でも、この物語はそれでもなお魅力的なのです。退廃的な人々。論理的とは言いづらい恐怖の設定。生まれ出たアルラウネにまつわる奇妙な出来事の数々。それらが非常に魅力的な文章でぐっと来るイメージを喚起して来るのです。訳文だってぎこちない部分もあるし、原書の文章も(たぶん)特別格調高いわけではないでしょう。にも関わらず「うわ、痺れる」というシーンがあちこちにあるのです。
 後半に入り、美しい娘へと成長したアルラウネは色々ヒドイところもあるキャラなのですが魅力的で、最終章に向かってぐいぐいと読み手を魅了していきます。前半、読むのがツライ部分もあるかもしれませんが後半まで辿り着けば文句なしに「面白い!」と言えるはず。最後の最後、オチの付け方は唐突かもしれませんが、その唐突なところも含めてゴシック・ロマンスであったなあと読み終えて大変満足したのでした。

 『観用少女』との繋がりということでは濃くありつつも希薄、という矛盾した印象となりました。設定に関しては『アルラウネ』はマンドラゴラ伝説によって人工授精児を禍々しく彩っただけで、「職人の手で丹精された」「枯れてしまう」植物としての性質を持つ観用少女とは共通点がありません。一方『観用少女』においても不幸や死を招く観用少女プランツドールが登場し、ゴシックな要素をたっぷりと持たされ、エーヴェルスの『アルラウネ』と共通する魅力を備えます。直接の関連はなくとも『観用少女』が好きな人が読むとゾクゾク来るはず。

 『アルラウネ』が収められている世界幻想文学大系はどのタイトルも面白そうです。

『アルラウネ』
H.H.エーヴェルス
国書刊行会
世界幻想文学大系(全集) 第27巻A・B(二分冊)

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『思い出のマーニー』ジョーン・G・ロビンソン

思い出のマーニー
著:ジョーン・G・ロビンソン
訳:松野正子
岩波少年文庫

 映画『思い出のマーニー』をきっかけに子供の頃以来の再読をしました。岩波少年文庫版です。

 以下、ネタバレも含む映画・原作の双方をご存知の方向けとなります。

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『宇宙エレベーターの本』宇宙エレベーター協会編

宇宙エレベーターの本 実現したら未来はこうなる
宇宙エレベーター協会
2014.7.8

 タイトル通りの宇宙エレベーター(軌道エレベータ)に関する本です。
 内容をストレートに表しているので目次を内容紹介代わりに引用してみます。

  • 第1章 宇宙エレベーターって何?
  • 第2章 宇宙エレベーターについて著名人に聞く
    • 田原総一郎氏に聞く 「宇宙エレベーターの次元には何が必要ですか?」
    • 堀江貴文氏に聞く 「堀江さんはロケット派で、宇宙エレベーターはお嫌いですか?」
    • 富野由悠季監督・大野修一会長対談 「あと100年ぐらいなら、宇宙エレベーターができるという嘘をついてもいいですよ」
    • 山崎直子氏(宇宙飛行士)・大野修一会長対談 「低コストの次世代宇宙輸送系として、宇宙エレベーターに期待しています」
  • 第3章 宇宙エレベーター実現後の世界をシミュレーションする
    • シミュレーション小説 「2050年、宇宙エレベーター2ヶ月ツアー」石川洋二
    • 宇宙エレベーターが実現したら、どんな娯楽が生まれるか パトリック・コリンズ
    • 宇宙エレベーターは文化的アイデンティティから人類を解放する レナト・リベラ・ルスカ
    • 宇宙エレベーターを通して見る、最新宇宙開発事情
    • 宇宙エレベーターが実現したら、宇宙人探査はどう変わるか?
  • 第4章 宇宙エレベーター実現のために頑張ってます!
    • 「宇宙エレベーター技術競技会」から「宇宙エレベーターチャレンジ」へ〜5年間の歩み 秋山文野
    • 私はどんな思いで「宇宙エレベーターチャレンジ」に参加しているか 奥澤翔
  • 第5章 もっと詳しく知りたい! 宇宙エレベーターQ&A集
宇宙エレベーター協会編『宇宙エレベーターの本』

 バブル時代末、大手ゼネコンが宇宙建設に関するビジョンを発表していたことがあります。月の砂を建材にしたコンクリートの製造方法や軌道上の巨大建設の可能性を研究したものです。バブルの崩壊とともにゼネコンが宇宙の夢を語ることもなくなりましたが、カーボンナノチューブという材料の登場とともに宇宙エレベーター実現の可能性が見えてきました。カーボンナノチューブはまだ今は宇宙エレベータの“テザー”として必要な性能を満たしてはいませんが、それでも必要強度の桁には乗り始めました。実現のためにもっとも重要な技術の目処が見えて来たのです。米国では宇宙エレベーターをターゲットにしたカーボン素材開発のベンチャーも立ち上がっています。日本でも「宇宙エレベーター協会」が発足しマスコミに取り上げられました。
 その宇宙エレベーター協会が編纂したのがこの本です。

 どんな本であったかの感想はというと

  • 宇宙エレベーターの概要や“今”が知りたい → オススメ
  • 宇宙エレベーターはどう思われているか知りたい → オススメ
  • SF創作の資料にしたい → 保留

 章でいうなら第1、2と4、5章はオススメなのですが、3章は微妙な感じのも混ざっていました。軌道エレベータの大雑把な構造、全長96,000kmと各高度での状況などの技術的な要素は大林組の協力でしっかり検討されているようです。アイデア自体は昔からあるものなので目新しい要素はあまりないのですが第4章で紹介されているクライマー(エレベータのケージのミニチュアモデル)でテザー(ベルト)を攀じ上らせるメカの競技会は宇宙エレベーターの“今”の感じられる貴重な記事です。登攀高度は1000mを超えているとか。また、第5章のQ&A中にある宇宙エレベーターの登場する小説やコミックのリストも必見。ごく最近のものまで紹介されていました。
 また、宇宙エレベーターの技術よりヒトに関心のある方には第2章のインタビュー&対談がとてもオススメ。ガンダムシリーズの富野由悠季やホリエモンが宇宙エレベーターに否定的な見解を示します。
 オススメでないのは第3章のパトリック・コリンズ氏の記事。登場する視直径の話や水遊びのイラストに明確におかしい部分があり、宇宙エレベータという技術への理解を欠いているらしいのと、高校二年レベルの幾何計算さえ危ういことが読み取れ、経済学者の話として説得力を欠いてしまいます。同第3章のレナト・リベラ・ルスカ氏のお話もアポロ計画当時から言われている話で専門家でなくても言えそうです。一方、同第3章の最新技術紹介と宇宙人探査の話は具体性もあり非常に興味深く読めました。

 読み終えて一番心に残ったのは富野由悠季のインタビューでした。ガンダムシリーズを作った彼が原発や宇宙エレベーターに否定的なのです。持続可能社会の実現を訴えていたように思います。想像が混ざりますが、原発や宇宙エレベーターのような維持するだけでも高度な技術を必要とする巨大プラントは技術文明の衰退を迎えたときに人類にトドメを刺すのではないか、そんな巨大技術は避けた方が良いのではないか、ということに思えたのでした。現在製作中の「Gのレコンキスタ」でそのあたりが示される……のかな。うーん。ロボットアニメだとカッチリした話にはしづらいかな。

 ゼネコンと宇宙開発はかつてアニリール・セルカンという詐欺師を呼び込みました。宇宙工学にはまったく不案内な東大の建築系研究室に潜り込み、ポエムのような宇宙エレベーターの本を書いたセルカン。
 この本でもセルカンほど酷くないにしても、肩書き相応の専門性を持ち合わせていない人物が寄稿してはいそうな嫌な予感がします。この本は宇宙エレベーターに真剣に取り組んでいる人々を取り上げた良い本であると思いますが、一部マズい人物を招き入れてしまっているような気がしてなりません。

 経済、社会、文化面に関する考察・予測でもっとカッチリした研究をしている人はいないのでしょうか。10兆円の予算を捻り出すための方法。田原総一郎が語っていた“政治家を動かすためのシナリオ”を直感ではなく、きちんと学問の手法を使って構築して見せた宇宙開発本を読んでみたいと思ったのでした。
 それがきちんとできる人なら本に書くよりベンチャーを起こす……かもしれませんね。

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第十八回文学フリマ雑感

 五月五日、東京流通センターで開催された文学フリマの様子を見てきました。購入した本の中から印象深かったものの簡単な感想を。

季刊 藍色茜色 特集:少女の終わり

 少女論の本です。面白かった。“百合”と少女論の近縁性。女学校。『少女の友』。『乙女の港』。創作の欠片。私好みの要素がいっぱい詰まった本でした。テキストに付された参考文献は少女論の宝庫。フィクションとしての“百合”をきっかけに「少女とはなんだろう」という側面に興味を持った人への良いガイドになるはず。オススメ。とても。

幻想コレクション(緑) 編:秋山真琴/雲上回廊

 水池亘、鳴原あきら、渡邊利道、泉由良の四人・四作を集めた短編集。文庫サイズのセンスを感じさせるパッケージングの第一印象も良く、収録されているお話たちも高水準。太陽系を舞台にした宇宙SFの渡邊利道「シャーロットに薔薇を」が特に気に入りました。

百合人yurist

 百合関連の総合誌的な冊子。A4、50ページ。フェミニズム、レズビアンといったキーワードをテーマにしたセクシュアリティにがっちり噛み込んでいる内容。百合漫画のふわふわのフェム的な話題が扱われているものではない、という前提でのオススメ。エッセイや対談的なものを集めてました。

非生物少女蒐集箱 ソウブンドウ

 文学フリマのお目当てはこのソウブンドウの本。今回も期待に違わない素晴らしい中身でした。星の擬人化と結晶がテーマが目映い「赤い瞳の少女座」(雪村星衣子)、人型機械と格闘アクションで力強く重く儚い「空蝉ハ望月ノ雫ニ濡レテ」(志保龍彦)、白と黒のコントラストの中の少女が印象的なイラストの「篝火少女」(稗田やゑ)、懐かしい馴染みあるような異世界をしっとりと描いた「微睡む糸の昼下がり」(七木香枝)、新たに加わった少女の人形と兄たちと打ち解ける様を描いたコミック14ページ「ほしどろぼう-VENUS-」(きのえ)、北欧神話が薫る結晶の少女を崇める狩人の物語「揺籠ラテルナ・マギカ」(空木春宵)、色濃いゴシック感が素敵なイラスト二点「墓標少女・棺桶少女」(machina)、心を失ってしまった少年と絵の中から抜け出した少女の少し童話的なファンタジー「君の終わりはきっとやさしい」(神尾アルミ)。質に信頼のおけるソウブンドウ。キーワード「結晶化」や「恒星擬人化」にびびっと来る人には強くオススメなのです。各話の紹介&サンプルもソウブンドウさんのサイトにあるのでぜひチェックを。

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