カテゴリー「古生物」の72件の記事

『微化石』

微化石
国立科学博物館叢書
東海大学出版会
2012.7

 四千円近い本ですが「安い!」と思いました。
 印刷が良いです。判型は大きめの図鑑サイズ。印刷品質の良さと相まって大きく掲載された微化石の写真がとても見やすいです。内容は専門的ですが地質と化石の境界領域にあるという分野であるからでしょうか、一般向けの科学解説書に親しまれる人であれば専門用語でチンプンカンプンということもないはず。とりあえず単に化石が好きというだけで専門教育を受けていない私でも最後までしっかり読めました。
 ただし、内容は微化石研究の現状をまとめたもので専門度も高いので、微化石そのものに関心のある人でないと読み飽いてしまうと思います。科学論文ほどは細々とはしていませんが説明されている中身は「論文まとめ」的なものです。図版も豊富ですが文章量も多いです。読み通すにはそれなりに時間がかかります。
 2010年秋、国立科学博物館で「深海探査と微化石の世界」という展示が行われたのですが、その展示内容をより詳しくしたものという印象。

 微化石が気になっている人は大型図書館や店頭でぜひ一度中を覗いてみることをお勧めします。内容のボリュームに驚くはず。そして欲しくなるはず。私も図書館に入っていたのをチェックしてから購入しました。
 微化石ってなんだ?という人もぜひ図書館等で覗いてみてください。ミクロンサイズの驚異的な世界が待っています。ウイルスや細菌だと小さ過ぎて実感が湧きづらいかもしれませんが、砂粒サイズで骨格を持つ珪藻、ハプト藻、有孔虫たちの形の面白さは実感を持って迫ります。特に赤/青のアナグリフ画像は(メガネを自前で用意する必要がありますが)見応えあります。
 珪藻などはお弁当箱というかセイロというか「箱」そのものの構造をしていてびっくりですし、ハプト藻の『300』(スパルタを題材にした映画)っぽさも面白いですし、有孔虫の一種のグリフシード(『魔法少女まどか☆マギカ』に登場するアイテム)めいた形も感嘆モノです。収録されているアナグリフ立体顕微鏡写真も立体感がしっかり感じ取れるので赤青眼鏡もぜひお試しを。

 久々に、買って良かった、持っていて嬉しいと感じる化石本となりました。オススメ。

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『化石の分子生物学』更科功

化石の分子生物学 生命進化の謎を解く
更科功
講談社現代新書
2012.7.20
★★★★☆

 失敗が、いっぱい。

  1. ネアンデルタール人は現生人類と交配したか
  2. ルイ十七世は生きていた?
  3. 剥製やミイラのDNAを探る
  4. 縄文人の起源
  5. ジュラシック・パークの夢
  6. 分子の進化——現生の人類は進化しているか
  7. カンブリア紀の爆発——現在のDNAから過去を探る
  8. 化石タンパク質への挑戦

 上は目次の引用なのですが本の内容が想像できるでしょうか。たぶん、最新知識がだーっと並んでいて古生物学は今やこんなこともできるようになった!という本なのだろう、と思うのではないでしょうか。

 違うのです。

 第1章のネアンデルタール人の話こそ化石から抽出したDNA分析の成功例として華々しい結果が示されますが、話が進むにつれ“化石のDNA”は分が悪くなってきます。ジュラシック・パークの話や化石タンパク質の話などはもうほとんど失敗史の話となってしまい、できるかも、と注目された一時期との落差に驚かされます。ほんとうに、失敗がいっぱい、という本なのです。

 ですが「古生物のDNAを知るのはダメでした」という本でもありません。分子時計の話や共通のタンパク質コード——DNAから始原生物を探るような過去へのチャレンジ手法の様々とともに探求の途上であることを示します。失敗が失敗であるとわかることこそが分子生物学の進歩と厳密さの証でもあることがわかります。一般向けの新書ということで「DNAって何?」というような説明から始まるためちょっぴり迂遠な面もありました。

 蛇足です。
 この本、タイトルだけ見てAmazonで購入したのですが、かなり勘違いしていました。“分子生物学”が指すのはタンパク質etcの生物による高分子バイオマーカーの検出で、高分子は直接検出しづらいのでその痕跡化石を化学的に探ろう、という本なのだと勝手な想像していました。実際に手に取って読みはじめてみると“分子生物学”は主にDNA絡みのことと判明。『よみがえる分子化石』みたいな本でなくて「あれ〜?」と。もちろんそれは私の勝手な思い込みで、中身を読んで改めてタイトルを見れば非常に納得が行ったのでした。

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『96%の大絶滅―地球史におきた環境大変動』丸岡照幸

96%の大絶滅―地球史におきた環境大変動
丸岡照幸
技術評論社知りたい!サイエンス
2010.3.26
★★★★☆

 先に読んだ『決着!恐竜絶滅論争』は内容のしっかりした最新の恐竜絶滅仮説の本でしたが、あまりに衝突説寄りであるのが気になっていたので、読みのがしていたこの本を手に取ってみました。『決着〜』より古い2010年出版の本であるものの『決着〜』で端折られていた衝突説の詳細部分が詳しく解説されているのと同時に、衝突説自体の堅牢さがどの程度のものであるのかを多面的に解説しているフェアな視点の本でした。

 タイトルの“96%”という数字は恐竜絶滅――中生代末の大絶滅ではなく、古生代末の大絶滅を指します。ただし、より詳しいことがわかっている衝突説の検証と解説にページ数が割かれていて、古生代末の絶滅に関しては全210ページ中の65ページ程度が費やされています。

 中生代末――KT境界における絶滅のシナリオについてはわかっていること、わかっていないことをきっちりと挙げていき、衝突説以外の仮説がなぜ脱落するのかを明確にし、衝突説にまだ不足している部分、反証となり得そうな部分をわかりやすくしめしてくれます。隕石の衝突自体はほぼ確定的なのだと、この本でも先の『決着〜』でも思えましたが、恐竜の絶滅原因としては最有力候補というだけでとても確定的とはいえないとこちらの本を読んで感じました。
 実際、2010年の論文紀要にもKT境界より新しい地層から得られた恐竜化石をウラン−鉛同位体年代測定法で直接年代を計測した、なんてのもあって相対年代(KT境界を挟んだ上下)からも絶対年代からもKT境界以降に恐竜が生き残っていた可能性が示されます。この報告は先の『決着〜』の元となっていてる論文が発表された半年ほど後のものです。これに対する反論は衝突説側からはなされているのでしょうか。

ウィグナルによる絶滅への連鎖モデル サムネイル 古生代末の大絶滅に関してはチュクシュルブ・クレーターのような決定的なイベントの痕跡が見つかっていないようで、海洋無酸素事変や硫化水素の痕跡から複雑な連鎖モデルが提案されていて、これが非常にややこしいながら魅力的です。白亜紀末の隕石衝突もこの種の連鎖モデルが必要なのだろうと思います。
 右の図はこの本の中で紹介されていた「ウィグナルによる絶滅への連鎖モデル」をIdea SketchというiOS Appに入力してみたものです。

 最後は現代の人類による進行中の絶滅イベントについて触れられていたりして、古生物の話もまた現代にリンクする話であるとまとめられます。

 文章は比較的平易で、グラフもたくさん用いられており、全ページ二色刷りということもあって見やすい本ではあるのですが、情報の密度が高いので「すらすら読める」類の本ではないです。特に紹介されているグラフは重要で、これをちゃんと消化しつつ読むとなると速読は無理です。
 2010年代のPT境界絶滅仮説進展が楽しみになる本でした。オススメ。

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『決着!恐竜絶滅論争』後藤和久

決着!恐竜絶滅論争
後藤和久
岩波書店 岩波科学ライブラリー186
2011.11.9
★★★★☆

 発端は放送大学の古生物の授業をぼんやり眺めていたことでした。「衝突説は証明された」とう講師の言葉を聞いて耳を疑いました。恐竜絶滅の原因が小惑星の衝突にある、という有名な説です。以前からもう衝突説以外の説は可能性がほとんどなくなっているよなーとは思っていたのですが、さすがに証明は無理だろうと思ったのです。どうやら今回のこの本が解説の対象とした、決定打となった論文の存在がそういう言葉を引き出したようなのですが……。
 というわけでその論文を解説しているらしいこの本を読んでみました。

 安心しました。

 恐竜絶滅の原因が小惑星の衝突にあると“証明”しているという論文ではなく、衝突説と非衝突説の論争に決着をつけた論文、ということでタイトルの「決着!」となったようです。内容は非常にわかりやすいです。対立する仮説をひとつずつ丁寧に証拠を示して論破し、様々な角度から衝突説を検証してその揺るぎなさを示します。この本を読んで衝突説以外の説を支持し続けるのは困難でしょう。説得力が、圧倒的です。
 それでもまだ、衝突説は証明されたわけではありません。恐竜絶滅仮説の中でもっとも筋が通っていて、反証要素のない仮説であるということです。今後はさらに詳細に衝突のプロセスが解明されていくのでしょう。

 恐竜絶滅原因となった小惑星の軌道要素まで判明して、母天体群までわかったりすると面白そうです。単に数億年に一度の確率で小惑星が〜という確率論よりも、何らかの太陽系規模のイベントの余波で小惑星群の軌道が撹乱され、短期的な重爆撃期が……なんて想像はあまりにもSF的でしょうか。大陸上にクレーターが残っていないだけで、チチュルブよりもさらに大きなクレーターが海底に作られ、プレートテクトニクスで消えていったなんてのも想像するとわくわくします。そういった衝突説からの派生パターンも色々出てくると面白いんじゃないかな〜。
 そんなことに想像を巡らせるきっかけにもなった本でした。

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SF童話『化石ビジョン』

 岩崎書店の第28回福島正実記念SF童話賞に投稿して落選した原稿です。


化石ビジョン
2012.1.18公開
ダウンロード
 カチ、コチ、カチン。
 石をたたくと煙があがる。
 ぱふ、ぽふ、ぱふん。

 化石の入った石をたたくだけで中身がみえてしまう少年と偶然知り合った古生物学者のお話。
ジャンル:SF童話・小学校中学年以降全年齢・50枚

  • テキストは青空文庫のタグを使用しています。一般のテキストエディタでも表示できますが、青空文庫ビューワで表示すると読みやすくなります。
  • 青空文庫ファイルはZIPで圧縮しています。
  • 枚数表記は400字詰原稿用紙換算です。

注意事項

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『絶滅したふしぎな巨大生物』川崎悟司

絶滅したふしぎな巨大生物
川崎悟司
PHP研究所
2011.5.28
★★★★☆

 ページのほぼ半分がイラストで埋め尽くされた古生物本。大きさは13×19cmでA5より一回り小さいくらいのソフトカバー。208ページすべてカラーのきれいな本です。

 著者は「古世界の住人」というサイトで最新の古生物知識をイラストで解説していらっしゃる方で、この本にも古生物研究の最新情報を反映させた復元イラストがたっぷり収録されています。横書き体裁の本で、見開き左側には解説文が、右側にはイラストが来る構成。取り上げている生物のバリエーションも豊かで、テーマである“巨大生物”のスケールの妙とヘンテコさ加減が楽しめます。
 面白いのは姿形のヘンテコさだけではなく生物としてのヘンテコさが古生物学研究の成果とともに紹介されていることです。研究そのものの魅力をわかりやすい図解で盛り込んでいて、地球環境の変動の歴史をさらりと紹介していたり、対立仮説を並べて比較したり、仮説の変遷を追ったりとただ単に「デカイ生き物がいたんだよ」図鑑で終わっていない古生物学へのラブがぎゅう詰め。イラストの比重の大きな本ですし、解説文もボリュームが限られているためにさっくり読めてしまうのですが、何気なく情報密度スゴイです。

 今回の本で一番気に入ったのはプロトタキシテスという巨大キノコ。扱いは小さめだったものの(ナウシカの)「腐海だ!」と嬉しくなってしまいました。これ、化石の実物が見てみたい。キノコの化石って残るものなんだな〜。胞子とか植物にこびりついた状態の模様として残っていたりサルノコシカケの仲間は残りやすいって何かで読んだけど、菌類のマクロな形が単体で残っているというのは興味深いです。大きくなるために堅く、強い構造を取っていたのが残りやすさに繋がったのでしょうか。

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『恐竜再生』ジャック・ホーナー

恐竜再生
著:ジャック・ホーナー、ジェームズ・ゴーマン
監修:真鍋真
訳:柴田裕之
日経ナショナルジオグラフィック社
2010.10.7
★★★★☆

 エボデボという言葉をご存知ですか。
 この本の序文で登場する言葉です。私は、なんか聞いたことあるなー、バイオテクノロジーかなんかじゃないっけ、くらいの知識で読みはじめました。エボデボの具体的な、詳しい解説はないまま話は恐竜発掘シーンの第1章から始まります。高名な古生物学者・ホーナーの携わってきた研究の歴史を追う感じです。ティラノサウルスの発掘、科学的な分析アプローチ、化石骨から見つかった血液らしきもの。前半のクライマックスは第3章「分子も化石になる」です。化石骨をカルシウムを取り除く薬品で処理すると意外なものが! これはアマチュアでも試せるのかな? ぜひ試してみたい。
 そして後半は前半を土台にしたエボデボの話。タイトルの通りの恐竜再生へのアプローチで「ニワトリから恐竜を作ろう!」という夢のある話に大まじめに取り組んでいます。
 序文の説明やそれ以前からの先入観ではエボデボを遺伝子工学の一種と思っていたのですが、この本で紹介された実験手段はもっと荒っぽいものでした。発生中の胚を切った貼ったし化学物質に晒すような物理・化学的手段による発生のコントロールが実践手段だとか。おおお。面白い! この発想は古くから馴染みがあります。『ドクターモローの島』をはじめとすると大昔のマッドサイエンティストがやっていたこと。あるいは1997年刊の『生物は重力が進化させた』(西原克成)の中で著者が軟骨魚であるサメの中に硬骨組織を生じさせたりするような実験にとても近い。『恐竜再生』の中で紹介された“エボデボ”は初期発生の段階に集中して操作しよう、というだけで精緻なモデル構築よりも実験でなんとかしてしまえ!という発想にマッドサイエンティストの血を感じたのでした。

 この本を読んで“エボデボ”なるものに興味を持ったのですが、進化発生生物学エボデボを専門に解説した本というのがあるのかないのかよくわからない状態で、Wikipediaを見ても独立した項目はなく「発生生物学」という項の一部で触れられているのみの上に記述も曖昧です。(2011.7.7現在)
 「なんとなく」程度の予感ですが、遺伝子工学の知識をベースにした“荒っぽい”方法は一時的で、いずれホメオボックスのような制御遺伝子群の機序解明とともに再び遺伝子工学に吸収されてしまうのがエボデボなのではないか、なんて思えたのでした。

 恐竜再生の、明日はどっちだ!

 ニワトリの胚操作でミクロラプトルみたいなものを作り出せたら、それはそれで楽しい気はします。“チキノサウルス”かぁ。原著は2009年刊ですが“チキノサウルス”は今どうなっているのかな。

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『アナザー人類興亡史』金子隆一

アナザー人類興亡史 〜人間になれずに消滅した“傍系人類”の系譜〜
金子隆一
技術評論社知りたい!サイエンス
2011.4.21
★★★★☆

 猿が苦手です。人に近いケモノだからでしょうか。たぶん同じ理由で、ヒトに近いけどヒトじゃない原人や猿人に苦手意識がありました。

 ヒトの起源絡みの話題では“イーダ”が記憶に新しいと思います。今回の『アナザー人類興亡史』にも“イーダ”は取り上げられますが、四千数百万年前と時代を遡りすぎたお猿の時代の話である上にどうやら傍系らしいということで扱いは小さかったです。
 タイトル通りヒトの進化史、あるいはヒト属系統仮説の変遷を概観した内容です。新たな化石の発見があるたびに定説が覆り続けているホットな領域だけに、この本でも複数の系統仮説を並べて紹介していてちょっとばかりややこしいことになっています。その混乱を象徴するのが口絵の三つ折りカラーページ。ヒトの系統が樹状図で示されるのですが、一般的な樹状図と違い枝分かれした先で再度合流して「?」マークが打たれています。あちこちに。
「こりゃ、仮説も相当混乱してるな」
とニヤニヤしながら読み進めたのですが、最後に近づくにつれ樹状図が混乱している具体的な理由らしきものが示されていき「おおっ」となりました。
 著者の金子隆一は恐竜本でも大胆な仮説をプッシュしてきた人なので今回この本で紹介された仮説もまだ定説になっていない大胆なものかもしれません。強い印象を受けたことだけは確かです。
 口絵の樹状図をはじめ図表・写真が多用されていて、こなれた文章と合わせてとてもわかりやすく説得力のある本でした。

 面白かったです。けど、やっぱり今のヒトに限りなく近いヒト属の姿が苦手なのは変わりませんでした。

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『化石から生命の謎を解く』化石研究会

化石から生命の謎を解く 〜恐竜から分子まで〜
化石研究会編
朝日新聞出版
2011.4.25
★★★★☆

 「科学的アプローチ」をテーマに章ごとに異なる著者が執筆した化石分析の最先端の話題がぎっしり詰まった本です。化石研究者というとハンマー片手に荒れ地をさまよう「化石ハンター」のイメージが一番に立ち、その化石の見た目から元の状態を想像して〜というような研究が想像されるのですが、この本を著した化石研究会の面々は化石研究に現代科学的なアプローチを持ち込もう、という研究者たちなのだとか。「CSI化石捜査班」?
 紹介されている研究もアプローチの方向もとても多様です。ケンタッキーフライドチキンを食べて骨を観察しよう!という話から、足跡化石、微化石、原生メタセコイア発見までの過程、真珠養殖etcとバリエーション豊富。微化石の堆積状況から古地理を解き明かしてマンモスやナウマンゾウの移動ルートを推測、なんてもはや微化石の研究なのか化石ゾウの研究なのかわからなくなってきますし、真珠の研究などは生物の鉱物化という点で化石とは繋がっていてもその視線の先は現代の真珠養殖技術の革新に向かっています。メタセコイアやデスモスチルス研究の紹介はどちらかというと研究史を振り返ったもの。大勢の著者が原稿を持ち寄っているので悪く言えば「まとまりがない」のですが、現代科学の手法をあちこちから持ち寄るという総合科学として古生物学の姿も見えてきます。現代の古生物研究はまさにCSI並に広範な知識の集大成へと向かっているのだなー、というのが実感できる本でした。
 難点を挙げるとすれば文章かな。研究者たちの書いた原稿ということもあって基本的に「カタい」です。その固さを和らげようと部分的にこなれた/くだけた表現を投入する工夫がされているのですが、基本的な論調の固さまでは抜けなくてちぐはぐになっている章もちらほら。でも、そんな取っ付きにくさを補って余るくらい楽しいサイエンスのエッセンスがぎゅう詰めになっていたのでした。

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『移行化石の発見』ブライアン・スウィーテク

移行化石の発見
著:ブイアン・スウィーテク
訳:野中香方子
文芸春秋
2011.4.10
★★★★☆

 読ませてくれる一冊だった。

 冒頭でいきなり『ザ・リンク』批判。『ザ・リンク』を読んだ人、あるいはドキュメンタリー番組で“イーダ”を知った人の多くは「胡散臭い」と感じたのではないでしょうか。“イーダ”が人とキツネザルの共通の祖先であると訴えていましたが、私も読んでいても納得できませんでした。さらに“イーダ”を世に出した研究者ヨルン・フールムが主役のもう一つの番組「プレデターX」も恐竜でない首長竜を盛んに恐竜と呼ぶ怪しい番組であるのを見て嘆息。
 “イーダ”の位置づけに論争があるらしいのは断片的に入ってきていましたが、今回、この本の冒頭ではっきりと知りました。そう、この本は“イーダ”研究の批判から始まるのです。

 聖書を基準にした生命観。ダーウィンの進化論。魚類から両生類へ。鳥と恐竜。哺乳類の起源。クジラ。象。馬。そして人類。進化という考え方の誕生から始まり、進化論の弱点とされた「移行化石の未発見」問題が解決されていることを示し、進化論はこれほど強力なのだ、と説きます。ドーキンスが創造論者と戦っていたように、この本の著者も“アンチ創造論”として現代の進化論を強力にプッシュします。
 日本の読者としてはドーキンスやこの本のような創造論との対決姿勢を取る解説書は不思議で仕方ありません。「聖書より科学のが説得力あるよね」というのが当たり前に思えてしまって。テクノロジーが明確な進歩を見せなくなり、社会も閉塞気味となれば人類の自前の英知よりも超越的な造物主に頼りたくなものなのかな。日本でも科学(とそれがもたらす未来)への信頼や期待は薄らいでいるような気はしますね。

 いくつものパターンの移行化石の実例を紹介し、最終章で進化という考え方が生命の尊厳を侵さないことを訴えているのはやはり「アンチ創造主義」としてキリスト教が根本にある欧米の科学解説書ならではでしょうか。すっきりと整えられ、見事に歴史の流れを浮き彫りにした構成。入念に調べられた進化論の歴史。読みやすく、理解しやすい文章。訳者の解説ではS.J.グールドが引き合いに出されたりもしますが、まさしく、ポスト・グールドのサイエンス・ライターであることを感じさせる完成度の高い本です。
 ただし、最新知識もさらりと述べられて、クジラや羽毛恐竜、ヒトのルーツなどは日本ではそれなりに一般向けの情報に載って来るので「なんとなく知ってる」範囲のことが多いかもしれません。タイトルは『移行化石の発見』ですが内容は「移行化石発見の歴史」です。

 今回印象に残ったのはオーウェンとダーウィンの確執。どちらも古生物関連ではよく見かける名前ですが、すっきりとまとめられたこの本で初めて「ああ、こんなところでも二人は絡んでいたんだ」と知ることになりました。二人の関係をうまく拾いだしてきたな、こんな視点もあるんだな、と感心してしまいました。
 迸る才能で書かれた本ではなく、科学解説書としてのハウツーを完璧にこなすシステマチックな作り方と著者の感動——進化論の展開に対する——が見事にバランスしています。著者ならではの奇想やアイデアはありませんが、科学ジャーナリズムの理想のひとつが形になったような本だと思いました。

 アメリカの科学解説書がスゴイのは文化なのだ、と思わされたのでした。

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