カテゴリー「本の感想2006」の29件の記事

『マリア様がみてる クリスクロス』今野緒雪

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今野緒雪
集英社コバルト文庫
2006.12.22
440円

★★★★☆

 何年か前にヒットして百合ブームのきっかけになったのがこの『マリア様がみてる』シリーズ。コバルト文庫ということからもわかると思いますが、バリバリの少女小説です。
 少女小説であるにもかかわらずにヒットに繋がったのは男性層の支持があったからとか。不思議なものです。

 その『マリみて』シリーズもすでに二十六冊目。作中の経過時間は二年くらいかな。シリーズ第一作を少女時代に読み始めた読者もきっともうOLやおかあさんになっている頃でしょうか。

 今回のお話は二度目のバレンタインイベント。「ソフト百合」を謳う作品なので少女がチョコレートをプレゼントする相手も少女ですし、生徒会主催の校内ヴァレンタインイベントの景品も学園のカリスマである生徒会役員とのデート券。
 でも、このソフト百合というあたりが節度が利いていて楽しめるのです。シリーズを二十六作も重ねながら安定した面白さ。さすがにブームを巻き起こしただけのことはあります。

 コバルトというのは面白い実力派を出してくるところで少し前には友桐夏という作家をデビューさせていました。三作目まで出たところで続刊が絶えていて寂しいのですが、どっしりと濃い心理描写の、コバルト以外でも活躍できそうな作家です。育ち方によっては恩田陸を越えそうな気がするんだけどなぁ……。

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『ファンタジーのDNA』荻原規子

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荻原規子
理論社
2006.11
1575円

★★★☆☆

 児童文学の勾玉シリーズで有名な荻原規子の読書エッセイ。
 子供時代の読書経験が綴られ、今のファンタジー作家としての荻原規子を構成する要素が窺い知れます。国文科卒という著者らしく少し硬めの論理展開を見て、ちょっと癖のある文章がこの著者の自然なスタイルなんだな、というのが面白く感じられました。
 読書経験を取り上げたエッセイなので、取り上げられているのは本好きならば恐らくは誰もが――いや、誰でもって訳じゃなくて物語好きならば、かな――通ってきた懐かしい本たち。児童文学の名作ばかりなのですが、荻原規子がそれらの本に感じたものに強く共感を感じます。だから、荻原規子の本が面白く感じられるんだ、と納得した次第。

 特別に新しいことが書かれているわけではありませんが、荻原規子の物語が好きな人には深く共感できる本ではないかと思います。表紙のイラストがまた繊細で素敵です。

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『月に行こうか、火星に行くか』五代富文

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五代富文
丸善
2006.7.15
1600円

★★★★☆

 小説のようなタイトルですが、宇宙旅行を扱った読み物。宇宙開発の技術者が紹介するリアルな宇宙旅行の可能性を示します。高度100キロを数分飛ぶスペースシップ・ワン、100億円で地球周回軌道を飛ぶロシアのロケット。さらにその先――。

 最近では宇宙関連の話題はあまり賑わいません。火星探査機の話題も日本ではほんの一瞬で、最新の探査結果を纏めた本さえ出てきません。そんな中でとても貴重な読み物だと思います。

 宇宙を目指して勉強する中学生、高校生に強くお勧め。宇宙は手の届く時代に差し掛かろうとしているようです。間もなく「ロケット・ガール」というアニメと、そのアニメと連動する女子宇宙飛行士の養成企画(大まじめなものです)が動き出そうとしています。
 「どうせ宇宙なんて……」と鼻で笑えなくなる夢の詰まった一冊。技術者の書いた本なので文章がなんだかこなれていませんが、それでも楽しめるはず。

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『絶滅古生物学』平野弘道

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平野 弘道
岩波書店
2006.2.24
3990円

★★★☆☆

 概論的な内容の、大量絶滅と生物進化に関する本。大学生の教科書として書かれたのだとは思いますが、専門用語だらけ、数式だらけということはまったくないので読み物としても(ちょっと固めだけど)楽しめると思います。

 絶滅の定義、様々な絶滅理由の候補と検証。ちょっと前までは「巨大隕石が恐竜の……」というのがよく言われていましたが、どうやらそれはハズレかもしれないという話etc。
 数式も論文も嫌、でもお子さま向けの恐竜本も飽きた、という恐竜ファン向き、かな。評価の★が少なめなのは(大学生向けの)教科書的で読み物としては少し取っつきにくいからです。でも専門書と言うほどガチガチでもないので、読み物としてオススメ。

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『ドラゴン・ハンター』チャールズ・ガレンカンプ

リンクはAmazonへドラゴンハンター ロイ・チャップマン・アンドリューズの恐竜発掘記
チャールズ・ガレンカンプ
技術評論社
2006.9.5
2394円

★★★☆☆

 「アンドリューズ探検隊」というのは聞き覚えのある人も多いのではないかと思います。二十世紀の初めはまだ冒険家の時代で、ロイ・アンドリューズもそんな高名な探検家の一人。ただし、彼は極地の犬橇探検でも、アフリカの未開地探検でもなく、ゴビ砂漠で古生物学上の大発見をいくつもした人。

 この本は「面白い?」と聞かれると微妙な感じもします。伝記としての体裁を守っているのでちょっぴり堅苦しいし、なんとなく定型のヒーロー像に当てはめていないか?って感じてしまう。一番興味のあった化石関連の記述は少々薄めで、徹底した人物伝。なので私としては★三つなのだけれど、化石ハンターの一代記として読めば帯の宣伝文句通り「これはインディ・ジョーンズだ……」と思える波瀾万丈さ。訳文が少々ぎこちない感じがするのが惜しいかな。

 お勧めは……う~ん、恐竜好きよりも伝記好きな人に。

☆ ☆ ☆

 実はこの本、紹介するのに躊躇しました。投稿用に書いてる自作の小説と少しだけ被る部分があったので。ネタ的に重なる部分がある上に、創作の中の登場人物より波乱に富んだ人の伝記なんて読んでしまうと――凹むのです。悔しい!と。

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『床下の小人たち』メアリ・ノートン

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メアリー・ノートン(著) 林容吉(翻訳)
岩波少年文庫
714円

★★★★☆

 趣味の創作小説に小人を登場させようと思って久しぶりに手に取ってみた一冊。『だれも知らない小さな国』『木陰の家の小人たち』と並んでよく読まれている小人ものの児童文学だと思います。子供の頃に買った版が実家に残っていたはずなのですが、いくらさがしても見つからなくて新しく買ってきました。岩波少年文庫もずいぶん体裁が変わっていました。

 

リンクはAmazonへ『野に出た小人たち』
 メアリ・ノートンの小人物語には続編があるのを今になって知りました。二冊とも夢中で一気に読んでしまいました。子供の頃、この続編を読めていればもっと楽しめていたんだろうなぁ……。

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『99.9%は仮説』竹内薫

リンクはAmazonへ99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方
竹内薫 光文社新書 2006.2.20 700円

★★☆☆☆

 科学解説本としてはかなり売れている本のようです。
 読んでみた印象としては「イマイチ」。
 ページ数は250ページ以上あるのですが、何この行間?文字サイズ?と思うほどスカスカ。そして太字が一ページに一行、いやもっとかな。怪しげな宗教のパンフレットみたいな体裁です。

 内容に関してはあまり目新しくありません。書いてあることもわかりやすく、大事なことですが、今更これがベストセラーになっている理由がさっぱりわかりません。タイトルがその内容を表しています。細かく書かれているのはその「仮説」の例の数々。

 挙げられている例はそれぞれ面白いです。

  • 飛行機の飛ぶ原理
  • 冥王星と第十番惑星(この本が出た後で冥王星が惑星から外された)
  • ホーキング博士の実証主義と実在主義

 でも、なんで実在主義が紹介されているのにデカルトの名前が出てこないのかな。
 仮説の王様である「ニュートンの運動方程式」の危うさについて説明しないのかな。
 進化論は実証されたのか、という部分の説明をなぜ省くのかな。

 不満が山積です。現代科学を支える根幹部分の仮説についてもっと詳しく検討しても良かったんじゃないかな、と思います。その上で、技術として圧倒的な実績を積み上げて日常を支えている科学の堅牢さを示しても良かったと思います。

 あまりの読み応えのなさに★二つ、でした。

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『脊椎動物の進化』エドウィン・H・コルバート

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エドウィン・H・コルバート
築地書館
2004.10.24
18900円

★★★☆☆

 値段を見るとぎょっとできます。が、実本を手に取るとその重さで納得もできるでしょう。厚さ42mm、大きさは雑誌のNewtonよりちょっと小さい程度。百科事典の一分冊程度のボリュームです。

 著者による前書きでは「学生のための教科書ではなく、読み物」とされていますし、確かに古生物に興味があれば読んで理解できないことはない文章主体の本です。個々の化石種の解説は、一般読者向けの科学解説本と難しさも、詳しさも同じ程度。でも、それが脊椎動物進化史の主要な分岐点すべてに渡って行われるともはや気軽な読み物ではなくなってしまいます。
 結果、化石脊椎動物に関する初学者のための教科書、という実態に。

 将来古生物学を専門にするつもりであれば二万円近いこの本を購入しても後悔しないとは思いますが、理科系読書ファンには図書館で読むことを進めます。私も図書館から借りてきて読みました。
 ただし、この本は読み物として目を通しておしまいだとあまり意味がないかも。リファレンスとして手元に置いておくと便利な――そう。図鑑です。絵は少ないけど。

 自作小説の資料に、と思って借りてみたのですが半ば意地で読み通しました。面白いし、文章も難しくはないけど、量が量なのでそれなりに気力が必要です。

 Amazonに一点ある在庫、高価な本なのに売れるのかなぁ……。

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『折り紙で作る10大恐竜』髙井弘明

プレシオサウルス FinePixF10 1/20 F4.3 18mm ISO400折り紙で作る10大恐竜―大人の工作
髙井弘明
KKロングセラーズ
2006.7.1
1050円

★★★★☆

 以前に『折り鶴から折る おりがみ 恐竜王国』という本の紹介をしました。今回も恐竜の折り紙本の感想をひとつ。

 Amazonには本の写真がなかったので表紙紹介と作例紹介を兼ねたのが左の写真。
 今回の『折り紙で折る10大恐竜』は以前に紹介した本よりは折り方がシンプルな気がします。でも、美しく折るのは逆に難しいかも。
 プレシオサウルスの首、しおしおで折り目が分厚くなってしまいました。紙が幾重にも折れる部分が首になっているため、小さめサイズの紙で折ると折り目がスマートでなくなってしまいます。一辺15cmの折り紙だと、私が不器用なためご覧の有様。20cm以上の紙での挑戦がお勧めです。

 フクイラプトルとかラジャサウルスとか、他の折り紙本では見かけないような恐竜の折り方もあります。獣脚類の種類ごとの微妙な差は折り紙で差別化するのが難しそうなのですが、比べてみると「なるほど!」と頷けます。

 著者は「ともだちMUSEUM」というサイトで折り紙教室コーナーを開いている方のようです。

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『恐竜ホネホネ学』犬塚則久

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犬塚則久
NHKブックス
1071円
2006.6.30

★★★★☆

 ホネホネ学、と軽めのタイトルがついてるのでおもしろおかしく軽く読めそうな印象ですが、少々手強いです。でも、難しくはないのです。恐竜や化石に熱心であれば小学校高学年でも十分に読みこなせるでしょう。逆に、大人でもあまり関心がないまま手に取れば挫折してしまうはず。

 専門用語が多いのです。
 頸骨、恥骨あたりはわかると思いますが、頸骨上突起がとげ状だの、前関節突起だのと連発されてついていけるでしょうか。図解は一応ありますが、それも大雑把です。骨の各部の呼称が解剖学用語で連発される上に、それらの骨の種ごとの特徴が言葉で説明されるので、骨格の解説図――本の挿絵ではなくもっと詳細な物――と首っ引きで想像力を巡らせないと書いてあることがわかりません。細かく図解を付けてくれれば、言葉の説明よりわかりやすいのに……。
 骨の部位を示す言葉がややこしいだけで、それ以外の面では平易な本です。蟻塚を崩して蟻を食べる生物は手の関節がこんなんだから、この恐竜も蟻を食べていたんじゃないかな――といったように現生動物の骨格と恐竜の骨格を比較して恐竜の生態を推測する、という類のわかりやすい話なのです。

 内容的にはとても面白い本でした。国立科学博物館の恐竜展示についても触れられているので、この夏にお出かけになる方は一読して行かれるのも良いかとは思います。うーん。これで図解さえしっかりしていればとってもお勧めなのですが……。
 骨や筋肉の解剖学的呼称にもめげないぜ!という人に。

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