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『生物と無生物のあいだ』福岡伸一

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福岡伸一
講談社現代新書
777円
2007.5.20

★★★☆☆

  『プリオン説はほんとうか?―タンパク質病原体説をめぐるミステリーでとても好印象を掴んだ著者の本で今回はどんな話だろう、と期待しながら手に取りました。

 野口英世の話から始まってDNA分析で使われるPCR法の話、生き物の体の構成物質がごく短いサイクルで完全に入れ替わってしまう話。「なんか関係ない話を始めたなー」と思えてもそれがしっくりとテーマに戻ってくる科学解説本では珍しい文章構成の妙を感じる語り口。この筆者はライターとしての素質があると思います。
 ただし、今回はプリオンの本の時のように明確な結論のある内容ではないので、タイトルの「生物と無生物のあいだ」から連想されるような生物の定義がばしっと示されるわけではありません。「生命とは動的平衡にある流れ」という、この一文だけを見てもナニソレ?な、けれど、この本を読んでいくとナルホド!と思える生命像が見えてきます。
 期待に違わぬ面白い本でした。

 そうそう。この本を読むと野口英世のことについても調べてみたくなると思います。

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『敵は海賊・正義の目』神林長平

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神林長平
ハヤカワJA文庫
2007.6.25
651円

★★★☆☆

 神林長平の「敵は海賊」シリーズ、十年ぶりの新作だそうです。
 裏表紙の見返しを見たら神林長平の既刊リストが二段組に。今でも全部手にはいるのかな。いつの間にか大ベテラン作家なんですね。

 表紙は黒猫刑事のアプロですが、今回はあまり活躍なし。ラテルもなんとなく脇役。主役かな?と思われた環境保護運動のリーダーも途中で描写が無くなり、なぜかそのパートナーの女性科学者が主役っぽく。
 海賊の複数殺害事件から始まるのですが、今回は神林小説ではおなじみの謎アイテムがいまひとつ有効に機能していない印象。ラテルやアプロたち海賊課刑事たちの登場シーンが少ないこともありこちらも精彩を欠いている気がします。お話が「次作へ続く」な感じの終わり方なのも据わりが悪い感触になっているかも。

 と言うわけで続編待ち……で感想は棚上げでしょうか。
 でも次の続編が十年後だったりすると、、、う~む。
 SFマガジン上で連載している雪風第三部が本にまとまるのも待ち遠しいです。

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『アイヌの世界―ヤイユーカラの森から』計良光範

アイヌの世界―ヤイユーカラの森から
計良光範
明石書店
1995.8

★★★☆☆

 図書館で読んだ本です。
 なんとなくここしばらく北海道やアイヌ関連の資料を手に取っているのですが、面白かったのでご紹介。少し古めの本なのですでに書店にはないかもしれません。お探しになるのでしたら図書館がお勧め。

 子供新聞での連載記事だそうです。アイヌ語とアイヌ文化をわかりやすくシンプルに紹介しています。四季の生活の中から生まれたアイヌの言葉は現代の人間の目からすると多少素朴な感じもありますし、狩猟民であるアイヌの文化の中にはスーパーで並んだお肉しかしらない身には多少残酷に思えてしまう習慣もあります。
 花や虫に細かく名前がつけられていなかったり、熊は熊でもその状態によって呼び名が違ったり、なるほどアイヌというのは私たち和人からしてみれば異文化なのだな、と感心します。センス・オブ・ワンダーがありますね。SF的醍醐味みたいな。
 そしてアイヌを語る上で避けて通れないのが和人との関係。幕末から昭和にかけては北海道のアイヌ文化が滅ぼされていくわけですが、そのあたりの事も軽く触れられています。

 日本人としては少し心が痛い本ですが、魅力的なアイヌの言葉と文化の本でした。

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招き猫@豪徳寺

奉納は別腹です FinePixF10 1/45sec F5 24mm ISO200 -0.3EV ナニコレ?って感じですが。
 豪徳寺の招き猫のお堂にある鈴の紐です。背景でぼんやり写っているのが「奉納」の文字入りのこの紐の端っこにぶら下がるはずの錘。紐がほつれたのか別々に。

点々転々 FinePixF10 1/240sec F2.8 8mm ISO200 -0.3EV 雨に降られて分解しかけた張り子の達磨さん。
 点々と転がった形跡が。

ビフォー・アフター FinePixF10 1/50sec F2.8 8mm ISO200 -0.3EV

 右:before 左:after でしょうか。
 時折こんな風に白く四角いものが置かれているなぁ、と思っていたのですが二つが並んでいるのを見て納得が行きました。削れてしまった招き猫のようです。身を磨り減らして持ち主に福を招いてくれた……のでしょうか。
 でも、猫科ってそんなに律儀な性格じゃないですよね。

百畳敷 FinePixF10 1/680sec F7.1 12mm ISO200 -0.3EV こちらは豪徳寺ではなく町中での光景。
 なんとなくそんな気がしていたのですが、招き猫というのは信楽焼の狸の同類なのかもしれません。

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招き猫@豪徳寺

ツツジロード FinePixF10 1/80 8mm F2.8 ISO80 -0.3EV 記事タイトルは「招き猫@豪徳寺」ですが今回は招き猫写真は一枚だけ。緑の鮮やかな季節なので、緑を中心に。

 豪徳寺のツツジは陽当たりにムラがあるのか花の時期がまちまち。少し前の写真なので今はもうツツジの花はほとんど終わりです。

背中 FinePixF10 1/120sec F5 24mm ISO200 春以降、招き猫は増殖を続けております。観音様の前までずらーりと埋め尽くして招き猫の海状態。手作りのお地蔵様が猫の群の向こうでぼんやりと他所を眺めていました。

斑 FinePixF10 1/70sec F2.8 8mm ISO80 -0.3EV クロームカラーモード 苔の緑と木漏れ日の模様がきれいに見えた……のですが、なかなか思ったようには撮れないものです。絵馬(猫柄なので絵猫かな?)を納める場所の隣あたり。

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『夜愁』サラ・ウォーターズ

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サラ・ウォーターズ著/中村有希訳
創元推理文庫
各924円
2007.5.31

★★★★☆

 前作『荊の城』が面白くて続刊を楽しみにしていたサラ・ウォーターズ。またもや上下巻セットの新刊は読み応えたっぷりでした。

 ただし今回の本には一貫したストーリーがありません。いえ、読んでいても最初は無さそうに思えます。解説文によれば「主流リアリズム小説」だそうです。場面が“現在”から始まって“過去”へと遡っていくのですが、最初のうちしばらくはその流れが掴みづらくて読み進めるのに少し苦労します。でも、第二次大戦中~後のロンドンの情景が思い浮かぶような描写に引き込まれ始めれば最後まで一気に読みたくなってしまうはず。
 サラ・ウォーターズの小説の特徴は第一にレズビアン小説であると言うこと。この点が受け入れられない人にはお勧めできません。今回の『夜愁』も同性愛を真っ向から扱ったお話です。
 第二の特徴は仕掛け、かな。最後に驚かされる結末が用意されていて、周到にシナリオが構成してあること。今回は特に時系列が逆行するということもあって初読では混乱しがちですが、再読するとその仕掛けの面白さと複雑さに納得が行くはず。

 サラ・ウォーターズ、私の周辺ではいまいち反応がよくありません。
 同性愛ネタというのが受けないのかな。

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『楽園ヴァイオリン』友桐夏

リンクはAmazonへ楽園ヴァイオリン―クラシックノート
友桐夏
集英社コバルト文庫
2007.5.10
540円

★★★☆☆

 ドキュメントスキャナの利用も一段落してようやく生活ペースが戻りつつあります。積ん読本の解消開始。

 を四つにしようか三つにしようか迷っての三つ。
 コバルトはライトノベルと似ているようで似ていない、少女小説という分類になるかと思うのですが、でも『赤毛のアン』や『若草物語』とも吉屋信子とも違う独特の位置づけ。そのコバルトの中でも異色な気がするのがこの友桐夏という人。『白い花の舞い散る時間』では謎だらけのミステリタッチではらはらさせられ、最後でちょっとだけ拍子抜けしたのですが、面白い!という手応えたっぷりでそれ以来ファンに。

 前作『盤上の四重奏―ガールズレビュー』でもタイトルは音楽絡みで今回は主役がヴァイオリン弾き。『ハルモニア』みたいな音楽をうまく使った話かな?と期待したのですが、クラシックファン的にはちょっと物足りない音楽の扱いでした。タイトルは「らくえん」ではなくて「がくえん」とフリガナが振られています。
 友桐夏の作品は登場人物達の関係が非常にややこしいです。googleの画像検索で「リリカルミステリー 人物相関図」と検索すると相関図を作成された方がみつかりますね。おっと。相関図は読後に見ないととネタバレになります。

 内容的にはシリーズ共通の舞台である「塾」での陰謀劇、ということになるのかな。一作目に出てきた登場人物もちらりと出てきます。
 友桐夏の話はシリーズ名が「ガールズレビュー」と「クラシックノート」でジャンルが「リリカルミステリー」なのでしょうか。今回の「学園ヴァイオリン」は「リリカルミステリー」という冠が外れていますが、内容的には連作だと思うのです。うーむ。

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『極大射程』スティーヴン・ハンター

 映画『ザ・シューター 極大射程』を観てきました。
 原作小説がもう何年も前に大好評を博した狙撃手モノのお話です。

 結果から言うとよくできてたけどつまらない、かな。
 原作小説はベトナム戦争に従軍したボブ・リー・スワガーの戦後の話なのですが、さすがに今の時期に映画化するとなるとベトナム戦争は微妙に古いということらしくパソコンやネットが普及している現代のお話に置き換えられておりました。
 小説ではスナイパーの微妙な心理描写や狙撃の瞬間に向かって集中を高めていく過程、狙撃に関するマニアックなうんちくがすごくカッコイイ、ガンアクション物の最高峰というべき名作なのですが、今回の映画では引き金を引くまでの緊張の高まりがあっさり全部カットされていて敵が次々と倒れていくだけのアクションに……。
 ストーリーが複雑な原作をそこそこ忠実になぞろうとしたせいか半端にダイジェスト状態になってしまい「え。スワガーは今なんで戦ってんの?」と混乱すること必至。

 映画を観てきたけれどけっきょくは原作小説の『極大射程』(スティーブン・ハンター)が一番のお勧めだったり。スワガー・シリーズには続編もありますが、最初のこの話が一番面白いです。

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