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『ローバー、火星を駆ける』スティーヴ・スクワイヤーズ

リンクはAmazonへローバー、火星を駆ける
僕らがスピリットとオポチュニティに託した夢
スティーブ・スクワイヤーズ著・桃井翠美子訳
早川書房
2007.9.20
2625円

★★★★☆

 面白かった。お勧めです。
 以前に読んで印象の良かった『火星からのメッセージ』と内容的にはかなり被りますが、画像中心であった『火星からのメッセージ』に対してこちらはローバープロジェクトの苦労話。『火星からのメッセージ』の著者の名前もこちらの『ローバー、火星を駆ける』の物語中に登場します。どちらも火星好き、惑星探査ファンには楽しめる内容です。

 こちらの『ローバー、火星を駆ける』はスピリットとオポチュニティ開発のトップに立った人の開発秘話。公募の火星探査計画への挑戦、幾度もの挫折、ようやく獲得した火星行きチケット。けれど難航するローバー開発。アポロの時のような国を挙げての大ミッションではありませんが、「はやぶさ」や「かぐや」、あるいは開発は成功したのに外国の探査衛星に持って行かれてしまいそうな月ペネトレーター計画の慎ましさに比べるととても華やかで湯水のようにお金を使っているような錯覚を覚えます。H-Ⅱロケットもあって衛星を開発する能力もある日本がなんでロシアの探査機に観測機材を運んで貰わなきゃならないんだろう……。
 火星の話でした。
 惑星探査なんてものはきっと合衆国政府主導の元、周到な準備の下にNASAが一丸となってプロジェクトを成功させたに違いない!なんて思っていたのですが、実際には火星に情熱を燃やす科学者がNASAの公募で、発案から打上までほんの数年で行っていたものと知って驚きました。しかもNASAの探査案募集もその時々の情勢に応じてころころと変わる気まぐれなもの。アメリカの宇宙開発も迷走状態のようです。
 開発の進行とともに次第に重くなるローバー、膨れあがる開発費、超過密スケジュール。プロジェクトを統括するのが学者であるせいか読んでいても「うわ。ダメそう」と思える進展振り。けれどもその学者気質が功を奏したのでしょう、ローバーの仕様を削ることなく最後まで踏ん張り抜きます。このあたりがバイタリティ溢れるアメリカの天文学者らしいところ。

 日本の宇宙開発関係者――はたぶんもう読んでいると思うので、予算を出す側のお役人に読んでもらいたい一冊。宇宙開発の話ではあるけれど専門用語も数式もない「プロジェクトX」みたいな話でもあるのでその手の開発ストーリー的なものがお好きな方にもお勧めです。

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