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『小説を書くための基礎メソッド』奈良裕明

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著:奈良裕明/監修:編集の学校
雷鳥社
2003.4.20
1680円

★☆☆☆☆

 今回は貶します。それもきつめに。

文体が統一されていない
 「だ、である」と「です、ます」が混在している。文章のハウツー本としてはあんまりではなかろうか。
説明図がいまひとつ
 例えば「第一日 2、分類」。横軸に「書評」「ノンフィクション」「日記」「手紙」「評論」「小説」etcを並べた文章の分類が示されている。一見二次元のグラフなのだが、実は一次元の(横軸だけの)グラフの単位を複数並べたもの。尺度は「態度」「書き方」「飾り」「欠かせないもの」なのだがこのグラフを見て納得する人がいるのだろうか、と思う。
 小説の構造を登場人物=柱、ストーリー=梁、文章=壁・床・天井、と家になぞらえているところまではいいが、その図が四角の中にバッテンという手抜きの上面図。ない方がマシ。
分類が不統一
 「第一日目 4、どう書こうか(構成・お話作り)」では典型パターンである起承転結を、起[A]、承[B]、転[C]、結[D]と分解してアルファベットを振り分類分けをしておきながら、
[E]ハリウッドアクション物語タイプ
[F]私小説タイプ
[G]ヌーヴォーロマンタイプ
と分類する。[E]~[G]と同列にするなら[A]~[D]はひとつに括って[Z]起承転結タイプ、とでもすべきではないのか。論理構造の部分と全体とを同列に並べたんじゃ分類にならない。

 上記はほんの一部の例です。
 構造的な解説を試みた部分がことごとくコケているように思えます。細かなハウツー解説の中に示される理由付けにおいても「なんか論理が怪しい。納得しがたい」というものが多いです。この本の最初の方で

“自分についた嘘は読者に伝わる”

と書いていますが、まったくその通り。書いている本人が納得していないように思えます。例えば文のリズムを掴むために著者はお手本の筆写を勧めます。その理由が

“手で書く感じつまり「表意文字」と、ワープロへ入力する際のローマ字つまり「表音文字」とは、明らかに持っているリズムが違うから”

と述べます。本当に著者はそんなことを信じているのでしょうか。理由付けが適当にすぎます。単に何か権威づけるために理由を示さねば、と思ってでっちあげた理由ではないでしょうか。筆写に教育効果があるのは事実です。幼稚園から大学まで教壇に立った教師は板書し、生徒はそれを写す。理由は不明ですし必要ありません。効果があるから続けられているだけ。

 こんな感じに読み進めるごとに次から次へと不満を覚えます。紹介されているハウツー――具体的なメソッドはどれも納得の行くものなのですが(すばる文学賞作家が実践しているハウツーだ。説得力のないわけがない)、理由付けや構造の解説を始めると途端に怪しくなるのです。

 演習問題が示される添削、ハコガキ、三題噺……etcも一通り試してみました。他のハウツー本で実は体験済みの事ばかりでしたし、かなりの時間を食われる演習ですが、どれも思考の整理と書くために必要な地道な作業を体験させてくれます。面倒ですし、お題自体も魅力に感じられないかもしれませんが、未体験の方は一度はこの種の演習に取り組むべきです。この本で感心できないのは理屈付けの部分で、実践課題に関しては良いメニューが揃っているように思います。(2007/12/13付記)

 不満点ばかりを並べ立てましたが、実はこの本、最後の方に他の本にはない素晴らしい点があります。ひとつは世阿弥の言葉の紹介。もうひとつは最後の課題。この二点だけで400ページ弱・1600円のこの本を読んだ価値はあったかも。
 ん~。でもやっぱりお勧めはしかねるかな。

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