一太郎2008・その4 校正実践篇
一太郎2008レビューも四回目。
その2で褒めた校正機能、小説制作で実際に活用してみたので実例を交えて詳しい印象を。
まずは誤字校正。
四百字詰原稿用紙換算660枚程度の原稿に試してみました。助詞の抜けや校正辞書に未登録の単語、同音異義語の用法違いなどを見つけると指摘してくれます。試した原稿ではおよそ750箇所の指摘がありました。
「そんな間違いだらけの原稿書いてるって、おばか?」
そう思われてしまうかもしれませんが(いや、実際おばかな間違いがいっぱいあります)三分の一くらいはセリフ内の感嘆語や擬音の類。「あぁ」のように小書きの「ぁ」があったりすると校正辞書的には「そんな単語登録されてないよ!」と列挙されます。明らかに間違いではないのに指摘されるのが八割くらい。感嘆語や作中特有の固有名などは構成作業を進めながら単語登録していくと、以後、無駄な指摘が減ります。この辺りはATOKのユーザ登録単語と連携を取ってくれると手間がぐっと減って嬉しいですね。
「そんなに無駄なもの指摘されても」
と思うかもしれませんが残りの二割に何らかのミス、あるいは再考の余地のある表現が含まれているとなるととても効果的です。
ただしその2でも書きましたが「意味」の解析は手に余るようです。一方で慣用句や成句のようなもの、文法的な誤りはかなりの精度で指摘してくれます。同音異義語についてはかなり精度良く近くの単語から正解を指摘してきます。校正機能に指摘されて初めて正しい使い分けを知った単語も多かったです。重複表現や二重否定、二重敬語なんかも標準設定の「誤字脱字」ではなくオプション指定するとチェックしてくれます。
学年別の漢字チェック機能なんていうのもあり、童話や児童文学を書いている人は「おっ」と思うかもしれませんがこれは創作用途には使えません。「読めないと困る」テスト問題や生徒向けのプリントに使う教師向けの機能かと思います。対象年齢の子供に「読めるようになって欲しい漢字」を提示するのも児童書の書き手に課された務めだと思うのです。これは自動処理に頼ってはいけない部分かと思います。
おっと、脱線。
校正作業をするときには辞書は必須です。指摘された部分で「うそ~。あってるよ」と思っても辞書を引くと校正機能の言うとおりだったり。最初はムッと来るのですが、山ほど指摘されると自分の無知さ加減に脱力してきます。
そうそう。校正モードには「公用文」や「手紙」といった対象別のモードもあるのですが、公用文表記ってかなりうるさいんですね。新聞がこども新聞かと思うくらいひらがなに開いているのはこれに準拠しているせいか……。どの新聞も同じ基準を採用していて、思想統制さながらですね。
次は表記の揺らぎ。
長編では表記の統一を確実にすることは困難です。特に用字に拘ってみたりすると収集がつきません。その確認をなんとか人が耐えられるレベルの労力にしてくれるのが表記揺れチェック機能。……なのですが、期待しすぎてはいけません。
これはもう人力では不可能な膨大な作業量をなんとか人力レベルまで引き下げることに成功し(かけ)ているだけで評価に値します。
「言う」と「いう」の表記、どちらか一方に完全統一してしまうとすご~く鬱陶しい文章になります。「彼はいった」「~というらしい」「こういうものは」……ああ、もう、ひらがなだらけであるじゃーのんのおはかにおはなをあげてください……って感じ。ですが、気まぐれに漢字にしたりひらがなにしたりしても混乱します。直接的に声に出して話すことは「言う」、それ以外は「いう」のように自分のルールを作るのが妥当なところでしょうか。
基準は自前で用意して、でも、用字は文脈で決める。こういう使い方に表記揺れチェック機能は適しています。画像に示したように揺らぎのある表現が全部、ずら~っと並ぶのでリストされた中から逐一チェックしていけば、とりあえずエディタの画面から表記揺れを洗い出すよりはるかに効率的です。ですが、
- それでもまだ膨大な作業量 ←これは仕方ない
- 誤字校正ほどは洗練されていない操作性
- 作業を中断・再開するのが困難な仕様
- 原稿を破壊しかねない、というよりはかなりの確率で破壊する「全て置換」ボタン
- 「全て置換」は引き返し不能(アンドゥなし)
ジャストシステム社員には1000枚規模の原稿で作業体験してもらいたいところ。一太郎マクロもそうですが「どーせユーザは使いやしないだろ」と思って自分たちで実用度を検証していない機能を載せてやいませんか。Just Right!で動作確認済みかもしれませんが、一太郎に載せた以上は一太郎での使い勝手を確認して欲しいです。たぶん「バグなし」だけ確認して使い勝手の評価はしてないと思います。この部分。
でも、使いにくくても、危険でも、機能自体は優れています。方向性は合っています。
小説創作を楽しんでいる方。一太郎じゃなくても一度校正ソフトの類を試してみることをオススメします。MS-Wordにもそれなりに使える校正機能があります。長編になるとどうしても細部まで目が行き届かずつまらないミスが残る物。機械の目は作者とは別の視点を与えてくれます。
もちろん、人力校正が必要なのは大前提。今回の実例ではモバイル環境をZaurusに頼り切りだったために一太郎に載っけてしまった最終工程はプリントアウトしてのチェックになりました。便利な機能は労力を減らしてくれますが、文責はあくまでも書いた人のものです。
●わなびざうるす内一太郎2008レビューリンク
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