『少女小説から世界が見える』川端有子
少女小説から世界が見える ~ペリーヌはなぜ英語が話せたか~
川端有子
河出書房新社
2006.4.30
1680円
★★★★☆
面白かった。
『若草物語』『家なき娘』『小公女』『赤毛のアン』『あしながおじさん』の五つの本を題材に、少女小説と時代の背景との関連を書いた本です。
各タイトルを時代と照らして分析してみせるその過程はわかりやすく、強く頷くことのできるもので、時間を忘れて楽しく読めました。
少しばかり惜しいのが「総論」が弱いこと。少女小説が時代と密接な関係を持っている、と例を引いて挙げただけでは読み終えて本を閉じたときに「ふ~ん」で終わってしまいます。もう一捻り、何かシメが欲しかったな。
☆ ☆ ☆
以下では我田引水ですが自作小説『あかねいろ』を今回読んだ『少女小説から世界が見える』に対照させてみようと思います。
『少女小説から世界が見える』では少女小説を代表するジャンルのひとつ、女子学校小説の特徴として主人公は
- 何らかの形で孤児である
- ジェンダー的に曖昧
- 主人公の傍らにはきわめて「女らしい」人物
- 家庭への執着が強い
- 「書く」ことによる自己表現
と特徴を抽出しています。
『あかねいろ』にも当てはまる要素が複数。ヒロインは「ジェンダー」「女らしい友人」「自己表現」の点で上記と共通点を持ちますし、家族をほとんど登場させなかったという点で「孤児」に準ずるキャラクターとなっているかもしれません。「書く」ことはしませんが代わりに「織る」ことで自己表現をしているような気もします。
意識してそうしたわけではありません。この本を読んだのは『あかねいろ』を書いたずっと後なのですから。少女小説として話を作ってみたら見事に典型パターンに嵌っていた、ということになります。身に染みこんだ伝統の力、恐ろしき哉。
伝統の力は『あかねいろ』の軸となっている染め織りにも及んでいるかもしれません。『少女小説から世界が見える』の中では『ペリーヌ物語(家なき娘)』がロビンソン・クルーソーのような自活生活を送る描写や『若草物語』のメグがおしゃれに工夫を凝らす様を取り上げて「詳細なディテイルにこだわるリアリズムを旨とする」と少女小説の特徴の一つに数えます。結局、例外は「家庭への執着」くらいです。
なんとなく、で作ったお話が振り返ってみると少女小説の定番要素を満たしていたわけです。
百合、というジャンルが(『あかねいろ』は百合小説です)少女小説にルーツを持っている以上、自然なことだったのかもしれません。
関連書籍レビュー
- 『女学校と女学生』稲垣恭子
- 『少女小説から世界が見える』川端有子
- 『ミッション・スクール』佐藤八寿子
- 『女學生の手帖』弥生美術館・内田静枝=編
- 『「少女」の社会史』今田絵里香
- 『〈少女小説〉ワンダーランド 明治から平成まで』菅聡子
- 『〈少女〉像の誕生』渡辺周子
関連記事
- ちちぶ銘仙館見学記 ―― 女学生の友であった絹織物・銘仙の生産風景を再現した記念館
- 東京農工大科学博物館 ―― 旧称・繊維博物館見学記
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント