『黒薔薇』吉屋信子
黒薔薇(くろしょうび)
吉屋信子
河出書房新社
1680円
2006.2.28
★★★☆☆
物語としては名作と言えないけれど百合好きならば読んでおきたい一冊。
この本に収められている「黒薔薇」という話が書かれたのは大正14年。少女小説で世に出、女学生同士の恋物語ではなく自立した女性同性愛者のセクシャリティを訴える内容で『屋根裏の二處女』から一歩踏み出しています。1920年代に。
物語自体のオチには「え?」と目が点になるかもしれませんし、文章にしても必ずしも洗練されているとは言えませんが、大正~昭和の日本で女性として自立し、同性愛をテーマとして人の生き方を訴えているというのは驚くべき先取性ではないかと思います。
理屈を並べてのフェミニズム運動でも、同性愛者の権利を求めたのでもありません。ただ純粋に同性を愛する者の心の叫び。その切実なこと。十字架を前にした女性のイラストは物語とは関係がありませんが、読み終えてみればこれほどに相応しいイラストもないと思えます。
ヒロインに叫ばせた言葉が切実であるだけに、物語としての決着の仕方が残念。
この本には「黒薔薇」の他に短編二つと、現代でも色褪せない少女達へのメッセージが収められています。
読んで楽しいエンターテイメントとは言えませんが、人によっては宝物になるかもしれません。
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