『言語の脳科学』酒井邦嘉
言語の脳科学―脳はどのようにことばを生みだすか
酒井邦嘉
中公新書
945円
2002.7.25
★★★★☆
人は生まれついて言語を獲得する能力を持つ。
この仮定に基づき、これを実証しようという方向の話です。MRIやPETを使い、言語と脳の関係を明らかにしようという研究の、そのアプローチを紹介した本。
アプローチ、というのはまだ脳の活動を詳細に(シナプス単位で)観測する手段がないために「××をすると脳のこの辺りが活動する」程度のことしかわからないということと、具体的な言語生成モデルの提示が行われないままだから。
もちろんMRIの登場によって活動中の脳の様子が朧気にでも見えているというのは素晴らしいことなのですが、著者が求めているのは――『攻殻機動隊』で描かれたような――脳活動のモニタリングなのでしょう。現状ではわからないことだらけでとても論理モデルなど構築できない、という段階のよう。
この本が出されたのは2002年。6年が過ぎて非侵襲型の診断装置は小型化・低価格化はされているようですが、まだ「攻殻を予感させる」レベルには達していないようです。
診断装置の進歩がひたすら待ち遠しくなるような一冊でした。
少し難があるのは論理の飛躍が多かったこと。著者は文法機能・言語機能の先天性を主張し、学習によってのみ言語を獲得するという研究に対しては批判的なのですが、その批判の論理の輪が所々ぞんざいな気がします。読み物として煩雑になるのを避けたのかもしれませんが。
う~ん。なんだかこの本の面白かった部分を上手く表せていないかな。
認知言語学よりは生成文法の方が、診断技術の進歩に伴って分が良くなるのだろうな、という予感をひしひしと感じさせてくれる本でした。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント