『宇宙細胞』黒葉雅人
宇宙細胞
黒葉雅人
徳間書店
2008.9.30
2100円
★★★☆☆
『黒十字サナトリウム』 とともに第9回日本SF新人賞に輝いた本書。常の感想ではやらないのですが、今回の感想はネタバレを含みます。
読み始めてほどなく「どこかで見た」感じに首をかしげました。なんだっけ、と記憶をたどると
- 映画『遊星からの物体X』
- コミック『風の谷のナウシカ』
- コミック『寄生獣』
- 小説『ブラッドミュージック』
これらが思い浮かびました。イメージ的にはかなりストレートな感じです。たぶん著者は安永航一郎とかも好きなんだろうなぁ。
読んでいて困ったのは登場する生き物の形がよくわからなかったこと。「正面から見ると三角形で上から見ると丸」って円錐……なのかな。登場するクリーチャー・人鳥(ペンギン)の説明です。他にも爪蛸(つめたこ)とか説明を読んでも形がピンときません。図解が欲しかったかも。鳴き声からはウルトラ怪獣を想像しましたが。こんなの→(V)o\o(V)フォフォ
全体の八割を占めるのはヒロイン・舞華の物語なのですが、最後にお話のスケールが一変します。その豹変ぶりが爽快で「ああ、SFなんだ」と腑に落ちました。いえ、全般、生化学ネタは山盛りでSFらしさは十分なんですが、このスケールが一変する最後の部分がなければSFとしての印象はかなり弱かったはず。
一方でこのまとめ方は谷甲州の『パンドラ』 やグレッグ・ベアの『ブラッド・ミュージック』
のエンディングに据えてみても違和感がない気もしてしまいました。万能オチ、かも。スケールの落差が舞華の物語との乖離を感じさせた、ということかな。
科学知識面での突っ込みは意地悪くしようと思えばいっぱいできそう……なのは大抵のSFで同じかと思いますが、科学者が巨大な単細胞生物を「ありえない」と驚いていたりするのは「むむ?」かな。単細胞の粘菌でも(多核ですが)林ひとつ丸々にはびこった推定体重100t超の個体がいたりするようです。
一気に読めて楽しめたのですが、ダイレクトに元ネタを連想してしまうシーンに抵抗があったのと、文章が少しばかりなじみづらい部分があったので★は少なめとなりました。
★ ★ ★
追記。
ヨソの書評はどんなものかな、とgoogleブログ検索で探してみたのですが、内容について触れていたのは一カ所だけ。(2008.10.15 22時現在)
あまりにも話題になってなさ過ぎて心配になってしまいます。日本でたった二つしかないSF専門の新人賞の大賞で新刊なのに。
googleブログ検索以外でも探してみました。(2008.10.23)
近いうちに同大賞の『黒十字サナトリウム』も読んでみる予定です。→感想記事書きました (2008.10.28)
選評の載っていた『SFJapan』の感想記事もあります。(2008.10.29)
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