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『SF Japan 2008 Spring』

SF Japan 2008SPRING
徳間書店
1680円
2008.3.31

 先日読んだ『宇宙細胞』『黒十字サナトリウム』の選評が気になったので掲載誌を探してみました。Amazonは「SFJapan」だと見つからず。「SF Japan」でないとヒットしないんですね。ちょっと見つけにくい。

 『宇宙細胞』の戦闘シーンではやはり選考委員も『寄生獣』を連想したようで同じことが書かれていました。投稿時点から大幅に修正されたのでしょう、選考座談会で欠点として挙げられていた部分はきっちり解消しているようです。選評とは「ん、違ってるんじゃないかな?」という部分がけっこうあった気がします。
 同様に『黒十字サナトリウム』ではオチのまとめ方に手が入ったのかな? 『黒十字サナトリウム』の後書きからするとかなり加筆されたようなのですが、変更前の状態は一般の読者はわからないので、たぶん、となります。

 そしてこの号には大賞受賞の両作者による短編が掲載されていました。
 『宇宙細胞』の黒葉雅人の「メイド・イン・ジャパン」は少し古いイメージのミクロの決死圏というか攻殻機動隊のナノマシンの解説というか、受賞作もそうですがやっぱりどこかで見たイメージの集合という印象。センス的には1990年代、いやもしかすると70年代あたりまで遡っちゃいそうなんですが、たぶん意識しての昭和賛歌ではないと思います。ちょっとがっかりな感じ。
 『黒十字サナトリウム』の中里友香は「逆十字入門」。これは受賞作の番外編でした。本編と同様、ゴシックロマンの香りたっぷり――だけどやはりSFではありませんでした。ファンタジーかホラー系列の賞の方が評価が高かったのではないでしょうか、この人。

 日本SF新人賞の選考座談会も大賞二作と合わせて読んでみると「なるほど」と納得の内容でした。受賞者自身の言葉もあって、特に『宇宙細胞』の作者の「ネットにも繋がっていない古いパソコンで書いた」というあたりに懐古調?の単語センスの源を感じたのでした。

 雑誌全体の印象はいまいち……。
 全体的に「SF的転回」を目指したっぽい短編が多くて星新一や小松左京、筒井康隆の後継なんだなと感慨も湧いたのですが、今時『ウルトラジャンプ』なり『アフタヌーン』なりの少年・青年漫画誌を開けばその半ばはSF設定の話な訳で、負けてないかい?と思ってしまいます。『SF Japan』だけでなく『S-Fマガジン』でも印象は同じなのですが。舞台は宇宙だったり、未来だったりして、SF的なアイデアも投入され、お話としてきっちり完成していて水準も高いのに、サイエンスの香りがしません。なんというか、科学自体の思考方法が感じられないのです。むしろSFの始祖たるジュール・ヴェルヌの方が科学的アプローチの意志が明確でSF度は比較にならないくらい高い気がします。この百年間はなんだったのか。
 作家的にSF度の低そうな恩田陸が一番面白かったり、四コマ漫画がアイデアのキレが良かったり。それでいいのでしょうか。

 がんばれ和製SF!

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