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『未知なる地底高熱生物圏』トーマス・ゴールド

未知なる地底高熱生物圏―生命起源説をぬりかえる
大月書店
トーマス・ゴールド著 丸武志訳
2000.9.20
3990円

★★★★☆

 出版当時に読んでおけば良かった、と思った本でした。2000年刊です。

 この本は「石油無生物起源説」を中心に炭化水素で生活する土中の――何キロも、何十キロも深い地下に展開される生命世界の可能性を指摘したものです。ジョークのネタになるような地底人の類ではなく、石油無機成因論と絡め、生命の起源に近いような原始的な微生物の世界を予言します。

 予言。
 そう、あくまでも予言です。仮説です。何キロもの地下はそう簡単に人の手が届く世界ではありません。原著は1999年に出版されていますが、未だにこの本の説く地底高熱菌の決定的証拠は得られていないのではないかと思います。

 人づてに「石油の無機起源」という話をぽつぽつと聞くことがあったのですが、どうやら大本はこの本の著者や旧ソ連の学者たちの説のよう。ところが「石油って生物起源じゃないんだって」という話を聞かせてくれる人はたいていそこまでしか知らず、ネタ元はテレビだったり、伝聞だったりと参考にすべき書物に辿り着けません。図書館の棚をなんとなしに眺めていて目に付き、「もしかして?」と手に取ってみたところ、気になっていた情報がぎっしりと詰まっていた本だったのでした。なんという幸運。

 ただしこの著者、本書冒頭の序章でも触れられているように斬新な研究で有名な人物です。天文学、地球科学、生物学と多様なジャンルで奇説を展開し定説を塗り替える画期的な成果を残すものの、決定的な反証がなされ玉砕してしまうこともあるようです。2004年に亡くなっているらしいのが惜しまれます。近年では日本の地球深部探査船「ちきゅう」(OD21)も稼働を始め、この本で取り上げられていた様々な仮説が実証間近だったかもしれないのに。

  • 石油無機起源説
  • 炭化水素を栄養源にした地下深部の高熱高圧生物圏
  • ダイヤモンドの起源
  • 金属鉱床の起源
  • 非断層型地震の原因
  • 生命そのものの起源
  • 地球外の地底高熱生物圏の可能性

 ざっとこれだけの仮説がこの本では提唱されます。大本は二つ。地球深部に蓄えられた炭化水素とそれを栄養とする微生物の仮定です。なんと壮大な、興味深い仮説でしょうか。この本を読んでみた限りでは説得力も十分です。なのに石油生物起源をひっくり返せないまま、ゴールドは天に召されてしまいました。1920年生まれだそうですから大往生の部類だとは思うのですが、残念なことです。

 独特の着眼点と発想で満たされたこの本はアイデアの宝庫です。刺激的です。面白いです。でも難点もあります。文章が、今ひとつなのです。訳の問題なのか原著の問題なのかはよくわかりません。読んでいてもなかなか頭に入ってこず、しばしば――1ページに1回以上――長い長いセンテンスを読み直して、三行にも渡る名詞節の係り受けを確認しなければならなかったりします。読み進めるのに時間のかかる本でした。これで中身がスカならば投げ本ですが、四つのお勧め本なのです。

 おもしろかった。

 次は久々に出た火星本に取りかかる予定。

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