カテゴリー「本の感想2008」の77件の記事

『火星の生命と大地46億年』丸山茂徳

背景はポメラの実寸大パンフレット火星の生命と大地46億年
ビック・ベーカー ジェームス・ドーム 丸山茂徳
講談社
2008.11.25
1890円

★★★★☆

 火星解説本は久しぶり。
 “かぐや”の影響か月関連の本は何冊か出ましたが火星はあまり注目されなかった年だったようです。フェニックスが土中の氷を直接見つけたりと新たな発見はあったのですが。

 楽しめました。
 変わり種の本でした。全260ページのうち100ページちょっとが火星有人探査小説で構成されています。これはいつぞややっていたアメリカ産の科学ドラマ「人類火星に立つ」の最新版に相当する物でしょうか。こちらは地質ドラマという感じ。

 前半のSF小説の部分も、後半の火星史解説の部分も全般に地質屋さんが書いたという印象です。SF小説部分も楽しめましたが、むしろこの本が本領を発揮するのは後半の解説部分。これまでの火星探査で判明したことの単なるまとめではなく、一歩踏み出して火星惑星史を描き出すことに挑戦しています。これがなんというか、前半のSF小説よりもずっとSF的な興奮の感じられるワクワクする惑星史ストーリーなのです。科学って、知識ってそれそのものだけでエンターテイメント! 図版も多く、解説も丁寧でした。
 当ブログで公開中のSF小説『イシノネ』を書く前にこれを読んでいれば数段パワーアップできたのに、と悔しい思いをしました。『火星の生命と大地46億年』で述べられているとおり、火星史をまとめた資料がなくて過去の火星像を描くのに苦労していたのです。

 ただ、私のような素人にはこの本で描かれている火星の経歴のどの部分が確認された事実で、どの部分が著者らによる仮説であるのかが不分明で悩ましく感じました。NASAのM.E.R.やPhoenixのページは追っかけてはいても最新の火星探査データを元にした論文まではなかなか追いかけられません。どの観測事実からどの推論が得られたのか、というのは気になるところです。
 地質用語を中心に未知の用語がぽこぽこ並ぶのに少し「むむむ」となりました。花崗岩と玄武岩くらいであれば高校地学でも習う用語なのでOKですが、アノーソサイトやらオフィオライトやらは馴染みがありません。アノーソサイトは斜長岩、オフィオライトは海洋性地殻が陸上に押し上げられた物……かな。超大陸タウメージアという言葉も説明らしき物が登場するのは最初にその単語が登場したずっと後。編集上の凡ミスらしきもの(化学式が入るべき場所が抜けていたり、「はやぶさ」と「のぞみ」が微妙に混同されていたり)があったのも惜しい。
 ちなみにgoogle検索しても「タウメージア」はヒットなし(2008.12.22現在)なので、このブログがカタカナでヒットする唯一のwebテキストとなることでしょう。

 瑕瑾はありますがこんなエキサイティングな火星本は久しぶりでした。
 火星に夢を遊ばせてみたい人、火星を舞台とした創作を志す人必読。

 著者の三方のうちの一人、丸山氏は地球温暖化関連でも二酸化炭素による人為温暖化説反対への先鋒でもいらしてそちらの著作でも有名な方ですね。

2009/1/6追記
 ニュートンプレスから1/27刊予定で『火星-赤い惑星の46億年史―火星の科学入門最新版』(2009.2.18 購入:レビューあり)という本が出るようです。2499円。楽しみ。

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『未知なる地底高熱生物圏』トーマス・ゴールド

未知なる地底高熱生物圏―生命起源説をぬりかえる
大月書店
トーマス・ゴールド著 丸武志訳
2000.9.20
3990円

★★★★☆

 出版当時に読んでおけば良かった、と思った本でした。2000年刊です。

 この本は「石油無生物起源説」を中心に炭化水素で生活する土中の――何キロも、何十キロも深い地下に展開される生命世界の可能性を指摘したものです。ジョークのネタになるような地底人の類ではなく、石油無機成因論と絡め、生命の起源に近いような原始的な微生物の世界を予言します。

 予言。
 そう、あくまでも予言です。仮説です。何キロもの地下はそう簡単に人の手が届く世界ではありません。原著は1999年に出版されていますが、未だにこの本の説く地底高熱菌の決定的証拠は得られていないのではないかと思います。

 人づてに「石油の無機起源」という話をぽつぽつと聞くことがあったのですが、どうやら大本はこの本の著者や旧ソ連の学者たちの説のよう。ところが「石油って生物起源じゃないんだって」という話を聞かせてくれる人はたいていそこまでしか知らず、ネタ元はテレビだったり、伝聞だったりと参考にすべき書物に辿り着けません。図書館の棚をなんとなしに眺めていて目に付き、「もしかして?」と手に取ってみたところ、気になっていた情報がぎっしりと詰まっていた本だったのでした。なんという幸運。

 ただしこの著者、本書冒頭の序章でも触れられているように斬新な研究で有名な人物です。天文学、地球科学、生物学と多様なジャンルで奇説を展開し定説を塗り替える画期的な成果を残すものの、決定的な反証がなされ玉砕してしまうこともあるようです。2004年に亡くなっているらしいのが惜しまれます。近年では日本の地球深部探査船「ちきゅう」(OD21)も稼働を始め、この本で取り上げられていた様々な仮説が実証間近だったかもしれないのに。

  • 石油無機起源説
  • 炭化水素を栄養源にした地下深部の高熱高圧生物圏
  • ダイヤモンドの起源
  • 金属鉱床の起源
  • 非断層型地震の原因
  • 生命そのものの起源
  • 地球外の地底高熱生物圏の可能性

 ざっとこれだけの仮説がこの本では提唱されます。大本は二つ。地球深部に蓄えられた炭化水素とそれを栄養とする微生物の仮定です。なんと壮大な、興味深い仮説でしょうか。この本を読んでみた限りでは説得力も十分です。なのに石油生物起源をひっくり返せないまま、ゴールドは天に召されてしまいました。1920年生まれだそうですから大往生の部類だとは思うのですが、残念なことです。

 独特の着眼点と発想で満たされたこの本はアイデアの宝庫です。刺激的です。面白いです。でも難点もあります。文章が、今ひとつなのです。訳の問題なのか原著の問題なのかはよくわかりません。読んでいてもなかなか頭に入ってこず、しばしば――1ページに1回以上――長い長いセンテンスを読み直して、三行にも渡る名詞節の係り受けを確認しなければならなかったりします。読み進めるのに時間のかかる本でした。これで中身がスカならば投げ本ですが、四つのお勧め本なのです。

 おもしろかった。

 次は久々に出た火星本に取りかかる予定。

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『バート・マンロー スピードの神に恋した男』ジョージ・ベッグ

バート・マンロー スピードの神に恋した男
ジョージ・ベッグ
ランダムハウス講談社
1995円
2007.1.27

★★★☆☆

 先日のレビューを書いた映画『世界最速のインディアン』にぐっと来たのでバート・マンローのドキュメンタリを読んでみました。多少のネタバレを含むので、映画をこれから見ようという方はこの記事より先に楽しんでこられることをお勧めします。

 実物のバート・マンローは掲載された写真からすると映画でバートを演じたアンソニー・ホプキンスよりほっそりとした男だったようです。そして映画がかなりイベントを詰め込んだお話であることがわかりました。
 ですがメカ関連は概ね事実に忠実に描写されていたこともわかりました。

「あんまり違わないなら映画だけ見ておけばいいかな?」

 そう思うかもしれませんがそれには「否!」と答えさせていただきましょう。映画のバート・マンローは格好いいし、めちゃくちゃドラマチックでじーんと来るし、もうこれだけでお腹いっぱいだったけれど、実在のバートは映画よりそうとう頑固で、困った人であったようです。そして明るく快活。近所には絶対にいて欲しくないタイプのメカ狂い。映画の冒頭で夜明け前にエンジンをかけて隣人を怒らせるバートですが、今の日本でやれば間違いなく訴訟モノ。しかもそんな振る舞いを、いやそれ以上にはた迷惑なことを続けてきたのがバート・マンローの実像のようです。その徹底ぶりがいっそのこと清々しい。
 にも関わらずに隣人に愛されたバート。
 人を魅了するメカマニアの秘密がこの本からは窺えます。

 映画の冒頭、静かな音楽と共に映し出されるガラクタ部品の並んだ棚。"OFFERINGS OF THE GOD OF SPEED"(スピードの神への捧げ物)と書かれた棚はこの本のP.244に挿入された小さな写真にもありました。バートが暮らしていた物置小屋のあの部品棚は本当にあったのです。いえ、映画は再現だとは思うのですが、オートバイ絡みのシーンではとにかく徹底した「再現」が行われているのが『バート・マンロー スピードの神に恋した男』からはわかるはず。
 そういえばこの本の副題「スピードの神に恋した~」はちょっとアレな感じが。恋するなら"GODDESS"だよなぁ、なんて思ったり。

 楽しむ順番は、映画→本→映画、がお勧めです。
 とにかく先入観なく映画を楽しみ「じーちゃん格好いい!」と拳を握り、本を読んで「映画に劣らぬすごいじーちゃん」と細部の知識を仕入れ、再び映画を見れば「おおおっ。このシーンはっ!」と三倍楽しめるはず。この本単品ではバビビィィィィィイと突進する映画のあの空気感は掴めないと思うのでは少なめの三つ。Amazon商法みたいですが「合わせて楽しみたい」セットとして四つ半、かな。

 訳文が微妙に心許なかったり、専門用語が十分に咀嚼されないままに直訳されていたりもしますが、バート・マンローの魅力を損なうほどの問題もないかと思います。
 でもP.45のピストンの記述は少しヒドイかも。原文から混乱しているのかな。

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『脳研究の最前線』脳科学総合研究センター


脳研究の最前線(上)(下)
理化学研究所脳科学総合研究センター
講談社ブルーバックス
2007.10.20
各巻1197円

★★★☆☆

 読むのに時間がかかってしまいました。とりあえず上巻のみのレビューを。

 この本を読んで何がわかったかというと、脳のことがよくわかっていないことだけがよくわかった、でした。先に読んだ『脳を支配する前頭葉』でもそうでしたが、脳を怪我した患者の振る舞いやMRI、ヒト以外の動物による実験などからおおよその機能を推測する、という手法が人間の脳研究の中心のようです。

 でもその研究方法、無理があるような気がします。何もない空中に土台を作り、そこに建物を建てようとしているみたい。

 ニュートン物理学のように誰もが納得できる明確な出発点がありません。知性ってなんですか、自由意志って本当に存在するのですか、私たちの脳が認識している世界って実在するのですか。そんな素朴な疑問は棚上げで「注意」や「意識」を脳の活動と照らし合わせている。

 これが注意を向けているときの脳の状態だよ。
 ――では、注意ってなんですか?
 この脳の状態が注意を向けているってことさ。

 こんな感じ。
 言葉の世界であれば循環的な定義も悪くありません。言葉は相対的な位置関係で互いを規定し、常に変化していくものでしょうから。ですが、このモデルも定義もあやふやな状態で「海馬は記憶を司る」「道具を使うときの脳は腕を動かすのとそっくりの活動をする」と事実を積み上げて知性や意志の解明に繋がるのでしょうか。良くて、脳の病気や怪我に対して「よくわかんないけど効く」という程度の結果にしか繋がらないのではないでしょうか。
 もちろん事例を積み重ねれば効能の確からしさは上がっていくし、それは医療にとっては大切なことです。ですが、知性や言葉を科学的に解明することには繋がっていないように思えます。

 ケヴィン・ケリーの言うように、“特異点”は遠いのかもしれません。

 読むのに時間がかかったのは上記のようなすっきりしない感じが強かったことに加えて、わかりづらい本でもあったからです。
 一般向けのブルーバックスということで文章自体は比較的平易なのですが、出発点があやふやなまま、脳の機能の断片が解説されていきます。いえ、モデルの雛型のようなものは示されるのですが、じゃあそのモデルをコンピュータ上で機能させられる?と問えば明らかに否。
 そして上巻全六章の、それぞれ一章ずつを違う研究者が綴っていて各章間の関連があまり見えてきません。文章も筆者ごとに大きく違い、章が変わる度に「なんの話をしているんだろう」と馴染むまで戸惑います。

第1章 脳のシステム
脳の内部での情報処理の手順を解説。脳研究における「意志」や「意識」といった大きな枠組みについて述べる。認知のプロセスについて解説するためかあやふやさが漂う。
第2章 脳の進化と心の誕生
遺伝子と神経系の構造・進化を対比させる。ホメオボックス遺伝子について紹介。DNAと解剖学的特徴の一致が興味深い。
第3章 知性の起源――未来を創る手と脳のしくみ
猿を対象にした研究から知能の起源を探る。「感覚運動に心はいらない」と説明し、ヒトには自分の体を想像する機能があるために他の動物とは違うと説く。が、その説明が一切ない。研究の基盤が宙に浮いているように思える。
第4章 言語の起源と脳の進化
言語の起源を歌に取るか、手や目――何かの動きからとするか。対立するモデルを概要的に紹介しわかりやすい。
第5章 脳はどのように認知するか
解剖学的な神経系の説明から入るのだが、なぜか非常にわかりづらい。特に難しいことを説いているわけではないはずなのだが。神経の機構解説から認知へと話が移り変わると途端に心許なくなっていく。「注意」という概念を本当に仮定していいの?というところがクリアできていないせいかも。答えは「自明」しかなさそうなのが恐い。
第6章 脳はどのように情報を伝えるか
神経学としてニューロンの振る舞いを解説。心に絡む問題にはノータッチだけれど、この章が一番安心して読めた。

 う~ん。下巻は途中でくじけてしまいそう。

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『欠落した近未来』ケヴィン・ケリー

 書籍レビューのようなタイトルですが、今回はオンラインテキストのレビュー……というか、徒然かな。

『欠落した近未来』ケヴィン・ケリー

七左衛門のメモ帳より

 縦書き文庫経由でケヴィン・ケリーの文章を訳している有志がいることを知りました。ケヴィン・ケリーはクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(cc)の元に科学・技術・社会の未来について書いていたりする人らしく、和訳された出版物もあります。ccで書かれたテキストを翻訳しているのが上記の「七左衛門のメモ帳」様。

 翻訳の良否については私にはわかりません。私の英語力では辞書と首っ引きで苦労して大まかな内容を理解するのが精一杯で、繊細なニュアンスの違いなどさっぱりわからないからです。その程度の英語力には「七左衛門のメモ帳」のような翻訳記事はとてもありがたいものです。

 今回取り上げる「欠落した近未来」ではSFの役割について考えさせられました。
 このテキストの中でケヴィン・ケリーは

現状のあらゆる種類のSFでは、近未来については空白のままである。

 と述べます。そしてケヴィン・ケリーの文章ではお馴染みの「特異点」という言葉を引っ張り出してきます。これのニュアンスがよくわからない。人工知能が人類の持つ知能を凌駕する知の革新で、そこに到達すると人類の抱えている問題があっさりごっそり解決されるらしいのです。ところがこの特異点にはいつまで経っても到達できない、というのがケヴィン・ケリーの持論であるらしく否定的な文脈で用いられます。

 SFで描かれる近未来は特異点に到達する前の世界。
 スタートレック時代のような遙かな未来は特異点後の世界。

 つまり「欠落した近未来」というのは様々な問題が解決しないままの未来らしいのです。山積した問題が片づかないので、好ましい展望を持った近未来が描けない。イコール、未来の欠落、ということのようです。

 なんとなくすっきりしないのですが、これは未来(future)という語に「有望な」という肯定的なニュアンスが強く含まれているからかもしれません。単純な時制としての未来ではなく、希望的観測を含めた「将来」に近い語なのかも。

 同じような感覚は現在(present)にもあるようでケヴィン・ケリーの紹介したウィリアム・ギブソンの「いつも異質な現在」(ever-alien present)という言葉にも存在するようです。presentはイコール・現在だけではなくカタカナ語のプレゼント、つまり文字通り「エイリアン・プレゼント」にかけられている気もします。“現在ってエイリアンからの贈り物くらい不思議でいっぱいさ”と。
 気がするだけでまったく根拠がないのですが。

 特異点に追いつくことがないからと言って近未来が描けないとも限りません。科学に対する全幅の信頼、明るい未来への期待は――大人になるまでの私の中には確かにありました。
 今の子供たちは私が子供時代に持っていたような「極超音速旅客機でアメリカまで二時間半、街にはエアカーが飛び、環境問題なんて全部解決!」なんて明るく脳天気な未来は描けないでしょう。学校では窮屈なエコロジーを刷り込まれ、家庭の経済状況は成長と共に改善するとも限らず、世界を揺るがせるマネーゲームとテロが日々のニュースを飾ります。未来に夢を描けないのも無理はありません。

 けれど、暗く、慢性的な不況の下でこそ、地に足の付いた前向きなSFが力を持つのではないでしょうか。ビル・ゲイツになれるサクセスストーリーでなくても、世界を救う救世主になれなくても、小さな夢を叶える科学の力。そういう話が書ければいいな、とワナビの一人として思うのです。(挑戦中の小松左京賞ではもう少しスケールの大きな明るい夢が求められているようだけれど)
 明るい話を書こう、小さな範囲でもいいから特異点を描こう、と反駁の気持ちを奮い起こさせてくれたケヴィン・ケリーのテキストでした。

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『脳を支配する前頭葉』エルコノン・ゴールドバーグ

脳を支配する前頭葉―人間らしさをもたらす脳の中枢
エルコノン・ゴールドバーグ著 沼尻由起子訳
講談社ブルーバックス
1113円
2007.12.20

★★★☆☆

 面白かったような、そうでもなかったような、微妙な感じでした。

 三章くらいまでは概論的で、あまり具体的な話もなくて目が滑る印象だったのですが、著者の研究が反映され出す四章あたりから面白くなってきます。その一方でやはりと思ったのですが、認知領域の学問にありがちなあやふやさからは逃れられないようで事例紹介はともかくメカニズム説明では「え~、本当に~?」と思ってしまうことも多かったです。
 脳の研究は怪我による機能障害からヒントを得ることが多いようですが、この本でもやはり脳負傷者を対象にした研究が紹介されます。その研究自体は面白いのですが「前頭葉の機能と負傷部位との関連が直接説明できていないんじゃない?」と思ってしまいます。

 なんかこう、もっとスカッと物理学のように明晰な認知モデルが知りたいです。fMRIやCTといった最新の観測手段にしてもニューロンの活動ひとつひとつを追跡できているわけでもなく、負傷による機能阻害による認知メカニズムの推測もやっぱり頼りなく思えます。「意識って何? なんで私は世界を認識できているの?」という問いには到底答えられそうもありません。

 この本の次は『脳研究の最前線』という本に取りかかる予定。

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『英語が苦手なヒトのためのNASAハンドブック』

英語が苦手なヒトのためのNASAハンドブック
大崎誠/田中 拓也
SoftBank Creative サイエンス・アイ新書
1000円
2008.4.16

★★☆☆☆

 裏表紙に「NASAの貴重な画像・データを一挙にゲット」とか「英語が苦手なヒトのための」とか長ったらしいコピーが付いているのが安っぽく思えて手に取るのをためらったのですが、読んでみたらまあまあ普通のガイド本でした。ソフトバンク系列のこういうキャッチコピーのノリはどうも好きになれません。

 そんな先入観のためか。
 中身の雰囲気はパソコンソフトの操作ガイドみたいな感じで、元ネタが全部NASAサイトにあるだけにパソコン本と同様「他人のフンドシで作った本」の印象が拭えません。
 う~ん。英語がわからなくたってとりあえずNASAサイトにアクセスして適当に眺めてみれば、なんとなく見たい画像にはたどり着けちゃう気がします。必要なのはNASAがどんな活動を行っているかのおおまかな全体像と、英語でのプロジェクト名を知ることくらいでしょうか。「オポチュニティとスピリットの活躍が見たい!」と思っても"Mars Exploration Rover"というプロジェクト名を知らなければ見つけられません。驚くほどたくさんのプロジェクトがあるので"M.E.R"を"Mission"コーナーから見つけ出すのは少し敷居が高くなります。もっともローバーの画像がアイコンになっているのでざっと一渡り眺めればなんとかはなるはずなのですが。
 この本を片手にNASAのサイトを眺めてみても、たぶん五分後には本のことを忘れて自力で情報を探し始めているのではないでしょうか。

 まったくの初心者には手助けにはなるかもしれませんし、フルカラーでキレイな本ですが、本気でNASAサイトの面白さを伝えようと作られたようには思えません。日本語のサイトマップが一ページあればそれで用が足りてしまいそう。何より、紙の本では直接リンクが張れないだけにwebサイトのガイドという発想自体が不発気味です。

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『染織の黒衣たち』菊池昌治

染織の黒衣たち
菊池昌治
法政大学出版局
2940円
2008.6.25

★★★★☆

 ――書く前に読んでいたら『あかねいろ』はきっと少し違う話になっていた。

 そんなことを思った一冊。
 2008年の6月に出た本なので時系列は逆なのですが、欲しかった知識がここにありました。染め織りの「染め」と「織り」それぞれの技術についてはそれなりに本もあるのですが、織機をはじめとする染織の道具については構造の説明や具体的な使い方はあっても道具の洗練や職人について書かれたものはあまり見当たりません。糸繰りの話や藍の製造過程を解説したものがぽつぽつあるくらいでしょうか。
 『染織の黒衣たち』は染織の道具について書かれた本です。しかも現代の京都・西陣の染織事情を反映して。

 タイトルから最初は黒染めに関する本かと思いました。伝統技法において黒染めは手間のかかる難しい技術で黒は特別な色らしいのです。それで、黒染めに関する知識も欲しいな、と思って手に取ってみたところ道具の本でした。予想とは違ったけれど、でも、この本は染織に興味のある人には「こういうこうとが知りたかった!」という本であるはず。織機本体のみならず、杼、筬から刷毛、などの道具に加えて蒸しや絞りなどの染織の周辺にいたるまで職人とその仕事を紹介していきます。

 この本の表紙は青花紙を撮影したものだそうです。

花ではない、あれは色に出た露の精である。

徳富蘆花『みみずのたはこと』

と表紙袖に引用されていました。青花とは露草のこと。西陣の染めにおける露草の役割は――とても儚いのです。青花紙の章を読み、じぃんと来ました。

 細かなところまで気を配られた繊細で風情を感じさせる文で紹介される職人の世界。現代のもたらす寂しさ。いかにも「感動しろ!」と用意されたドキュメンタリとは違うけれど、静かに胸に迫ってくる読後の余韻。生半な物語では太刀打ちできない事実の力。

 良い本です。とても。

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『NASAを築いた人と技術』佐藤靖

NASAを築いた人と技術―巨大システム開発の技術文化
佐藤靖
東京大学出版会
4410円
2007.5.2

★★★★☆

 興味深い本でした。

 面白かった、というのとも少し違うし、ためになった、でもないしで少し悩んで思いついたのが「興味深い」という言葉。

 文章は少し硬いです。宇宙工学・科学史の学者が論文として書いた物をまとめ一般向けにしたものだそうで、さもありなんという印象でした。内容はタイトルの通り、NASAの組織分析です。脱人格化を迫るシステム工学と人の繋がりを重視する技術者チームとを対比させ、アポロ計画がどのように推進され、成功に結びついたのかを分析します。
 日本のISASやNASDAについても一章を割き、アメリカ型のシステム開発と対比します。

 宇宙技術そのものについての解説ではなく、巨大システム開発において人とシステム工学を対比させた内容なので雰囲気的にはビジネス書や運営論の本に近いかもしれません。よくある「苦難を乗り越えて成功に導いた」みたいなプロジェクトX風でもなく、NASAの組織の分析に終始しているのでドラマたっぷりの展開もありません。(でもフォン・ブラウンはカッコイイ!とも思えた)
 やっぱり「学者の書いた本」かな。

 つくづく「アポロ計画はアメリカだから実現できたんだなぁ……」と感心したのでした。
 科学・技術と科学者・技術者の関わりはどうなっていくのだろう、とも考えさせられる本でした。

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『アストロバイオロジー 宇宙が語る〈生命の起源〉』小林憲正

アストロバイオロジー―宇宙が語る〈生命の起源〉
小林憲正
岩波科学ライブラリー
2008.8.6
1365円

★★★★☆

 ここしばらくアタリ本を引いているようでシアワセです。

 この本は一章を読んだ段階では「イマイチ?」と思ったのですが、二章以降で内容が具体的になってくると途端に面白くなりました。少し前に感想を書いた『宇宙生物学入門』とほぼ同じジャンルの本です。これまでの生物学は地球上でしか成立しない生物学でしたが、それを地球外でも成立するように拡張しよう――というのが宇宙生物学=アストロバイオロジー。『宇宙生物学入門』はかなりぎっしり厚く、こちらの『アストロバイオロジー』はシンプルにまとめてある感じ。ページ数も120ページ程度です。

 シンプルと言っても大雑把なのではなく、必要な要素だけでまとめてあるようで、あっさりとしていながら情報の密度があります。科学解説書はネタ探しも兼ねて読んでいる面もあり「面白い!」と思ったところをメモに取るのですが、この本はメモした項目がいっぱい。
 著者は化学が専門とのことでこの本の中でも化学進化の部分の比重が高めなのですが、これが地味ながらわくわくしてしまう話なのです。地球生物においてL型アミノ酸ばかりでD型がほとんど見られない理由。暗黒星雲中での有機物生成。火星や木星系・土星系の生命探査の意義。著者の唱える“がらくたワールド”生命起源。化学は苦手意識があって解説本もあまり読んでこなかったけど、実は面白い世界のようです。
 化学進化のアプローチが有望に思える本でした。

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