『火星の生命と大地46億年』丸山茂徳
火星の生命と大地46億年
ビック・ベーカー ジェームス・ドーム 丸山茂徳
講談社
2008.11.25
1890円
★★★★☆
火星解説本は久しぶり。
“かぐや”の影響か月関連の本は何冊か出ましたが火星はあまり注目されなかった年だったようです。フェニックスが土中の氷を直接見つけたりと新たな発見はあったのですが。
楽しめました。
変わり種の本でした。全260ページのうち100ページちょっとが火星有人探査小説で構成されています。これはいつぞややっていたアメリカ産の科学ドラマ「人類火星に立つ」の最新版に相当する物でしょうか。こちらは地質ドラマという感じ。
前半のSF小説の部分も、後半の火星史解説の部分も全般に地質屋さんが書いたという印象です。SF小説部分も楽しめましたが、むしろこの本が本領を発揮するのは後半の解説部分。これまでの火星探査で判明したことの単なるまとめではなく、一歩踏み出して火星惑星史を描き出すことに挑戦しています。これがなんというか、前半のSF小説よりもずっとSF的な興奮の感じられるワクワクする惑星史ストーリーなのです。科学って、知識ってそれそのものだけでエンターテイメント! 図版も多く、解説も丁寧でした。
当ブログで公開中のSF小説『イシノネ』を書く前にこれを読んでいれば数段パワーアップできたのに、と悔しい思いをしました。『火星の生命と大地46億年』で述べられているとおり、火星史をまとめた資料がなくて過去の火星像を描くのに苦労していたのです。
ただ、私のような素人にはこの本で描かれている火星の経歴のどの部分が確認された事実で、どの部分が著者らによる仮説であるのかが不分明で悩ましく感じました。NASAのM.E.R.やPhoenixのページは追っかけてはいても最新の火星探査データを元にした論文まではなかなか追いかけられません。どの観測事実からどの推論が得られたのか、というのは気になるところです。
地質用語を中心に未知の用語がぽこぽこ並ぶのに少し「むむむ」となりました。花崗岩と玄武岩くらいであれば高校地学でも習う用語なのでOKですが、アノーソサイトやらオフィオライトやらは馴染みがありません。アノーソサイトは斜長岩、オフィオライトは海洋性地殻が陸上に押し上げられた物……かな。超大陸タウメージアという言葉も説明らしき物が登場するのは最初にその単語が登場したずっと後。編集上の凡ミスらしきもの(化学式が入るべき場所が抜けていたり、「はやぶさ」と「のぞみ」が微妙に混同されていたり)があったのも惜しい。
ちなみにgoogle検索しても「タウメージア」はヒットなし(2008.12.22現在)なので、このブログがカタカナでヒットする唯一のwebテキストとなることでしょう。
瑕瑾はありますがこんなエキサイティングな火星本は久しぶりでした。
火星に夢を遊ばせてみたい人、火星を舞台とした創作を志す人必読。
著者の三方のうちの一人、丸山氏は地球温暖化関連でも二酸化炭素による人為温暖化説反対への先鋒でもいらしてそちらの著作でも有名な方ですね。
2009/1/6追記
ニュートンプレスから1/27刊予定で『火星-赤い惑星の46億年史―火星の科学入門最新版』(2009.2.18 購入:レビューあり)という本が出るようです。2499円。楽しみ。