『ハーモニー』伊藤計劃
ハーモニー
伊藤計劃
ハヤカワSFシリーズ Jコレクション
1680円
2008.12.25
★★★★☆
面白かった。
百合っぽいと聞いて手に取ってみたのですが、確かに百合要素はたくさん盛り込まれていたし、少女たちを中心にした話ではあったけれど、これは百合小説ではなくユートピアのお話です。真っ向SFでした。
時代は未来。人々は生活の隅々までをWatchMeなる健康管理マイクロマシンらしきものに委ねて生きている世界。平和で安全で幸福だけれど閉塞感に満ちた世界で三人の少女が出会い、ユートピアに対して小さな反逆を始めます。けれどそれは次なる世界へ繋がる第一歩で――。
冒頭からの印象は少しばかりエキセントリックな雰囲気でSF臭の濃さを印象づけますが、そのSF的な香りがなぜか三人の少女たちの尖った会話と調和してSFと百合的ガジェットの相性の良さを感じさせてくれます。いいな、これ。
でもその尖った感触は三分の一ほど読み進めると読む側が慣れてしまうせいか次第に刺激を感じなくなり、最初の印象よりもフツーのお話の肌触りに。未来世界は『攻殻』的で、未来の日常描写もSF的ガジェットの投入も頻繁ですが割と想像の範囲内のデテールが描かれます。
そして訪れる決着。
これは「そうなるだろうな」と予想されたオチではありましたし、文章的にも雰囲気たっぷりに読者を酔わせるという感じではないのですが、なんかキました。ゾクゾクと。part:number=04の最後。
全編を通じて色彩的に“暗”なトーンであったりして(『虐殺器官』はもっとドン暗かったけど)、どなたにも全面的にお勧めというわけではないのですが、SF読みにはお勧めできると思います。
百合を期待して読むと「う~ん?」となってしまうはず。少女たちの関係は友人であり、戦友あるいは同士としての絆かな。
SF的ガジェットは良い感じに消化しているし、押井映画的な衒学趣味の香りも楽しめますが、「双曲線」と「指数」の関係はネタの核心に近い部分だけにもう少しきっちりとした理解が欲しかったかも。んでもケチをつけるほどのことでもなく、全般に好印象なお話でした。手にとって、土日で一気に読了してしまいました。
『虐殺器官』、『ハーモニー』と鬱色の息苦しくなるような空気が特色なのかもしれませんが、この作家の描く明るい幸せな未来世界も読んでみたいな、とちらりと思ったのでした。
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