『サイエンス・イマジネーション 科学とSFの最前線、そして未来へ』小松左京監修
サイエンス・イマジネーション 科学とSFの最前線、そして未来へ
小松左京監修 瀬名秀明編著
NTT出版
2008.9.3
2940円
★★☆☆☆
2007年、日本SF大会と世界SF大会が同時にニッポン2007として開催されました。そこで行われたシンポジウム「サイエンスとサイエンスフィクションの最前線、そして未来へ!」の講演第一部「ヒトと機械の境界を超える」と第二部「意識と情報の進化論」の記録と、講演においてSF作家たちに発された問いへの回答SF小説をまとめたものです。講演はロボットと知能の専門家たちによって行われました。
魅力的なイベントだったようです。
科学者達の講演はどれも非常に興味深い物でした。SF小説の世界には瀬名秀明がいるわけで、この人とロボット研究者や知能研究者のパイプによって実現したイベントなのでしょう。
ですが、日本の狭いロボット・知能の研究世界。パネルディスカッションでは参加者それぞれが互いの研究についてある程度の知識を持っていたようで、馴れ合いの空気が。そして途中からパネルディスカッションに加わった海外からのSF作家は「わかってないなぁ」という感じのオミソ扱い。ガイジンらしい「禅」というキーワードや女性であるが故の肉体の年齢による変化の大きさを上げてみた物のディスカッション参加者からは(苦笑)が帰ってきたようです。知能におけるメディテーションの役割や身体性の変化に結びつけて話題を発展させる事ができなかったのはパネリスト側の“敗北”のように思えました。言葉の壁と共有している知識の壁があるとはいえ、「変な事を言い出すシロウト」扱いはなんだかなあ。“外”の人を呼んだ意味がない閉じたイベントのように見えてしまいました。異文化からの突拍子もない刺激に対応できない内輪の討論。閉塞感を感じます。
科学者達が投げかけた問いを元に書かれたSFも、堀晃の「笑う闇」はリアルを感じる日常描写とお題の消化の融合が面白く感じられたのですが、他はいまひとつしっくりきませんでした。私の好みの偏りなのでしょうか、科学者達の講演の方が興味深かったです。現代の科学が提示した問題はSFの題材としては使い古されている観があり、かつ、ナイーブで、どうしてもアバウトになりがちなSF小説という舞台には合わない印象を持ちました。
SF作家達からの返答として書かれたSFはTORNADO BASEにて読む事ができます。