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『暴走する脳科学』河野哲也

暴走する脳科学
河野哲也
光文社新書
2008.11.20
777円

★★★☆☆

 面白かった。興味深かった。でも、すっきりしなかった。

 挑発的なタイトルですが、先走り気味かな?
 非侵襲的観測によって脳の研究が進みつつある現在、倫理面で問題のあることが起きている/起きようとしているのでは、と警鐘を鳴らす内容です。
 ドーキンスの“拡張された表現型”を心に当てはめて、心というのは脳だけではなく社会にも広がっているんだよ、という考え方を紹介し、水槽の中の脳――ロボコップなんかにも出てきた昔ながらのアレ――はうまく機能しないんじゃないか、という分析哲学者の考えを示します。
 これは第二章なのですが、この時点でなんとなく納得が行きません。心は周囲を取り巻く環境にまで広がるって、そんなの哲学なの?新たな発見なの?と。「環境」というのを無限遠まで拡張すればそれは「世界は心が生み出した幻影」というデカルトの懐疑説で棚上げにした世界の実在の真偽にまで辿り着いてしまいそう。そもそもドーキンスの「利己的な遺伝子」論は遺伝子の媒体や仕組みを特定せず、遺伝子のスケールをミクロからマクロまで自由自在に変えて論じることができ、絶対に否定できないけれど証明もできないロジックの代表です。著者が骨相学を振り返って「局在機能が無限に増える」という指摘を紹介しているのに、ドーキンスの考え方が「遺伝子が無限に増える」ことと同義の代物であることに気づかなかったのでしょうか。オカルトを例に引いても説得力が今ひとつです。
 そんな感じで「なるほど!」と膝を打って興味を持てた部分もあれば「え~?」と納得できない部分もいっぱいの本でした。
 最後に著者は心理主義というものを紹介して(ここでも例引きされている項目には納得が行かないのだけれど)、脳科学が個人の尊厳を押し流す方向で発展していくのではないかと危惧を表明します。つまり、実際に脳科学が暴走しているぞ、という警鐘ではなく、これから暴走する気配が濃厚だという指摘をして締めくくります。

 気に入らない部分も多かったけれど、刺激になった考え方、現状紹介も多く創作の種をいっぱいもらった気がします。

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