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『死想の血統 ゴシック・ロリータの系譜学』樋口ヒロユキ

死想の血統 ゴシック・ロリータの系譜学
樋口ヒロユキ
冬弓舎
2415円
2007.7.10

★★★★☆

 面白かった。

 ゴシックとはなんだろう、という本。ゴシック小説、ゴシック建築、ゴシック・ロリータと知っている言葉を並べてみてもなんとなくわかるようなわからないような。そういえば乙一の『GOTH』という小説も面白かったな、と思い出します。
 でもこの『死想の血統』を読んでみると「あれれ? ゴスってイメージとちょっと違うや」とも。ゴスの現場さえゴスの定義に関して混乱していると冒頭にあり、なるほどと思わせられました。そして「社会に挑戦する文化的闘争」という定義に納得させられます。なんだか大上段に構えた定義に見えるかもしれませんがナニソレ?と興味を掻き立てられた方にはこの本はオススメできるはず。

 「1 ゴシック、文化の銃弾」の章はとても興味深く読めた。過去のゴシック建築と現代のゴスを結ぶ流れを紹介する項で、たぶんこの本のメインコンテンツ。すごい。こういうのが読みたかった。

この本はゴス好きのビギナーに向けて書かれた本であると同時に、ゴスロリを周りから見て理解不能の烙印を押している「普通の人々」のための本でもある。

『死想の血統』p.6「はじめに」より

 「はじめに」のこの文章を体現しているのが1章でした。

 「2 人形、ひとがたの呪具」も面白かった。人形に多少の興味があるからこそ楽しめたのかもしれないけれど、著者の人形に対する熱い想いがビシビシ伝わってきて読んでいて気持ちよかった。確かに人形には「死の香り」が漂うのだけれど、でも人形というジャンルそのものがゴスの属性を持っているのかと考えると天の邪鬼な私はちょっと違う気もしてきてしまう。人形の中にゴスを強く反映する作品群があるということなのではないだろうか――なんて感想を持ちました。
 「6 グロテスク、犯される聖処女」の章も興味深く読めたのだけれど、キリスト教世界と少女、オタクとゴス・ロリの対比や関連づけで痒いところに手が届ききらない感じがして微妙なもどかしさが。1章の見渡しの良さとゴンと来る説得力には及ばず、といった印象。
 SMや寺山修司、少女椿に関しての章は正直言ってよくわからなかった。それぞれ対象についてあまり興味が持てないせいか、読んでいても共感も反感も浮かんでこずに素通りしてしまった感じ。

 この本を最初に手にとってぱらぱらと内容を眺めてみたときに百合好きとしては「百合=ゴス」論が張れるかも、なんて思い、実際に読んでみたら多少は重なる部分も感じられたのですが、あくまで部分的に共通点があるだけだったようです。でも収穫も多かった。

 副題に「系譜学」とありますが、これでもかというくらい情報ぎゅう詰めで密度は高いものの、肩肘を張った教科書的なものではなくて楽しく読める読み物でした。類書はないかな、と書店やネットを漁ってみているのですが今ひとつ情報が引っかかってこないようです。う~む。

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