PC-Watchの「2010年の電子ブック事情」
PC-Watchの「本田雅一の週刊モバイル通信 2010年の電子ブック事情」という記事は衝撃的でした。その記事の感想など。
長くなったので目次。
1.Amazonと出版社の認識の違い
Amazonでは個人でもISBN番号さえ取れば電子出版できてしまうとか。(ISBNがなくてもOKかも) Amazon側が販売価格の7割を確保し登録者が3割、というニュースも少し前にも流れていました。Amazonは出版社に対しても同じ条件を提示していたとか。出版社の側は逆に売り上げの7割が欲しいと主張しているそうです。
既存の大手出版社はKindleの波に乗らずに意欲的な弱小出版社が乗りだして大ベストセラーで出版業界再編――。電子書籍で打って出ようとしている日本の零細出版社、あるいは海外からの参入組はそんな展望を描いているかもしれません
今のAmazonで紙の書籍を買うときにはまず「検索」。購入者レビューも眺めてみたりします。そして「この商品を買った人はこんな商品も買っています」を見て類書もチェック。ですがレーベル別作品一覧は必要を感じないのです。せいぜい著者別の一覧程度でしょうか。ネット通販ではすでに「出版社」や「レーベル」という認識が希薄になっていると思います。Amazonが7割を主張するのもネット通販の顧客はもう「出版社」というブランドを気にしていないことを知っているからかもしれません。
判型や体裁に対する認識も薄いです。宅配されたダンボールの中身を見てから「えっ。こんなでっかい(小さい)本だったの?」と思うこともしばしば。Amazonのサイトが実商品のイメージを伝えていないから、なんて理屈もこねられるけれど、現実として買うときに判型なんて意識しなくなっているのです。2500円? だったらハードカバーかな、程度の認識で買い物をしてしまっています。
これはすでに実体のないデジタル書籍を受け入れられる感覚を育ててしまっているのかもしれません。
とはいえZaurus文庫(SharpSpaceTownブックス)で二十数冊買ってみた経験からすると、デジタル書籍は買い物としていまひとつ楽しくないのも事実。買ってすぐに読めるのは実本通販よりいい。でも縦断検索もできないし、表示はブンコビューワのみと閲覧手段も限られます。イラストも320x240が基本で値段の高いシリーズでようやくVGA。表現力も低く、フォントも一種類で、レイアウトも青空文庫レベル。悪くはないのだけれど、でも紙の書籍と並べると明らかに見劣りします。タイトルも小説やエッセイが中心で私の好む科学解説書の類はありません。学問寄りのものは文系ジャンルの新書物が少しある程度でしょうか。
などとちんたら記事を書いている間に元麻布春男の週刊PCホットライン『日本で電子ブックを成功させるには』とかYahooニュース「<出版社>国内21社が電子書籍協会発足へ アマゾンに対抗」なんてニュースも来ました。
Amazonに対抗って……成功した通販サイト運営ノウハウもなく今更団結して間に合うのでしょうか。コンテンツ保護を前面に押し出しているあたり貸本屋モデルでコケたLIBRIeやΣBookの二の舞になりそうな予感も漂います。法の整備に乗り出すとありますがコンテンツ提供側が示す法案じゃディズニーまがいの自己利益誘導しかできずに読書文化そのものにトドメを刺しかねない展開も心配です。
Appleの電子書籍ビジネスは出版社側の主張に合う売り上げ配分でもあるようなので、利益が確保されるなら、と連合が瓦解してAppleに流れてしまいそうな気もします。Kindle vs. Apple という海外資本対決になるのかもしれません。
2.適価普及で海賊版予防
書籍の電子的な流通が不可避な状況で、それを入手する正規ルートを造らなければ、非正規の流通が進んでしまう可能性がある。たとえば本をスキャンしてネットで共有し始めたり、OCRをかけて電子ブック形式に変換(日本語の場合は少々難しいかもしれないが)して自主流通させてしまうといった事をやり始める人が出てくるだろう。
本田雅一の週刊モバイル通信
2010年の電子ブック事情
PC-Watchの記事でショックであったのは海賊版に関する上記引用部分でした。現状、利用者の利便を損なわないコンテンツ保護手段がありません。すでにAmazonのコンテンツ暗号化は破られた、というニュースもありました。
ドキュメントスキャナ利用者である身には電子データの「非正規の流通」が容易なことも想像できます。このブログにも海賊版を求めてと思われるキーワードでの訪問者は多く、海賊版対策が切実であるとの実感も覚えます。法規制も必要なのかもしれませんが、たぶんPC-Watchに書かれていた「容易な正規の入手手段」提供が現実的なのでしょう。技術的保護手段は常に突破する努力がなされているし、テクノロジーの発展という面から言えば正常なことです。
ユーザの利便性を損なわないコンテンツ保護手段があれば一番なのですが……。
以下はPC-Watchの記事とは関係なくなります。
3.ネット小説
フリーのネット小説を公開している身としては電子書籍ビューワの普及は歓迎です。
私はwebブラウザで小説を表示するのがキライです。DPIの低いモニタ、縦書き対応の不十分なHTML、“しおり”さえ挟めない……。(縦書き文庫などはwebブラウザでの表示で頑張っていますが) でも電子書籍ビューワが普及し、公開規格であるePubが普及してくれれば電子書籍ビューワを持っている人には気軽に、市販商品と同じ表示品質でアマチュア小説を読んでもらえることになります。もちろん、アマチュア小説は商業作品のような内容面でのクォリティを持たせるのは困難ですが、同じ表示環境という舞台に乗れるというだけでもとても魅力的です。
当ブログではzip圧縮したテキストで自作小説を配布していますが、たぶん、パソコン操作のあまり得意でない読者を弾いてしまっていることでしょう。専用ハード・規格の普及でデジタルディバイドの壁が低くなるのもアマチュア小説書きにはありがたいことのはずです。
4.青空文庫
青空文庫。
知名度自体はあると思うのですが実際の利用者は少ない気がします。「だってどれを読めばいいのかわかんない」と。誰でも思いつくのが宮沢賢治や太宰治、あるいは『星の王子様』あたりでしょうか。でも『星の王子様』は見つけにくいはず。青空文庫に収録されている古い翻訳のタイトルは『あのときの王子くん』です。
日本で電子書籍を展開するならば青空文庫という既存のリソースを利用しない手はないはず。電子書籍を売る側は「タダの物に慣れたらお金を払わなくなる」なんて心配をしているのかもしれませんが50年以上前の本たちです。青空文庫掲載作品を必要とするのはコアな読者層、読書のエキスパートではないでしょうか。周囲への影響力も大きいはず。直接には販売に結びつかないかもしれませんが、間接的に電子書籍普及の鍵となるコンテンツ群ではないでしょうか。
あるいは青空文庫側がePubのような世界標準に対応していくべき状況なのかもしれません。著作権保護期間延長の是非を考えるためにも青空文庫のような試みは成果を実感してもらうのが一番ではないかと思います。
Macから2010年1月末に発表になったiPadも電子書籍のフォーマットはePubだそうで、さらに著作権の切れた本を無料で読めるようにもしているらしいスクリーンショットも紹介されていました。Google Books、あるいはグーテンベルク計画(欧米の青空文庫のような活動)の成果を生かした面白い試みではないかと思います。
5.著作者と出版社と読者と
日本では何年か前にLIBRIeやΣBookといった電子書籍の波が失敗に終わりました。出版社側の求めるガチガチの著作権管理――貸本屋モデルがまずかったのだ、と言われることが多いようですが本当のところはどうなのでしょう。そして新たなKindleとiPad、SONY READERの波はどんなものになるのでしょう。
出版社 | 著者 | 読者 | 販売店 | |
著作権管理 | 必須 | ? | 無関心 | ? |
自由な利用 内容検索、COPY&Paste等 |
制限 | ? | 無制限 | ? |
価格 | ? | ? | 安く | ? |
デジタル化への期待 | 流通コスト減、在庫コスト減、新ビジネスチャンス | 絶版の回避、少部数出版、間接費用圧縮による著作権料増大 | 製作販売コストの低下による低価格化、絶版の回避、少部数書籍の容易な入手、即時性 | 新ビジネスチャンス |
関わる人の思惑を想像してみるとこんな所でしょうか。もう少し情報と考えがまとまったら?を埋めていこうと思います。
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