『進化の設計』佐貫亦男
進化の設計
佐貫亦男
講談社学術文庫
2009.9.10
1008円
★★★☆☆
『飛べヒコーキ』等の著作で航空機ファンにはお馴染みの佐貫亦男。明治生まれの航空機技術者・研究者である著者の古生物の本。1982年に出版されたタイトルが文庫化されたものです。
十年以上前に読んだものですっかり忘れていて「『ヒコーキ』シリーズの人の恐竜本か」と未読タイトルと思って買い、ページを繰り始めてから読んでいたことに気づきました。以前に読んだ時は違うタイトルだった気がします。
既読で初版が二十年以上――三十年近く前の本ですが、面白かったです。古生物研究も大いに変わり、最近では巨大竜脚類やダチョウ恐竜が半水生であったという説は人気がなくなり、ステゴサウルスの背板は水平ではなく垂直に立てられて復元されます。獣脚類はゴジラポーズからダチョウのように上体が水平に、小型のものは羽毛が生やされることが多くなりました。古生物に関する知識が古くなってしまったのは残念ですが、機械の設計思想と造物主の設計思想との比較という点では古くなっておらず楽しめると思います。
扱っている古生物は無脊椎動物は最初の一章のみでさらっと、魚も軽く、爬虫類・恐竜はしっかり、ほ乳類もしっかり、霊長類はヒトまできっちりつないできます。イクチオサウルスや翼竜の形を取り上げて工学者の目から評価する、という形のエッセイなのですが1980年頃の古生物の知識をきっちりと押さえている(と思われる)のは専門外であってもさすがに一流の研究者。機械工学者のセンスはたっぷり感じられますが、具体的なメカとの比較はあまりないのでほぼ古生物・進化についての本という印象。
生命の絶滅史を追い、人類までたどりつくことによって著者は人類が進む絶滅への道を感じ取り「人間らしさ」復権を訴えます。
もし、と思います。この著者が「環境変化による絶滅とそこに生まれた空白のニッチを埋める」という生命史観を知ったら、現代の単細胞生物がわれわれ人類と同じ進化の最前線にいるという考え方に触れたら、著者の人間らしさ復権という主張は変わっただろうか、と。
現代の私たちにとってこの本は過去から現代を通り越した未来を眺める視点。昔を振り返ると言うほど古くもなく、最新の知識でもありません。今読むのであれば、現代の進化史解説本に目を通して予備知識を仕入れた上で接するのがお勧めです。
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