『雪中の奇跡』梅本弘
雪中の奇跡
梅本弘
大日本絵画
1989.12
3045円
★★★★☆
“冬戦争”と呼ばれる第一次ソ芬(フィンランド)戦争について書かれた本です。先に読んで大いに感心させられた『北欧空戦史』では航空機に焦点が合わされていましたが今回の『雪中の奇跡』は陸上戦闘を中心に冬戦争を描いたものでした。『北欧空戦史』を読んで疑問に思っていました。航空戦力よりずっと強力であっただろうソ連地上戦力をどうやって北欧の小国が押しとどめていたのだろう、と。
この本がその答えとなりました。
1939年11月から1940年3月まで戦い、領土の一部を失いながらも独立を維持したフィンランド。その戦い振りを陸・海・空の三面から綴ります。主に描かれるのは雪の森林を巧みに使ったゲリラ的な戦闘ですが、空でもフィンランド軍は善戦します。興味深いのはこの戦争でフィンランド独立戦争でも活躍したマンネルヘイム将軍が政治家たちよりもずっとずっと慎重論を唱え続けていたらしいこと。軍の最高司令官が戦争を避けるよう主張し、開戦してからも停戦の途を探り続けていたからこそ全面降伏は避けられたのだろう、と太平洋戦争での日本との違いを実感したのでした。
この本では冬戦争後の継続戦争まで解説するのだろう、と思って読み始めたのですがそちらは『流血の夏』として続篇が出ているようです。こちらも近々読んでみる予定。
とても興味深く読めた『雪中の奇跡』。読みやすさでは少し戸惑う部分もありましたが一息に最後まで読んでしまいました。この本が出版された1989年当時は他にソ芬戦争をしっかりと解説した本もなかったようで戦記ファンの間では金字塔的な著作となっているとか。その評価に違わない内容の濃い本であったと思います。同著者によるフィンランド空軍絡みの訳本もいくつかあるようです。
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