『ロボットとは何か 人の心を映す鏡』石黒浩
ロボットとは何か――人の心を映す鏡
石黒浩
講談社現代新書
777円
2009.11.19
★★★★☆
ぼくらは、アトムの子供さ。
面白かった。すごく。とっても。
工学的なロボットの本です。人型ロボット研究者の書いたもの。ロボビー、ワカマル、リプリーR1、リプリーQ2、ジェミノイド、子供ロボットCB2といった人型ロボット開発の経緯を綴ります。リプリーQ2やジェミノイド、CB2はテレビでも見たことのある人が多いのではないでしょうか。それぞれ画像検索してみると「ああ、これ!」と思い出されはず。ASIMOほどの知名度はないですが「不気味の谷」といったキーワードとともにそれなりに知られていると思います。
この本の中で著者は、バラバラの要素技術を開発するのではなく、ボディを持ったロボットの開発を通じてロボット開発に何が必要かということを追求していきます。人に似た外見の重要性、一定レベルを超えて似せたところで生じる「不気味の谷」、動きの中に見出す人間らしさ、プログラミングではなく人の手を借りて自律的に立ち上がり始める子供ロボット。そしてロボット開発の中で浮き彫りになっていくヒトの特徴。ロボットの研究から直面したのはヒトを理解することの難しさ。
「不気味の谷」という単語、聞いたことのある人が多いと思います。私もテレビで見知ってなんとなくわかった気になっていたのですが、大いに誤解していたことをこの本で知りました。不気味の谷の“谷”は文字通りの谷で、グラフとして縦軸に親近感、横軸にヒトとの類似度を取ったときに描くカーブの“谷”のことでした。言葉だとイメージが湧かないと思うので、ぜひこの本を読んでわかった!と叫んでみて下さい。グラフを見るのが一番簡単で直感的です。
この本で一番衝撃を受けたのは第6章の「ロボットと演劇」です。演出家・平田オリザの演出する劇にロボットを参加させたのですが平田オリザは
役者に心は必要ない
『ロボットとは何か』石黒浩 P.144
平田オリザの言葉として
と言い切ったそうです。たぶん、演出に忠実に“無心”で動けるのが良い役者で、ロボットはヒトのように自身の心に縛られないからこそ役を忠実にこなせるのだろうなと思ったのでした。ううむ。演劇って不思議だ。
同じことはおそらくアニメやCG物の映像にも言えるのではないかと思います。日本のアニメ、特にテレビアニメは絵がちっとも動きません。でも、見ている人は(アニメの出来が良ければ)そこにヒトを感じる。ヒトを感じさせる鍵がよくできたアニメには凝縮されているのでしょう。
ロボットという工学がそこに踏み込んできたというのは面白いなぁ、と思わされるエピソードでした。
研究の進展にともない、心って何? ヒトって何? と深まっていく疑問。整然とまとめられた研究の経過と著者のクソマジメな研究姿勢のよく伝わってくる文章。引き込まれるようにしてあっという間に読み終えてしまいました。「身体性」なんて格好の良い言葉にまとめると逆に胡散臭くなってしまうのですが、工学的な実直なアプローチから見えてくるロボットとヒトの科学。そんな部分に関心を持てる人にはとてもお勧めです。
読み終えた後にはなぜか『鉄腕アトム』を思い出しました。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント