『地球生命は自滅するのか?』ピーター・D・ウォード
地球生命は自滅するのか? ガイア仮説からメデア仮説へ
著:ピーター・D・ウォード 訳:長野敬+赤松眞紀
青土社
2010.1.19
2730円★★★☆☆
文章の読みづらい本でした。
でも刺激的で面白かった。
この本は副題の通りガイア仮説を廃し“メデア仮説”なるものを唱えようとするものです。ガイア仮説は環境問題とも絡んで「地球は生きている」みたいなイメージとして見聞きしたことのある人が多いのではないかと思います。寛容な母なる地球を私たち人類が台無しにしようとしている!みたいな。
この本で取り上げるのはそんな俗説と化したガイア仮説ではなく、自律的な恒常性システムを備えた地球物理学的な安定化装置としてのガイア仮説です。著者は自説をガイア仮説と対比させて、生命と地球は共進化してきた、なんてのんきな物ではなくいつだって生物は暴走して大絶滅・大虐殺を引き起こしてきたんだぞ、と主張します。その暴走して自滅しようとする特性を“メデア仮説”と名付け、ガイア的地球からメデア的地球へのパラダイム・シフトを提唱するのです。
これがとても面白い! エキサイティングでした。
ところが冒頭に書いたように文章がイマイチです。一つ一つの文を取り出してみるとおかしくないのですが、そのおかしくないはずの文章を読み進めていっても内容が頭に入ろうとしません。難しくないのにわかりづらいという微妙なことになっています。同じ著者の『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』もわかりづらい文章に苦しめられた記憶がありますし、『オウムガイの謎』も面白かったけれど表現には混乱させられた気もするのでそういう作風なのかも。
読んでいてSF的アイデアがぽろぽろ浮かんできたアタリの手応えでした。読みやすさの点で★ひとつ減してますが内容的には★★★★と1/2くらい出したかったです。
ただし。
この著者が唱えているメデア仮説そのものは見込みがあると思うのですが、根拠とした気温や二酸化炭素の変動データは恐らく今後大きく修正されるでしょうし、地球規模での炭素循環も現時点で頼りになる裏付けがあるとは思えません。著者自身で古気候の再現研究に携わったわけでもないようです。メデア仮説は今のところ数値的な裏付けのないパラダイム候補に過ぎないのだと思います。
その上で著者が書いているようにガイア仮説からメデア仮説へのパラダイム・シフトの可能性を感じました。恐らく、今後は母なるガイアに代わり「生命は資源を消費し尽くすまでのチキンレース」的な視点を元にした研究が増えてくるのでしょう。それを予感させるだけの力はありました。
多少の読みづらさには負けないという科学解説書ファンに強くオススメ。
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