『ロボット学論集』瀬名秀明
瀬名秀明ロボット学論集
瀬名秀明
勁草書房
2008.12.12
3150円
★★★★☆
ロボット物の創作を志している人は読んでおくべき本です。2008年刊なので技術動向に触れた本としては少し時間が経ってしまっていますが、今後のフォローのためにも「ロボットという思想」を概観するのに必要な一冊であるはず。
オレが好きなのスーパーロボットだもん関係ねーよ、とか思っているときっと既存のロボットアニメの形と名前を変えただけのものを作り続ける羽目になります。
SFとして取り組むのであれば現実のロボット開発を導くようなポスト・アトム、ポスト・ガンダムたらんとする何かが必要なのでしょう。この本はそこへの手がかりを与えてくれる気がします。学問向けの専門書ではなく、専門知識の必要ない本です。言葉はちょっと堅めですが。
前半は哲学に近い話、後半でテクノロジー動向にも触れられますがこれも思想面からのアプローチが中心となります。瀬名秀明が攻殻機動隊S.A.C.の脚本担当櫻井圭記やミステリ作家の法月綸太郎、デザイン論の鈴木一誌とした対談、大学で行われた瀬名秀明による講演、ロボット学関連の書籍に寄せた文章を集めたものです。あちこちの記事を集めたものであるために第Ⅰ部〜第Ⅲ部までと『岩波講座ロボット学』によせられた原稿の再録である第Ⅳ部には内容的に重複があります。全部を読むのは面倒臭い、という人は第Ⅳ部だけ目を通しておくのが手っ取り早いでしょう。でも対談も講演録も面白いですヨ。
哲学の話がたくさん出てきますが哲学書のような難しさはなく整理された瀬名秀明の言葉として紹介されるので心配無用。ヒトの模倣機械として作られるロボットはヒトにとっての世界の認識をも模倣せざるを得ないため、その部分を扱っている学問である哲学に触れずにいられないということのようです。
たくさんの刺激をもらった本書ですが、心にびんびん来たのは第Ⅲ部の第8章。SF小説史と境界知を絡めて語っていて瀬名秀明の創作に対する志みたいなものにワナビとしてはじーんと来ました。う〜ん。内容面ではあっちもこっちも紹介したくなって困ってしまいます。
読み終えて思ったのは『攻殻機動隊』の存在感がいかに大きいかということ。瀬名秀明がこの本の中でロボット開発の問題点として語ったもののかなりの部分は『攻殻機動隊』のコミックですでに見えていたもの。『攻殻機動隊』にしても描かれた当時のサイボーグ論的なものの寄せ集めであって完全にオリジナルなアイデアや問題提起の塊であるわけもないのですが、ロボットとヒトの問題点もすでにこの時点で明確になり、ひとつのお話の中にまとめられていたわけでロボット研究者にとって象徴的な存在なのだろうと思えました。ポスト・アトムは『攻殻』ではないだろうか、と。
私だったらどんなロボットが欲しいかな。
CLAMPの『ちょびっツ』という漫画に出てきた“すもも”みたいな小人サイズが好ましいかな。等身大のは怖い気がします。
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