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『スワロウテイル人工少女販売処』籘真千歳

スワロウテイル人工少女販売処
籘真千歳
ハヤカワ文庫JA
2010.6.30
945円

★★★★☆

 のんびり読むつもりでしたが一気に読んでしまいました。面白かった。

 ミステリ仕立てのSF。「種のアポトーシス」なる現象を封じ込めるために作られた隔離地区での連続殺人を追うお話。裏表紙の「あらすじ」は読まない方がいいかも。かなーり読み進めないと判明しないことが書かれちゃってます。
 ミステリ仕立て、とは書きましたが本格風ではなくて殺人事件の謎を解こうと動き回る登場人物たちの人間模様がお話のメインです。SF的ガジェットがふんだんに投入されデテールたっぷりに作り込まれた世界観は魅力。複雑に絡んだプロット。そして描かれるのはヒロイン・揚羽。ひたすら揚羽。とにかく揚羽。
 実は「揚羽可愛い」というキャラクター小説だったのでした。
 ライトノベルというほどライトノベル的ではありませんが、キャラクター描写に注力されていて「マルドゥック・スクランブル」シリーズ「星界の紋章」シリーズなどが好きな方には楽しめるような気がします。

 不満を挙げるとすればまずは文章。リズム感の良い読みやすい文章ではあるものの単語の誤用や複数の慣用句をごっちゃにしてしまったような表現が散見されました。文責はもちろん著者に帰されるものですが、編集者のチェックが甘いようにも思えます。多用されるフリガナの組版ももっと工夫しようよ、と思うことしきり。投入されているイメージは「銃夢」や「攻殻機動隊」「ARIA」を連想してしまって全体に「どこかで見た」印象を受けたのも惜しかった。キーとなる「種のアポトーシス」の症状解説もないまま話がずんずん進んでいくのも「なんのお話だっけ」という混乱に繋がったかも。

 文句は並べてしまいましたが揚羽というキャラクターを描いた話として好印象でした。ライトノベルレーベルのようなタイプの萌えは用意されないものの十二分に魅力的なヒロインであったように思います。超特大フライホイール、人工生命、人工知能、地下好熱菌、太陽系探査と個々のギミックも良いネタが投入されていました。
 ふと思ったのですが、このお話に出てくる人工妖精たちってカレル・チャペックの『ロボット R.U.R.』に登場するタイプのロボットなんですね。うまく表現できないですが感慨を覚えました。種のアポトーシスの設定も近いと言えば近い。現代のR.U.Rを目指した話だったのかも知れません。

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