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『ロボットという思想』浅田稔

ロボットという思想~脳と知能の謎に挑む
浅田稔
NHKブックス
2010.6.29
998円

★★★☆☆

 テレビなどで赤ちゃんみたいなロボットの研究紹介を見たことはありませんか。赤ん坊を立ち上がらせるかのように子供ロボットを手助けして立たせてやる。ぱっと見には「これがロボットの研究なの?」と首を傾げてしまう光景ですが、今回読んだこの『ロボットという思想』ではそんな赤ちゃんロボットや胎児ロボの紹介を通じて身体性をテーマにロボット開発の最前線を紹介します。

 面白そう、ではあったのですが読んでいてピンと来ないことが多かったです。「なぜロボット研究なの?」という点。理由は色々並びます。ですが一番重要そうな「ロボット開発を通じて人を知る」というのが引っかかってしまいました。以前『ロボットとは何か』を読んだときには「確かにそうだ!」と感じられたこの理由も先日『科学哲学』を読んだからでしょうか、ロボット開発が本当に人を知るということにはならないように思えてきました。

 ブラックボックスの関数y=f(x)があります。入力xに対して出力yが出ます。そしてもう一つ内容のわかっている関数g(x)があります。この関数も入力xに対して出力yが出ます。少なくとも試してみた範囲ではf(x)=g(x)に見えました。
 では、このf(x)とg(x)は本当に中身まで同じと言えるでしょうか。
 No。
 内部ロジックの一致を示すためには入出力が一致するというだけでは足りないのです。そしてこの本で紹介されていた「人を模倣したロボット」の研究も似た結果が得られたというだけでヒトの知能の仕組を明かしてくれたわけではありません。もっともらしい仮説の一つが、一応ヒト(の部分)と似た機能を果たす、ことを示しているだけです。

 だからといってこの本がダメなわけではありません。分子運動による熱力学の説明も、原子物理学も本当の分子運動や原子の構造を直接に観測したわけではない、モデル仮説に過ぎないからです。そしてモデル仮説に沿ってなされた「予測」が見事に的中する。予測と事実に食い違いが生まれない限りは仮説は有効です。同じようにヒトの機能が工学的に模倣できれば良い。人工知能分野で定番の「チューリングテスト」もそういう考え方です。判別できなければおっけー。

 とはいえ、やっぱりすっきりしないのも事実。知能について学者がモデルを立て、モデルに沿ったメカニズムを実際に組んでみて思惑通り動けばそのモデルは合格。……本当に合格でいいの?と。そんなことを考えさせられた一冊でした。

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