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アニメ映画:借りぐらしのアリエッティ

 遅ればせながら見てきました。『借りぐらしのアリエッティ』。新宿バルト9にて。

 楽しかった。
 『トトロ』や『紅の豚』ほど夢中にさせてはくれなかったとはいえジブリ映画が小人を描いてくれたというだけでも嬉しい。
 小人を描く、ということはヒトと小人の大きさの対比もあるけれど、小人の大きさならではの物理法則も現れるわけで。特に顕著になるのが液体。コップの中の水がとろんとしているのも、体についた水滴が払い落とせるのも涙がまん丸の玉になるのも小人の大きさだから。ちびっこたちはこれをどう思ったろう。「アニメだから」で当たり前に見えてしまっただろうか。将来、高校へ進んで物理を習ったときにスケーリング則を学んで「あ、これアリエッティ!」とわかってくれるだろうか。欲を言えば、体が温まりやすい/冷えやすいことや、小さな体の生き物は相対的に力持ちであるところを見せて欲しかったし、同じ理由でしょっちゅうゴハンが必要な可能性が高かったりするあたりも。
 十分に頑張っているのも確かで、ガサツなヒトが小人たちの生活を脅かすズドドドドドーンなシーンはとても面白かった。ヒトと小人のスケールの違いを表すために凝らされた演出も地味ながら効果的だったと思う。
 もっともこのあたりの小人ならではの物理法則に関しては原作『床下の小人たち』のメアリ・ノートンよりも 『だれも知らない小さな国』の佐藤さとるの方がセンスがあったようで、ジブリの小人描写もどちらかというと佐藤さとるに影響を受けていそう。
 拙作の小人童話『ティントーヌウガーミ』でもスケーリング則表現は頑張ったつもりですが、ジブリアニメの方が明らかに生き生きしててボロ負けだなぁ、とがっくり。

 ストーリーに関しては、舞台を日本に移してヒト側の設定を大きく変えたこともあって原作の面影は薄めです。ヒトのそばで暮らしながらヒトを避けるということの実感が薄く、アリエッティの失敗の重さは共感しづらかった。翔の親切が空回りしてしまっているのも理解はできたものの翔の気持ちを実感するまでには至りませんでした。惜しい。
 翔の抱える病気や問題も基本アリエッティ視点で話が進むため、いきなり翔が「滅び」を語りはじめる部分にはびっくり。小さな視聴者たちはあの部分、ついて来れたのかな。客席の子供たちは集中を切らしてざわざわすることもなかったのでOKなのかな。翔に関してはキャラ自体の印象が弱くて最後のシーンにあまり説得力を感じなかったです。
 一点だけ「異議あり!」と強く言いたいのは猫のニーヤ。ジブリアニメの伝統で猫にファンタジーを含ませたかったのだろうけれど、今回に限っては物わかりの良いヒト的な思考をする猫キャラにしてはいけない話であったと思います。小人が築いてきた生き抜くための“掟”の大切さと“掟”を逸脱したくなるような情の葛藤をアリエッティと翔の間に描いた(描こうとした)のに、小人が天敵そのものの猫と通じ合えてしまうのは「ヒトと小人が仲良く暮らす」甘いストーリーに改変してしまうのと大差がありません。小さなシーンが全体を否定してしまうもったいない部分でした。

 デテール描写やジブリらしい絵と動きには大満足。ストーリーは『木陰の家の小人たち』か『だれも知らない小さな国』のような国産物語をベースにした方が良かった気がします。特にスケーリング則や小人の論理というものを強く出したいなら佐藤さとるのコロボックルシリーズの方が向いていたのではないかと思ったのでした。

 『アリエッティ』とは関係ないですが、惜しいどころでなく残念だったのは映画館。画質イマイチ、音も低音ドンドコが変な部分で発揮されていてバランスが悪い上に高音ひずみまくり。音量も大きすぎ。素敵な音楽が台無しでした。スクリーンのピントも怪しく映写室の窓ガラスも汚れ放題。どこの映画館も似たり寄ったりなので“そんなもの”なのでしょうか、悲しくなります。今時のプラズマテレビとBlu-rayで見る方がよほどしゃっきりくっきり。

 そうそう。以前に見られなくて悔しい思いをしていたNHKのアリエッティ制作ドキュメンタリ「ジブリ創作のヒミツ 宮崎駿と新人監督葛藤の400日」の再放送が8/21にあって、見てみました。むぅ。映像面では文句はなかったのでドキュメンタリの中心であった作画よりもシナリオ作成の部分が見たかったんだけどな。『Cut』2010年 09月号のようなインタビュー誌にもアリエッティ特集が組まれていました。『MOE』2010年 09月号
『キネマ旬報』2010年 8/1号にも特集が組まれていて、この中では『Cut』が一番読み応えがあった気がします。

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