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『スコペロ』カサハラテツロー



スコペロ 全三巻
カサハラテツロー
メディアファクトリー

★★★☆☆

 カサハラテツローは百合漫画誌『つぼみ』に掲載されていたロボット物で知り、他にはどんな話を書いているのだろうと読んでみました。メカメカしい作風の作者になぜ百合漫画誌から声がかかったのか納得。

 『スコペロ』はスペースコロニー丸ごとが学校という舞台に赴任してきたダメ教師と無重力スポーツ・カプセルボール少女たちの話。一巻はほとんど舞台説明とメインキャラ紹介、二巻の半ば近くになって本格的にカプセルボールが描かれはじめます。そして三巻に入ると展開急加速。ヒロイン・サキの抱えた問題点が少しばかり急ぎ足でクリアされていきます。まとまり方に唐突さはなく、当初単にエキセントリックで嫌なやつっぽかった主人公の教師・文平にも共感を持てる締めくくりとなるのですが、もったいないなあ、というのが三冊通して読んだ感想でした。カプセルボールパートだけで五巻分くらいはスポコン話作れそうながっちりした設定なのにー。

 SF設定は突飛ではないリアル系でオリジナリティも高いです。監修にSF界では馴染みのある福江純。こういうガッチリしたSF背景のお話を作ってくる漫画家は今では稀少かも。サイバーパンクやバイオテクノロジーネタはどこでも見かけるようになりましたが、『スコペロ』のように低重力環境や人工重力環境を舞台として有効に活用した漫画は少ない気がします。
 作中には少女いっぱいで際どいアングルの萌え構図?やサービスシーン(お色気というわけではないけれど)もあるのですが、主人公教師のアクの強さとSFの香り、ギャグ調のキャラの振る舞いと描き込まれた絵柄に萌えよりも“濃い”印象が先に立ちました。

 カプセルボールは長編シリーズ化していればさらに深く広く展開させることができたのではないかと思います。例えば、変化球を活用するとか。
 無重力球技では恐らく変化球のバリエーションが増えます。ボールの自転と飛行速度のバランスによって起こされる空力効果が歳差運動とジャイロ効果を伴ってまっすぐに飛んでいたものが急に曲がったり、曲がりはじめてからさらに螺旋に近い動きをしたり、球場の壁による地面効果を併発したりするはず。これは上級者が投げる特殊なブーメランの軌跡が参考になるはず。最初は緩やかに螺旋上昇し、途中から急角度での上昇に転じ、最高点で宙返りをし、逆の弧を描いたり8の字を描いたりしながら降下してくるなんてのがあります。ボールの密度分布も不均一にすると面白い飛び方をするポイントが見つかるはず。空力のボールへの影響が強くなりそうなので、人の移動した軌跡にボールを通すことで変化を呼んだりもできそう。

 SF設定がイイ!と思った半面、読む人を選びそうにも思えました。ゴツゴツしたSFがお好みの人にはお勧め。一読するとハマる人もけっこういるはず。上で『つぼみ』云々と書きましたが、脇役に百合設定自体はあるもののあくまで背景。百合方面の期待はしない方が良いです。

 作者は『RIDEBACK』というシリーズで近未来バイクロボ+学生運動のお話も描いている模様。アニメ化もされています。▷公式サイト。また、年明けからコミック@バンチにてザッドランナーなるマシン・スポーツ物を連載する予定のようです。

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